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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

日本酒造りにディープラーニング――データ準備コストは?

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ITに強いビジネスライターの森川です。

ITmediaエンタープライズの"日本酒造りにディープラーニング 岩手の銘酒「南部美人」の挑戦" という記事を興味深く読みました。

ひと言で言うと、杜氏の技術をAIに置き換えていこうというものです。ただし、酒造りには味覚や嗅覚が重要です。これらのセンサーがまだ発達していないので、今のところ置き換えられる工程は「浸漬」のみ。ただし、酒造りにおいてはかなり重要な工程です。

酒造りのIT活用といえば「獺祭」の旭酒造が有名ですが、杜氏をAIに置き換えるものではなく、ITによる徹底した品質管理で杜氏自体をなくそうという発想です。

日本同様中小企業が多く、熟練工がもの作りの鍵を握っているドイツ。そのドイツが国策として推進している「インダストリー 4.0」では、その施策の1つに、熟練工の技術をAIに継承することが挙げられています。日本でもようやくそのような事例が出てきたということでしょう。

仕事がらAIやIoTなどに関心のある私には、読み応えのある記事でした。

ただ1点、「これを知りたかったのに」ということがありました。

ディープラーニングには大量の学習データが必要だが、それはどうしているのか?――ということです。

学習モデルを作るのにもお金は掛かりますが、ITインフラ(AI構築のためのライブラリやAPI、開発プラットフォーム、サーバー、ストレージなど)はクラウドで調達できるようになったので、以前ほどコストがかからなくなりました。

しかしディープラーニングに必要なデータを1から自社で作っていたら、ものすごいコストがかかります。

AIのクラウド化が進んでいるにも関わらず、多くの企業がAI導入に二の足を踏んでいる大きな理由の1つは、データを準備するコストがかかるからなのです。

帝国データバンクが公開している「清酒メーカーの経営実態調査」を見ると分かるように、清酒メーカーはトップの白鶴酒造でも年間売上高が約350億円です。記事で取り上げられていた「南部美人」は有名なお酒ですが、蔵元は売上ランキングの20位までに入っていません。

南部美人のサイトでは売上高を公開していませんでしたが、20位の清洲櫻釀造が35億円ですから、それよりは小さいということになります。まさに中小企業です。

AIプラットフォームは基本的にクラウドで調達したのでしょう。では、データは?

  

記事には、以下の記述があります。

お米の割れ方も含め、画像として残したデータをディープラーニングで学習しているところです。

ディープラーニングに関する情報はこれぐらいしかないので断定はできませんが、これはおそらく「転移学習」を行っているのだと推測できます。

「転移学習」という言葉は聞き慣れないものかもしれません。私は先月、日本でも有数と思われるデータサイエンティスト2人に取材することがあって、その際に教えてもらいました。

画像認識はディープラーニングの得意とするところで、有名な事例に「Googleの猫」があります。ただし、大量のデータが必要になります。

ところが、汎用的な画像認識を学習済みのAIに、ある業界に特化したデータを与えて学習させると、比較的少量のデータでもその業界に特化した画像認識ができるようになると言うのです。

このような学習方法を転移学習といい、データ準備コストが極めて小さくなるというメリットがあります。取材したデータサイエンティストは「このような手法があることがもっと知られるようになれば、AIの普及が進むはずだ」と熱く語っていました。

実際に転移学習を行っているのかは分かりませんが、南部美人の記事で、どうやってデータ準備コストを抑えているかを書いてくれていたら、多くの中小企業経営者の参考になったのではないでしょうか。

まあ、行動力のある経営者は、直接岩手まで行って聞いてくるのでしょうけれど。


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