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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

マーケティングオートメーション時代のライターの仕事

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前回書いたのが7月15日だったので4ヵ月ぶりです。なぜこんなに間が空いたのかといえば、とても忙しかったのです。

では、なぜ忙しかったのか?

先週、あるクライアントとの打ち合わせで、それが分かりました。

僕が知らないうちに、マーケティングオートメーション(以下MA)の時代が幕を開けていたのですね。

オルタナティブ・ブログの読者ならSFAはよくご存じでしょう。MAはそのマーケティング版です。やっぱりITが必要です。

この記事に必要なレベルでもうちょっと詳しく書くと、リード(見込み客)を獲得し、見込み客の行動(メルマガの開封とかクリックなど)をウォッチして、適切なコンテンツを送りつけることでSQL(Sales Qualified Lead:引き合いのこと)をもらって、営業につなげるという仕組みです(なので、SFAやCRMと連携できるツールが一般的)。

適切なタイミングで適切なコンテンツを送るのは、リードが少なければ手作業でも可能ですが、マーケター1人につき数10人が限界でしょう。ちなみに僕だってリードの名簿(メルマガのリスト)を1500件ぐらいもっています。企業のマーケターなら1000件や1万件ぐらい当たり前に持っているでしょう。それに対して、手作業で適切なコンテンツを送るなど不可能です。ITが必要となるゆえんです。

● アメリカでは当たり前になったが......

ご存知の方はご存知でしょう。このMA、アメリカでは2009年ぐらいからブームになり、今では当たり前のことになっています。しかし、日本では昨年あたりからブームになりつつあり、普及はまだまだです。騒いでいるのはまだごく一部のマーケターとコンサルタントだけで、僕がつい先週知ったばかりだとしても、石を投げられるという話にはなりません。

ただクラウド同様、一度火が点いたら早そうです。3年後には中小企業も含めて当たり前になっているのではないでしょうか。

さて、このMAのおかげで、IT企業のコンテンツ制作を生業としているビジネス系ITライターである僕の仕事が急増しているようなのです。

どういうことなのでしょうか?

● 急に仕事が増える

僕の出版社以外のお客さんは、IT企業かIT企業向けのコンテンツを制作している広告代理店だけです。

仕事が急増し出したのはこの8月ぐらいからで、最初は某IT製品比較サイト向けの記事を30本ぐらい書けないかという依頼でした。1本あたり平均で2500文字ぐらいの記事です。30本なら7万文字を超えます。四六判のビジネス書1冊分です。

実を言うと、ちょうどそのとき四六判のビジネス書を1冊、ブックライティングしていたので、月に2冊分も書くことになります。その他に連載もあったりするので、ちょっと無理と返答したら、15本でもいいからやってくれないかという話。お世話になっている広告代理店さんなので、引き受けることにしました。それ以後、コンスタントに毎月10~15本来るのです。

その他、コラムや導入事例の引き合いも結構来るようになりました。ところが忙しすぎて、ほとんどの仕事を断っている有様です。1本だけは、体よく断ろうとしたのですが、押し切られてしまいました。こんなことははじめてです。よほどライターがいないのだなと思いました。

● コンテンツがやたらに要る

コラムや導入事例は以前から依頼のある仕事なのですが、最近増えているのがTOFU(後述)用のお役立ち記事です。さきほどの30本の依頼もこれです。これが今すごい勢いで増えています。

昔からあるタイプの記事なのですが、これまで僕のところには回ってこない仕事でした。正直、質の悪い記事も多いので、比較的低報酬なのだと思います。しかし、需要と供給の関係なのか、おかげさまでそれなりの報酬をいただいています。ライター不足が深刻化しているのでしょう。

広告代理店とは別に、企画段階から直接打ち合わせをする大手IT企業も何社かあります。その中で一番古くからお付き合いしているH社から先々月、ホワイトペーパー制作の引き合いをいただきました。このホワイトペーパー制作も現在増えている仕事です。

その仕事が終わって、新たな引き合いをいただき、先週打ち合わせをしました。そのときに知った言葉がMAだったのです。

担当のN氏によれば、「MAはマーケターにとっては夢のような仕組みなのだけど、1つだけ難点があります。それは、コンテンツがやたらに必要なことなんです」とのこと。

「ああ。それで、僕のところにも仕事がいっぱい来るんですね」とひとり合点しました。

しかし、一体何が増えているというのでしょう?

● ファネルとは?

