あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

A university is not a building.あるいは僕らがオフィス移転をする理由

»

大学の入学式で当時の学長から、こんな逸話を聞いた。


関東大震災の被災を機にキャンパスを移転した直後、有名な経済学者のシュンペーターが我が校を訪問してくれた。移転直後で暖房もろくに整っていないことに恐縮した教授陣に対して、シュンペーターは、
"A university is not a building."
と語った。中世のボローニャ大学の様に、質素な環境ですら知的達成は成し遂げられるのだから、と。



代々の学長が「君たちが入る大学というのはそういう場所なのだよ」と入学式で言い聞かせるのは、ある種の伝統だったのかもしれない。"A university is not a building."とは、実に含蓄のある言葉だ。建物ではなく、そこで行われる知的な営みこそが大学の本質なのだ。その気になれば、学問はどこでもいつでもできるのだ。


★A company is "also" not a building.

僕らケンブリッジも、長い間オフィスを完全に軽視してきた。いわば、"A company is not a building."の精神だ。
コンサルティング会社というと普通、丸の内あたりのピカピカのビルにオシャレなオフィスを構えている。でも僕らは今現在、辺鄙な所に狭いオフィスしか持っていない。どれくらい軽視しているかというと、社員数が1/3の時と比べても、床面積が全く増えていない、と言えば伝わるだろうか。
僕らは基本的にお客さんの所に常駐し、深く入り込むコンサルティングスタイルだ。お客さんと机を並べることで分かることは沢山あるし、ちょっとしたことで相談に乗ったり、お客さんとペアで一つのタスクを持つことも多い。
何より、僕らが体現している「プロジェクトが成功するワークスタイル」を移植するのは、僕らの提供する価値の中核だ。だから、お客さんのオフィスに常駐部屋を作ってもらい、そこがプロジェクトの作戦司令室になる。

216_20170822_作戦司令室.jpg

だとすると、あまり帰ってこない自分たちのオフィスにお金も関心もかけない方が、合理的だ。
・都心のお客さん先から自分のオフィスが遠いので、帰ってきたくない
・帰ってきても打ち合わせスペースがない
・完全フリーアドレス(だって狭いし、たまにしか来ないから)
・お客さんや学生さんを招けないので、打ち合わせをやる時は別の会議室で


「自分のオフィスではなく、客先のプロジェクトルームこそが僕らの主戦場だ」という意識もあったし、単純にピカピカなオフィスを作るお金と情熱があるなら、社員の育成や働きがいを高めることに使いたかった。
ちなみに、2年間参加している「働きがいのある会社ランニング」では、「オフィス環境」みたいなカテゴリーだけが平均点よりも低い。情熱を注いでないのだからしょうがないのだが。


少し余談だが、昨今の「働き方改革ブーム」に乗って、
「オフィスを良くすることで、働き方改革をしよう!」
「オフィスレイアウトを工夫して社内コミュニケーションを活性化しよう!」
「ステキオフィスで、いい人を採用しよう!」
みたいな意見(というか宣伝文句?)も目にする。

が、僕はそういうのはダサいと思うし、経営方針として劣っていると思う。オフィスはどこまでいってもオフィスでしかない。そんなものに頼る前に、コミュニケーションやら採用は、自分たちでなんとかした方がいい。
まさに"A company is not a building."だと思う。


ということで、オシャレでもなく、広くもなく、立地も良くないオフィスに甘んじていたうちの会社だが、長い議論の末、ついにオフィスを移転することにした。単に移転するだけでなく、せっかくなので最高のオフィスを作ることにした。
と言っても、ピカピカのオフィスビルの高層階に、というのは僕ららしくない。
散々迷って選んだ物件は、普通のビルの4階。そのかわりというのもなんだが、交通の便にはこだわって赤坂駅徒歩20秒。客先に散らばっている社員たちが、帰宅途中に気軽に寄れるのが大事だから、山手線の内側、それもなるべく中心に近い所というセレクションだ。
現在は設計中で、レイアウトがほぼ固まったところ。

216_20170822_レイアウト案.jpg

★改めて、なぜ今オフィスに大枚をはたくのか?

長く続いたオフィス軽視を転換して、結構な額を投資することに決めたのは、一言で言ってしまえば、「いま手応えを感じている色んな活動は、新しいオフィスをテコとして使えば、もっと効果的にできそうだから」ということだろうか。

先に「何かを変えるためにオフィスにすがるのはダサい」と書いたが、僕らが歩もうとしているのは、「ショボいオフィスで工夫しながら色んなことをやってきて、手応えを感じている。理想のオフィスがあったら、もっとずっと楽しく、効果的に、大々的にできるのでは?」というストーリーだ。これを「これまでの活動を、オフィスでブーストする」と呼んでいる。
少し具体的に説明しよう。


例えば新規営業。
僕らのワークスタイルは商品そのものでもある。でも、「プロジェクトに有効なワークスタイルがありますよ」と口で言っても、中々伝わらない。
だからプロジェクトを立ち上げる議論をしに行った際にも、ワークスタイルをちょこっと体感してもらえるような場を作ってきた。そして「こういう風に一緒に仕事をしたい!そうしてプロジェクトを成功させたい!」と共感してもらうことに、手応えを感じてきた。
僕らのオフィスに招いて体感してもらえば、もっと直感的に良さが伝わるだろう。


例えば社内研修、勉強会。
僕らは研修にかなり力を入れている。9割以上が自前で、コンサルタント同士が経験や知見を体系化(ナレッジ化)して、教え合う。そうやって方法論を自分たちで磨きながら、個人と組織をともに成長させる文化を磨いてきた。手応えも感じている。
でもどうせ研修の準備に時間をかけるなら、新しいオフィスで社外の方を招いてやった方がいいんじゃないか。(今のオフィスは社外の人を招けないので、この点で論外なのです・・)
僕らの智慧を社内だけに留めるよりは、気前よくただで配ったほうがハッピーな人が増える。講師をつとめるうちの社員もやりがいがある。
お返しに僕らにはない知恵を教えてもらえるかもしれない。たまには「ビジネスとして提供して欲しい」といってくださる方もいるかもしれない(別にそれを期待してやる訳じゃないけれど)。


例えば集中討議。
プロジェクトの立ち上げや節目に、まる一日籠もって議論し、プロジェクトコンセプトを練ることが多い。
これまではお客さんの会議室や郊外の研修所を借りていた。しかしプロである僕らが考えた、「理想の集中討議場」を作ったら、より捗るのではないか?
例えば僕が直接担当していないプロジェクトの集中討議にも少し顔出して意見言ったり、単純に勉強させてもらったりもできる。

そういうスペースは、必ずしもウチの会社だけで毎日使うわけではないので、NPO団体、研究会、勉強会みたいな用途に(多分無償で)使ってもらうことも考えている。
・50人から100人くらいの講演
・20人くらいの集中討議、ワークショップ
にはもってこいのスペースになるはず。
当然ファシリテーションに最適な場、というのが大きなテーマなので、議論の可視化がし易い壁は?とか、色々と工夫を凝らすというか、妄想しているのが現時点の進捗状況。
竣工したらまたブログに書きます。


ここまで書いて気づいたのだが、我が母校もA university is not a building.と言いながら、いま現在のキャンパスは世間に誇れるものだし、入学式をした当の講堂は重要文化財だったりする。「not building」の精神はそのままに、「それでも建物は良いに越したことはない」という話なのかもしれない。

216_20170822_兼松講堂.jpg

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する