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【やってみた】論文で採用する制度を作ったら、いい感じの学生さんを2人採用できたよ

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前に記事にしたが、ウチの会社では今年から「論文エントリー」という方法をはじめた。

面接偏重で学生さんを長時間拘束する、世の採用活動へのアンチテーゼと言ってもいい。
「大学で真面目に学問をやっていた学生を評価したい」という思いもある。将来コンサルタントになる人の適性として、知的好奇心に溢れているとか、一つのテーマをとことん考えるとか、そういう人が向いているからだ。

詳しくは先の記事を読んでほしいが、採用プロセスを簡単に抜粋するとこんな感じ。


・エントリーシートではなく、これまで書いた論文、研究概要などをまず提出してもらう
⇒自己PRの作文とかは不要ということ

・電話で面談。提出してもらった論文の内容や、その研究における自分の役割を説明してもらう
⇒学問に忙しい学生さんに配慮し、リモートで行う

・来社してもらって面接
⇒最後に1回は顔を合わせた方がお互い安心するでしょうし、ウチの社員にも会って、会社のイメージを持ってもらいたいので

★蓋を開けてみると・・・
論文エントリーという制度は作ったが、肝心の学生さんに知ってもらわないと始まらない。
うちの会社は残念ながら、学生さんへの知名度はほぼゼロなので。

そこで、多少はお金も使いながら、幾つかの方法で学生さんへ露出を試みた。
ターゲットである、真面目に研究している学生さんにアプローチしようと思って、大学研究室へのビラ配布をしたが、これの効果は、たぶんほぼゼロ(読まずに捨てるよね・・)。
一番手応えがあったのはFacebook広告で、多くの人に、論文エントリーの説明ページをクリックしてもらえた。
論文エントリーへの興味をきっかけに、「こういう会社があるよ」と知ってもらえるだけでも意味がある。論文エントリーはためらうが普通のルートならっていう人もいるだろうし。


結局、論文エントリーにまずは登録してくれた人は36人。
そのうち、「論文提出後の電話面接」に進んでくれたのは、7人。

小さな会社とは言え、7人というのは、決して多くはない。
この時点では、「うーん、やっぱ論文を出してもらうのは、ハードル高いかなー。特に学部生はまだ卒論書いてないしなー」と、ちょっと弱気になっていた。


ところが。
出してもらった論文を読み、電話面接をやり始めると、採用チームのテンションが半端ない。
応募者がみんなとても優秀なのだ。

提出してもらったのは、きちんと体裁が整った論文から、「これからこういう採用研究をします」という研究計画書、少し頑張って書いたレポートまで様々だったが、どれもとてもしっかりした内容だった。
そして、その学問の門外漢である僕ら面接官に、かなりわかりやすく説明してくれた。
研究の意義や、自分にとってなぜそのテーマが大事なのか、どういう人に協力してもらって研究したか、論文のオリジナリティはどこにあるのか?などについてだ。

そして嬉しいことに、志望度が高い学生さんの割合も、高かった。
普通の採用プロセスだと、会社説明会に来てくれた人のうち、採用する人は2.6%程度。もちろん、こちらからお断りする人と、辞退する人の両方がいる。
ところが論文エントリーの場合は7人とコンタクトして2人採用だから28%。いきなり10倍だ。

もともと「学生さんを大量に呼んで、大量にフィルタリングし、時間を浪費させてしまう」という従来の採用活動へのアンチテーゼから始まった採用方法なので、採用率が高いのは、大きな成果だ。
もちろん学生さんの労力だけでなく、僕ら採用する側の時間効率も良い。



★内定者にインタビューしてみた。
実際にエントリーしてくれた側は、この「論文エントリー」というやり方をどう思っているのか。
僕は今年、面接はほとんどしなかったので、生の声を聞いていない。そこで内定を受諾してくれた学生さん2人に、改めて電話して聞いてみた。
ちなみに、論文エントリーへの応募者は文系理系半々くらいで、内定者はたまたま2人とも文系だった。1人は政治哲学、もう1人は組織論についての論文を提出してくれた。
同様に院生も応募してくれたが、今年の論文エントリーからの内定者はたまたま2人とも学部生だった(普通の採用プロセスでは、院生も何人か採用した)。


Q)普通の就活をしてきてどうだった?
A)学生時代に一生懸命やってきたのは勉強だったので、面接でもその話をするんだけど、面接官によっては露骨に興味がない方もいた。
勉強の話をすると「ほら、バイトとかやってないの?その話してよ」とか、「それを勉強していて、なんでウチの会社受けんの?」という誘導で、すぐに志望動機の話になってしまったり。
ややこしい学問領域だったので、論文なしで説明するのも難しかったし(これは自分の力不足)。