まずファネル(Funnel)について説明する必要があるでしょう。

マーケティングの大原則は、「だんだん減っていく」ということです。Webマーケティング(MAは基本的にWebマーケティングですが)でいえば、サイトへの訪問者が一番多く、個人情報を登録してくれたリード(見込み客)がその次に多く、購買者が一番少なくなります。

そのため、マーケティングプロセスのことをファネル(漏斗:じょうご、ろうと)と呼びます。入口から出口に向かうにつれて、だんだん細くなっているからです。

ファネルには大きく3段階あり、入口から順に、TOFU(トップ・オブ・ファネル)、MOFU(ミドル・オブ・ファネル)、BOFU(ボトム・オブ・ファネル)と呼びます。それぞれで必要なコンテンツが違います(下図)。

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● TOFU用のコンテンツの需要が増えている

まずはリード(見込み客)を作らないと話になりません。そのためには、サイトに訪問客(ビジター)を呼び込む必要があります。

そのときに必要な情報が、いわゆるお役立ち情報です。IT企業だと基本的にBtoBになるので、たとえば「いまさら聞けないクラウド活用法」とか「2015年の新型サイバー攻撃の脅威」というようなタイトルのコンテンツが中心となります。

形式はいろいろありますが、最終的には個人情報を登録してもらいリードになってもらうことが目的なので、ステップメールやメルマガ、PDFのホワイトペーパーなどが中心です。

ただ本丸に行く前に外堀を埋めるというのはマーケティングでも重要な戦略です。ですので、この前段階のコンテンツも増えています。SEO対策のためのページです。SEO対策として現在最も有効なのは、そのキーワードに関するコンテンツが大量にあることです。そのため、「クラウド」の記事だけでも何10個と必要となります。

このTOFU用のコンテンツの需要が今爆発的に増えているのです(SEO対策部分も含めて)。

● MOFU用、BOFU用もいずれは伸びる

MOFU、BOFUとファネルの出口に行くほど、企業はたくさんのコンテンツをすでに持っていますし、書けるライターも多くいます。場合によっては社内でも書けます。ですので、新しいコンテンツが必要でも(現時点では)それほど困りません。

しかし、TOFU用のコンテンツはそもそも書くことが難しく、企業内の蓄積も十分ではありません。だから、現在ライターが大幅に不足しているのでしょう。

なお、MOFUやBOFUに関しても、いずれライター不足が発生すると予想されます。なぜなら今後、このためのコンテンツの質が重要になってくるからです。せっかくコストと時間をかけて、ニーズを喚起し、購入一歩手前まで育成したリードに対して、他社が質の高いコンテンツを送付したとしたら、奪われてしまうかもしれないからです。

まだ日本ではこのようなことが問題になるほどMAが進んでいないだけで、じきにそうなるのは間違いありません。

● 新規客の引き合いを断るのはもったいない

したがって、ビジネス系ITライターにとっては、これから数年間は追い風だと思われます。

ITライターと言っても、いくつか種類があり、主に技術系の記事を書く人、主にガジェットやアプリなどの論評をする人、そして僕のように企業向けにITを紹介したり解説したりする記事を書く人がいます。

僕のような人をビジネス系ITライターと(僕は勝手に)呼んでいますが、チャンスが大きいのはここです。システムインテグレータや業務パッケージベンダー、クラウドベンダーなどBtoBのIT企業がいま一番MAに関心があり、ここからの仕事が増えているからです。

現在の僕の悩みは、新規の引き合いをお断りしていることです。直接的に断っているのではなく「着手が1ヵ月から2ヵ月先になりますが、それでもよろしいでしょうか?」というお返事をしています。すると、だいたい返事がなくなります。

知り合いのライターがいたら紹介してくれと言われることもありますが、僕はライターのコミュニティ等に参加していません。ビジネス作家のコミュニティなら知っていますが、話が合わない人が多いのでやめてしまいました(話が合う人とは今でもお付き合いいただいています)。

● このチャンスにビジネス系ITライターのセーフティネットが作れるかも

断るぐらいなら、知り合いに紹介するほうが全然いいと思うようになりました。そのことによって知り合いが忙しくなったら、今度は僕が暇なときに仕事を出してくれるかもしれません。また、大きな営業案件があった場合には、仲間がいることで対応できるかもしれません。全員と個別に契約するのが面倒だと発注元が言うのであれば、間に入って契約を取りまとめてくれる会社も知っています。

コミュニティや法人のような大げさなものでなく、セーフティネットと呼べる仲間がほしいと思うようになりました。セーフティネットだからお互い何の義務もなく、ただ仕事が余ったら融通し合う、あるいは大きな仕事が来たら声を掛け合う、これだけでいいのです。人数も10人ぐらいいればいい。

急病で取材に行けなくなる、などというのがフリーランスにとっては最悪のシナリオですが、それも代わってもらえるかもしれません。ほとんど同じような悩みを持つ仲間になるはずですから、親身に相談し合えるのもいい。フリーランスはやはり不安が大きいからです。

すでに2人ほど興味を持ってくれている人がいます。あと7人。ただセーフティネットなので、利害関係だけでなく、それなりの信頼関係、もう少し言えば友情に近いものもほしいと思います。ですので、慎重に集めたい。

求めるスキルは、こんなレベルです。――一応ITの素養があり、たとえば「最新のサイバー攻撃とその対策」というようなテーマに対して詳しくはないのだけど、ネット等で調べて、1~1.5日ぐらいで3000字前後の記事が書ける――ハードルが高いのか低いのかよく分かりませんが、こういう人が10人ぐらい集まるといいなと思っています。

あ。ライター以外にもデザイナーやカメラマンも必要ですね。セーフティネットをあまり広げると収拾がつかなくなるので、デザイナーやカメラマンのセーフティネットと交流するという形で広げていければいいかな、と今のところは思います。

▼「ITに強いビジネスライター」森川滋之オフィシャルサイト

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