なぜワクチンの投与で死んじゃう事があるのか
以前、犬の混合ワクチンの記事を書きましたが、リスクとその対応についての話を先送りしていたので、その話。
まず、ワクチンに関わらず、どのような薬にもリスクはあります。
投薬におけるリスクは大きく2つ、
- 副作用
- アレルギー
です。
まず、副作用ですが、これは薬の性質に依存したものです。ワクチンの場合、「生ワクチン」という、病原菌を少し弱めたものを注射するタイプの場合、接種した個体の免疫力が低下していたりすると弱めていた病原菌(ウイルス)が増殖してしまい、その病原菌特有の症状が出てしまう場合があります(混合ワクチンの場合は、弱い発熱、下痢などです)。場合により深刻な事態になることもありますが、副作用で死に至ることは通常ありません。
稀に、
ワクチン打っただけなのに死んじゃったんです!
という話を聞きますが、そのようなケースのほとんどが、アレルギー、もっと正確に言えば、強いアレルギー反応であるアナフィラキシーによるものです。
「蕎麦食って死にかけた」という話は、このアナフィラキシーショックです。
アナフィラキシーをはじめとするアレルギー反応は、普段生体に存在しないか、微量にしか存在しない物質を体内に入れた際、免疫系が過敏に反応してしまう症状です。アナフィラキシーは異物を体内に入れる以上、発生する確率は決して0ではありません。水でも起こり得ます。
犬の混合ワクチン接種によるアナフィラキシーの発生確率は1/15000(必ず死ぬわけではありません)程度と言われています。
ただ、
「1/15000の1の確率でアナフィラキシーが起こる可能性がありますが、打ちますか?うちませんか?」
と言われても、正直困るでしょうし。逆に、そのような説明を受けていたからといって実際にアナフィラキシーで死んでしまったら納得いかないと思います。
では、リスクを低減するにはどうすればよいのでしょうか。
リスクへの対応を理解するために、まず、アナフィラキシー(アレルギー)で死んでしまうのか?について説明しておきます。
アナフィラキシーは、強いアレルギーです。我々に見近なアレルギーと言えば花粉症がありますが、花粉症では鼻水や涙がでますよね。アナフィラキシーの場合、鼻水ではなく、血管の液体成分が血管外にしみ出すという反応が起きます。それは体のいろいろな部分で起きるのですが、それが肺で強く起こった場合、ガス交換を行う肺胞に水が溜まった状態となり、窒息死することになります。陸にいながら、水死とまったく同じような状態になり、死に至るわけです。
では、このようなことにならないためにはどのような選択肢や対処法があるのでしょうか。
まず、予防法としては、
薬を体内に入れない(つまり接種しない)
というのが最初の選択です。噂では「予防接種もしない飼い主さんは動物を飼う資格がない!」的なことを言う獣医さんがいるという噂を聞きますが、私はそんな風には思いません(狂犬病は義務ですから打ってくださいね)。打たないという選択も立派な選択だと思います(ただし、ペットホテルやドッグランとかは利用できないでしょうけど)。
次に、接種前にワクチンに対するアレルギー試験をすることです。いわゆるパッチテストなどです。ただ、ワクチン接種前にアレルギー試験をする文化が獣医業界には根付いてないので、
「え、ワクチン打つのにアレルギーテストですか?」
なんていう先生もいるかもしれませんが、事情を説明すれば対応してくれるでしょう。
「素人はだまってろ!」
的な先生なら、そもそもその先生がリスクと考え、避けた方がいいでしょう。
あと、接種前によく行われるものとして、抗アレルギー(炎症)薬の投与というものがあります。一般に効果的な手法ですが、「抗アレルギー薬」に対してアナフィラキシーが起こる可能性も0ではありませんので。。。。念のため。そういう意味では、アレルギー試験を抗アレルギー薬に対しても行っていると安心です。
次に、運悪くアナフィラキシーが発生した場合の対応です。
アナフィラキシーに限らず、軽度のアレルギー反応の場合でも、接種前と同様、抗アレルギー薬の投与を行うのが標準的な対応です。ワクチン接種後、アナフィラキシーとまでは言わないものの、じんましんや、浮腫(顔などが腫れる)などが起こることがあります(これは1/300〜500程度ともいわれます)が、このような症状の改善には抗アレルギー薬の投与で対応します。
通常、抗アレルギー薬の投与で症状は軽減されますが、異変に気づかず症状が進行してしまった場合などには別の対応が必要です。
聴診やレントゲンなどで肺に水がたまっていることが懸念される場合、まず、血中の酸素濃度を測定します。血中濃度の低下が見られる場合、酸素吸入を行い、かつ利尿剤を投与し血中酸素濃度の上昇と肺の中の水を排泄させ、肺機能の回復を期待します。
血中酸素濃度が致命的に低下している場合(水が多く溜まってる場合)は、いくら酸素を吸入しようが、人工呼吸しようが、肺の機能が事実上停止しているので効果はありません。このような事態に対応するためには、強制的に血中のガス交換を行う必要があります。このためにはいわゆる人工心肺を利用する必要がありますが、一般の病院、少なくとも動物病院には装備されていませんので、多くの場合、死に至ります。
このようなことにならないためには、ワクチンに限らず、何かしらの薬を投与した場合は、投与後数時間、様子に変化が無いか注意深く観察し、異常を早期発見することです。アナフィラキシーはどんなに遅くとも、投与後数時間以内に発生しますので。
心配すればきりがないのですが、どうしても心配な方は、ある程度の設備がある病院で接種を受けるほうが良いかもしれません。ただし、費用もかかる話なので、獣医さんと相談し、あらかじめ対応の範囲を決めておくとよいでしょう。