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Azure Stack は Microsoft が目指した Azure の完成形ではないか

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先週、なかなかに刺激的なタイトルの記事が流れておりました。

ついに秘密兵器をリリース! マイクロソフト、クラウド戦争で形勢逆転を狙う

Azure Stack というのは、クラウドで提供している Azure をまるごとオンプレミス用にも提供します、ということです。Azure Stack 自体は一昨年くらいからプレビューが公開されたりしていて新規性はそれほどありませんが、今回新しいのは、デルやレノボが Azure Stack をあらかじめサーバーに搭載してオールインワンで提供するというところです。一見最近流行のハイパーコンバージドシステムにも見えますが、何が「秘密兵器」なのでしょうか?

computer_server.pngAzure Stack は Azure の完成形

Azure Stack に新規性はそれほど無い、と書きましたが、言ってみればこの形態は Microsoft が Azure を発表したときに目指した形では無かったかと思うのです。Microsoft は先行する Amazon や Google の後を追ってクラウドに参入しましたが、当初はクラウドにあまり乗り気では無かったのではないかと思います。それは、既にオンプレミス(顧客の社内システム)で十分ビジネスになっていたからで、他社が先行するクラウド(売上金額が落ちると考えられた)に慌てて参入しなくても良い、という考えがあったのでは無いかと思うからです。IBM にしても Oracle にしても、当時オンプレミスに顧客ベースを持っていた企業は皆、クラウドへの参入には慎重でした。

しかし、時代はクラウドへ動き、参入しないわけに行かなくなったときに、Microsoft は自社にしかできないクラウドを出してきました。オンプレミスの Windows Server とシームレスに統合できるクラウド環境です。これならば、それまでの顧客資産を有効に活かしながらクラウドに移行することができます。これは、オンプレミスにベースを持たない Amazon や Google にはできない芸当です。さらに、オンプレミスのクライアント環境は(当時はまだ)Windows です。Microsoft だけが、オンプレミスのクライアントとサーバー、そしてクラウドを同じ技術で統合できる立場に居たわけです。Azure は最初からオンプレミスとパブリッククラウドを統合するハイブリッドクラウドを目指していたのだろうと思います。

Azure の実態はクラウド対応の Windows Server だったのだろうと思うのですが、統合は意外に大変だったようで、やっと当初目指した形が実現できた、ということでは無いでしょうか。

Azure Stack Integrated System はハイパーコンバージドでは無い?

今回ハードウェアベンダーが出してきた統合システムは、一見ハイパーコンバージドシステムに見えますが、Microsoft はハイパーコンバージドとは言っていないようです。その代わりに Microsoft は、「ハイブリッドクラウドプラットフォーム製品」と呼んでいます。Microsoft がこの名前を付けたところに、「ハイパーコンバージドとは違うのだ」という思いを感じます。

ハイパーコンバージドの私の理解は、「ハードウェア的にはサーバーとストレージ、ネットワークなどをすべて1台の筐体に収め、ソフトウェア的には仮想化基盤とミドルウェアなどをオールインワンで提供するアプライアンス」ということですが、Azure Stack はさらにその先を行き、パブリッククラウドである Azure との統合が既になされている、という意味で「ハイブリッドクラウドプラットフォーム製品」という言葉を使っているのでは無いでしょうか。

また、今回発表された製品はデルEMC、レノボ、ヒューレット・パッカード・エンタープライズから発売されますが、こういったハードウェアベンダーとのパートナーシップもまた、Microsoft ならではと言うことができます。Microsoft はハードウェアベンダーと競合せず、パートナーシップを大切にしてきました。IBM には自社サーバーがありますし、Oracle もハードウェアベンダーになってしまいました。Amazon や Google はハードウェアベンダーの敵です ^^;

唯一無二のポジションを獲得した Microsoft

こうして、今の Microsoft は他社との差別化という意味において良いポジションを獲得できたと思います。ただ、Azure と Windows の統合には思ったより時間がかかりましたね。その間にコンシューマ向けのクライアントは PC からモバイルデバイスに一気にシフトしてしまいました。企業クライアントにまだ Windows が残っている間にハイブリッド環境を完成できたのは、ギリギリセーフだったというところではないでしょうか。

Microsoft にひとつ掛けているピースがあるとすれば、それはスマホです。Windows Phone は結局うまくいっていません。これには Microsoft 特有の UI/UX 音痴があると思うのですが、その話はまた別途。

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