※白川コメント
世の中には、せっかく大学に入ったんだから、サークルやバイトではなく、学問を一生懸命やっている人もいる訳ですよ。役に立つとか立たないとかを度外視して。まさにそこにこそ、その人の人間性や能力は表れる。
そういう人に、遊ぶ金欲しさに片手間でやっているバイトの話とかさせて、何を見ようとしているんですかね。バーカバーカ。


Q)提出する論文はいつ書いたの?
A)自分が属していたゼミでは、3年生の終わりにミニ論文を書くことになっていたので、それを提出した。「こんなんでいいのかな?」とも思ったけれども、半年間一生懸命やってきたことなので。
応募する会社向けに志望動機を考えておくとか、そのためにWebサイトを読みまくるとか、そういう煩わしさがないのはありがたい。

※白川コメント
特に学部生の場合、就職活動の時期だと卒論はまだ書いていないので、ちょっとハードルが高いかな?と心配していた。応募者が院生ばかりになる可能性もあるかと。

学部生の場合、早いうちから論文を書かせる教官のもとで勉強している学生さんの方が、有利な面はありそう。とは言え、そういう環境で頑張っている学生さんを優先的に採用したい、というのがこの方式の主旨なので、いいことだと思ってます。


Q)電話面接で、自分の研究内容を素人の僕らに説明するのは難しかった?
A)常々、違う分野の人に研究の意味を説明するのは難しいと感じていた(教官も、この研究は役に立たないと言っているし)。研究というのはハイコンテクストなものなので。
そこで、「他の研究との違い、オリジナリティはここ」に絞ってきちんと説明することを心がけた。
相手が論文を読んでくれているので少し安心したし、そもそも論文でエントリーさせてくれるということで、リスペクトしてくれているとは思っていた。

※白川コメント
電話面接にあたって、面接官に僕が言ったのは
・研究内容に興味をもって、色々教えてもらおう
・研究している人々へのリスペクトを忘れずに
・HaveFun!
ということ。電話越しに、ちょっとは伝わったみたい。


Q)ケンブリッジへの理解度は?
A1)選考プロセスが進む中で、ケンブリッジの会社についての説明や社員との面談の機会を多く設けてくれたので、話すたびにどんどん「自分と合っていそう!」という実感を持てた。

A2)NPO法人への支援の取り組みについて社長面接で聞いた時に、「この会社で能力つけながら、やりたいことを模索すればいいのかな」と思うことが出来た。
とは言え今から考えると、内定を受諾した段階であまりケンブリッジで働く様子は想像出来ていなかった。時期的に焦っていたし。特に、他の内定者と会うと、自分があんまり理解出来ていないことが分かった。

※白川コメント
インタビューした2人で、かなり違う回答だったので両方紹介しました。「なるべく学業の邪魔をしない採用活動」を掲げると、どうしても接触頻度が減るので会社への理解度が落ちる。これは事前に懸念としてあがっていた。来年以降、ちょっと改善の余地がありそう。


Q)後輩にすすめたい?
A1)特に、自分のゼミの後輩には勧める。みな勉強に一生懸命だし、論文も書いているから

A2)自分には良かったけれども、後輩に積極的に勧めるかというと、どうかな。
本当にデキる人は、普通にコミュニケーション能力があって、普通の面接に受かると思うし。

※白川コメント
これも対称的な回答でしたね。「就活エリートじゃなくても、いいコンサルタントになれるヤツはいる。なぜなら僕がそうだったから」という仮説を元に、採用活動をやっています。



★まとめ
ということで、とりあえずやってみた論文エントリー、かなり手応えを感じています。
ぶっちゃけ、「面接重視の採用だったら、この人落としていたかもなー」「でも、うちの会社でなら活躍してくれそうだなー」という人もいたりして、人材の多様性、という意味でも、実にいい。
「就活エリートです」みたいな新入社員しかいないような会社、僕はいやだ(嫌だし、強い会社ではないと思う)。
ゆくゆくは、新卒採用の半分が論文エントリー経由になるくらいでもいい。
そのためには、もうちょっと論文エントリー自体を学生さんに広く知ってもらわないとね。
PR頑張ろう。

************さっき見たら、Kindle版が出来ててびっくりした。社会人の仕事の実態を垣間見るならこの本でっせ。

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