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ブロックチェーンの衝撃

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塾でブロックチェーンを紹介するので調べていたのですが、この技術、私が当初考えていたよりも、ものすごいインパクトを持ったもののようです。

ブロックチェーンについては、昨年くらいからあちこちで聞くようになっていましたが、私も「ああ、ビットコインのことね」くらいにしか思っていなかったのですが、これ、ひょっとすると世界を変えるテクノロジーになるのかも知れません。何故そう思うのか、これから書きますが、一言でいうと「世の中に存在する仲介業務を無くしてしまうかもしれない」ということです。仲介業務というのは、例えば証券会社が株券の取引を仲介する、銀行を通じて送金や決済を行うなどです。このほか、行政が現在担っている様々な機能も、この技術によって代替することができるかもしれません。

経産省のFinTech研究会の議事要旨に、ブロックチェーンを「インターネットの登場、Googeの登場と同等の重要性を持つ」と記されています。(この3つを同列に扱うのは、私にはちょっと違和感がありますが、まあ、そのくらいのインパクトがあるということを言いたいのでしょう。。)

ブロックチェーンは元々、仮想通貨ビットコインの取引の仕組みとして考え出されました。ビットコインはサトシナカモトという謎の人物 (最近、正体がわかったようですが、日本人ではなかったようです) が書いた論文を実装した仮想通貨ですが、仮想通貨の信頼を担保する仕組みがブロックチェーンで、ブロックチェーンの仕組みの上に実現した仮想通貨がビットコインなのです。当初はこの2つは一体でしたが、ブロックチェーンという仕組み自体に革新性があるということがわかり、世界中で今、ブロックチェーンの研究が進んでいます。ビットコイン自体も、いろいろ悪いイメージがついてしまっていますが、ますます普及が進んでおり、これからも有望と見られています。この話は別の機会にしたいと思います。

ブロックチェーンの代表的な例としてビットコインを見てみましょう。

ビットコインを通常の通貨と比べた場合の特徴は「権威の裏付けの無い信頼の担保を実現したこと」「取引記録が透明で改ざんできないこと」「取引システムが止らないこと」と言われています。最初が一番重要で、あとの2つはそれを担保するための仕組みが整っていることを示しています。

160312bitcoin2.png信頼の担保というのはわかりにくいのですが、今の所良い言葉が浮かばないので、これを使います。例えば、AさんからBさんに1万円を支払う場合、一番良いのは会って手渡すことですが、それができない場合、方法はいくつかりますが、一般的なのは銀行などを使うことでしょう。この場合、Aさんが銀行にお金を預けた上で、Bさんの口座に振り込んで欲しい旨を銀行に依頼し、銀行が責任を持って振込を行う、ということになります。このとき、実際にお金が動くわけでは無く、通常の残高が更新されます。つまり、物理的な送金ではなく、情報処理ですね。金融業は巨大な情報処理システムなのです。

銀行を使わないで現金書留や人(Cさん)に頼んでお金を送る場合、Aさんは「送った」と言っているのにBさんが「受け取っていない」と言ったり、Cさんがお金を持ち逃げしたりすると、トラブルになる可能性があります。つまりこの場合、AさんもBさんも「銀行」という第3者を信頼しており、銀行もその信頼に応えているため、取引が成り立ちます。これが信頼が担保されている状態です。万一銀行が破綻したりすると、この信頼は裏切られ、送金はうまくいかないかもしれませんが、それはほとんど起こらないという前提で取引をしているわけです。

しかし、銀行はこの「信頼」を勝ち得るために、様々な努力を行う必要があります。振込忘れや、金額の間違いが起こらないように、記録を残し、信頼できる従業員を雇い、システムが確実に動作するよう、決済のためのコンピュータを二重化したり、データを改ざんされないようセキュリティを強化したりするために、何千億円もの投資をしなければなりません。これらのコストは手数料という形で利用者が負担することになります。

これに対し、ビットコインは、多数の参加者が互いにネットワークでフラットに繋がったP2Pネットワークが基本です。だれかが取引を監視しているわけでも無く、管理もされておらず、誰かが責任を持っているわけでもありません。しかし、信頼は担保されているのです。この、誰も管理せず、責任も持っていないのに信頼が担保されるということが革新的なのです。

そして、ビットコインを使った送金の手数料はゼロです。厳密に言えば、各参加者がコンピュータのリソースを提供していますから、その部分にコストはかかっているわけですが、事実上ゼロとかほぼゼロといった言い方をします。ここでは簡素化して書いていますが、現実にはビットコインは信頼担保のために様々な仕組みを持っており、それらが一体となって信頼性を確保しています。

ビットコインは、特定の国家の信用を裏付けに持たない仮想通貨です。通常、通貨というものは国家がその価値を保証しており、そのような保証を持たない仮想通貨は機能しないと考えられてきました。しかし、ビットコインは7年間に渡って、一度も止ること無く機能し続けており、破綻も無く、その価値は (増減はあれ) 増えています。それは、ブロックチェーンが有効に機能していることを示しています。この「実績」があるため、ブロックチェーンの仕組みが注目され、ビットコイン以外の仮想通貨を含む、様々な活用法が模索されているのです。

例えば仮想通貨が十分な信頼性を持ち、コストゼロの国際間取引を可能にでき、それが広く受け入れられた場合、国際送金において銀行は必要無くなるかもしれません。(すでにビットコインはこれに近いところまで行っていますが、まだ「広く」というわけではないですね) あるいは、現在証券会社を介して売買している株式なども、個人間で決済できれば、証券会社や取引所は不要になるかも知れないのです。

しかし一方で、ビットコインなどの仕組みにまだ改善の余地があることも事実です。金融業界がブロックチェーンに取り組むのは、新しい仕組みの中で、どのように生き残っていくかを考えるためでもあるのでは無いでしょうか。

そして、銀行や証券会社以外にも、取引を仲介して利益を得ている組織というのは沢山存在します。これら全てが、必要無くなり、究極の中抜きが起こるかもしれません。現実世界のビジネスシステムに後半に影響を与える可能性があるわけです。情報の流れを自由化したインターネットに対し、いわば「信用」を自由化することに繋がると考えられているわけで、インターネット以来の革新というのは大げさではないと思います。既存の社会システムに与えるインパクトは、インターネットよりも大きいのでは無いでしょうか。(まあ、インターネットが無ければブロックチェーンも機能しないので、比べる問題では無いのでしょうが)

日本では取引所の破綻などがあり、ビットコインに悪いイメージがついてしまいましたが、これは言ってみれば既存の金融システムにおいて1つの銀行が破綻したようなものであり、システム全体の信頼性を云々するようなことでは無いと言われています。

長くなってしまいました。「取引記録が透明で改ざんできないこと」「取引システムが止らないこと」については、別途書いていこうと思います。

最後に、ビットコインについては、2年前に野口悠紀雄さんが本を出されています。ビットコインの仕組みや可能性について詳しく知りたい方にはお薦めです。

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