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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

AI時代に生き残るために今もっともお勧めしたい本

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AIに仕事を奪われる? そんなことを心配しているのなら、至急読んでほしい本です。

自分は大丈夫と思っている人もぜひ。


ITに強いビジネスライターの森川滋之です。友人である「ラテラルシンキングトレーナー」の木村尚義さんが新刊を送ってくださったので、ご紹介したいと思います。

「わか者、ばか者、よそ者」はいちばん役に立つ AI時代の創造的思考」(三省堂書店)という本です。

●AI関係の記述は読み飛ばしてほしい

基本的には推薦するのですが、まずネガティブなことを書きます。

「はじめに」に書いてあるAI関係の歴史については、ちょっと見過ごせないレベルの誤解があります。細かい指摘をするとキリがないので、1つだけ大きなことを指摘しておくと、「過去3回」のAIブームがあったかのように書いてありますが、実際には「現在が3回目のブーム」だと指摘しておけば十分でしょう。

ですので、AIそのものの知識を得るにはふさわしくない本だと言っておきます。僕の想像ですが、AIを調べているとIoTのこともいろいろと出てきます。調べているうちにAIとIoTの歴史がごっちゃになってしまったのでしょう。

ネガティブな話から書いた理由は、これが「はじめに」だったからです。書店で本を買うときに「はじめに」を読む人は多いのではないでしょうか? で、AIに関する知識を持つ人は、「はじめに」を読んでがっかりして買うのをやめる可能性が高いと思ったのです。

しかし、これでやめるのはもったいない。特にAIに仕事を奪われるのではというようなことを心配している人であれば、本当にもったいない。あるいはAI時代にどうやったら儲けることができるのかと考えている人にももったいない。

どうかP5の6行目からP13の4行目まではスルーしてください。本文のAI関係の文章も鵜呑みにしないでください(全部が間違いではないのですが、細かいレベルの誤解が多いのです)。それ以外は本当に価値のあることが書いてあります。

あと出版社はIT関係の文章に関しては「専門家」の校閲を通してください。天下の三省堂書店があまりにお粗末です。

● 生き残るための方法論が分かる

ですが、AI関連の間違いなどどうでもいい。よく熟れた果物と一緒で、傷んだところは取り除いて食べればいい。果実は本当に甘いのです。

さすがはラテラルシンキングの日本における第一人者のひとりだけあって、AI時代に生き残るための本質をズバリと書いています。

オルタナティブ・ブログの読者なら、あの<Joi伊藤>が出した『9プリンシパル』(ジェフ・ハウ氏との共著)をご存じの方も多いでしょう。これも、AI時代を生き残るための(9つの)原則をまとめた本です。実に面白く、示唆に富んだ本です。

ただ原則について書かれていますが、どうしたらその原則を身につけられるかという方法論についてはほとんど書かれていません。事例から自分で学べという趣旨と思われます。

その点、『「わか者、ばか者、よそ者」はいちばん役に立つ』は方法論がメインです。

「第4章 創造的思考の10法則」と「第5章 AI時代の創造的思考」を熟読し、見出しを箇条書きにして座右に張り、アイデアを出すときには参照してください。

それだけでAIは怖いものではなく、少なくともあなたの成功を邪魔するものではなくなるはずです。そういう価値を持つ本なのです。

● 持たざる者こそ希望がある

本書は希望の本でもあります。

「わか者、ばか者、よそ者」とは、言い換えると「欠けている人」です。欠けている人ほど、これからは活躍の場があると主張しています。

「わか者」は、経験と知識が欠けている人のことです。年齢は関係ありません。

「ばか者」は、リスクに対する恐れが欠けている人です。頭の良し悪しは関係ありません。

「よそ者」は、共同体の常識が欠けている人です。別の専門領域から来た人と言い換えることもできます。

この中でも「わか者」が活躍できるという「事実」に、僕は希望を感じます。

『9プリンシパル』にもこんな例が出ていました。「7 能力より多様性」の「フォールドイット・ヴォイドクラッシャーズグループ」の話です。レトロウィルスの使う酵素の構造マッピングにビデオゲームプレーヤーの集合体が貢献したというのです。とりわけ印象的な箇所を引用します。

また一部はーーしばしば「高卒のおばあちゃん」だとポポヴィッチは言うーー特別な社会能力を発揮する。「人々のこだわりを解くのが上手なんです。みんなが別の形で問題にアプローチできるようにする」。巨大製薬会社で、学歴の低いおばあちゃんを雇う必要を予想したところがあるだろうか?

これは(「おばあちゃん」ですが)「わか者」が役に立つという事例です。希望を感じませんか?

安穏としている人が一番危ない

これからは、役に立たないと思われていた人が活躍し、「自分は大丈夫」と安穏としている人は逆に危ない時代です。

たとえばアメリカの金融業界は、いつの間にかITエンジニアだらけになっています。

米国のフィンテックにおける人工知能の活用」というレポートのゴールドマン・サックスの事例を見てください(P9)。

Goldman Sachs 社のニューヨーク本社では、2000 年時には600 人のトレーダーが大口顧客の注文を受けて株式の売買を行っていたが、現在残っているトレーダーはわずか 2 人で、日々の取引作業は 200 人のコンピューターエンジニアが運用する自動取引プログラムに置き換えられている

日本ではこれほどのリストラは難しいのかもしれませんが、しかし「背に腹は変えられない」状況になれば分かりません。「自分は金融の知識があるから」では、金融業界で生き残れない時代になる可能性が非常に高いのです。

とはいえ、専門知識は重要です。専門知識があれば「よそ者」になって、別の業界に貢献することが可能だからです。トレーダーは首になっても、ITエンジニアや数学・統計の専門家が金融業界にどんどん流入しています(この中にはトレーダーからITエンジニアに転身した人も多いと、金融業界の事情通から聞きました)。

「わか者、ばか者、よそ者」のどれが自分に可能かを考えて(組み合わせてもいいでしょう)、したたかに生き残るーー『「わか者、ばか者、よそ者」はいちばん役に立つ』は、そのための本だと言えます。


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◆立ち読みはこちらで → http://s-morikawa.jp/etc/galley.pdf
 97ページ分(全体の44%)読めますので、お暇ならどうぞ。
 ただ電車で読むのはお勧めできません。


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