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iPhone6が狙うマーケット

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大方の予想通り (笑)、iPhone6が発表されました。私の願いもむなしく、大画面化してしまいましたが、それも含め、「今回の発表はわくわくしなかった」「サプライズが無かった」などという感想がネットでも大勢のようです。

でも、それはある意味仕方ないですよね。だって、これだけ事前に情報が出回っていれば、驚きが無いのは当然です。昔は発表前に一切の情報は出てきませんでした。だからこそ、当日の驚きがあったわけで、これはJobsの狙い通りだったわけでしょう。「怖いおじさん」が居なくなった今、あちこちからダダ漏れに情報が漏れてきてしまっただけの話でしょう。それに、これ以上スマホに載せる機能なんて、そうそう無いんじゃないでしょうか。

それを割り引いて考えれば、今回もAppleは普通に頑張っていると思います。あちこちで「正常進化」という意見が聞かれますが、まさに、今できることを地道に積み上げた感じでしょうね。大画面化も、競合を考えればある意味仕方がない。Jobsが居れば「あくまでも我が道を行く」ことも、あるいはできたかも知れませんが、スマホ市場がここまで成熟してくると、それも難しいかも知れません。

元々iPhoneって、その時点での最新テクノロジーを採用したデバイスでは無かったのです。最初のiPhoneが出た2007年は、日本ではもう3G全盛でしたが、2GのGSMしかサポートしていませんでした。枯れた技術や部品を使って安定した低コストなハードウェアを作り、差別化はソフトウェアとサービス(iTunes)というのが最初のiPhoneでしたし、その後も3GSくらいまではそんな感じでした。金回りが良くなってから、独自のハードウェアを盛り込んで来ましたが、それはいつでも「必要があって」搭載されたものだったと思います。競合が載せたからうちも載せる、というのではなく、「この機能をサポートすればこういうサービスが可能になる、それならば載せよう」といったように、常にサービスのイメージが先にあり、使い道が明確な機能のみを載せてきているのです。OS開発とHW開発の主体が異なるAndroidには苦手な部分でしょう。

他社が載せている部品を単に載せるだけなら、簡単です。しかし、全体のサービスイメージを徹底的に考え抜いた上でなければ、ただコストを引き上げるだけの結果になってしまいます。Appleは、Jobs亡き後でもこの基本は忠実に守っているように思います。もうひとつの拘りが質感とデザインですよね。これも今回きちんと踏襲されています。

今回のiPhone6で個人的に注目しているのは、M8というモーション・コプロセッサです。iPhone5SですでにM7が搭載されていますが、これは加速度センサー・ジャイロスコープ・電子コンパスと連携してiPhoneの「動き」に関するデータを収集します。M8ではそれに加え、気圧や、脈拍・血圧などの生体情報も取り扱えると言うことです。iOS8で新たにサポートされるHealthというアプリで、それらのデータを総合的に管理し、健康管理に役立てることができます。でも、iPhoneでは血圧や脈拍は測れませんよね?そこで意味を持つのが、今回同時に発表されたApple Watchということなのでしょう。

さらに、AppleはHealthkitというフレームワークを用意して、この機能をサードパーティにも開放します。Healthkitでは、身長、体重、体脂肪、歩数、心拍数、血圧、呼吸数、摂取カロリー、消費カロリー、飲食物の栄養素などの情報を取り扱うことができます。様々な健康機器がHealthkitを使ってiPhoneと連携すれば、iPhoneはヘルスケア情報のハブとなるでしょう。つまりAppleは、デバイス単体としてのiPhone6の機能向上を追求するよりも、もっと大きい、ヘルスケア情報を取り扱うプラットフォームの核としてiPhoneを位置づけていこうという戦略なのではないでしょうか。

ついでですが、新しいウェアラブルデバイスがiWatchでは無く、Apple Watchとブランディングされたことにも、多分大きな意味が隠されていると思います。それが何かはまだわかりませんが、少なくともこのブランディングについては事前にはリークされておらず、今回最大のサプライズであったとは言えるでしょう。

(2014.9.10追記)

「iWatchは誰かが商標登録してたんでは?」というご指摘を頂きました。確かにその可能性もありますね。大人って嫌。

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