あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

教室を出て、プロジェクトで人を育てよう!あるいは「育つプロジェクト」の可能性

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※長いです。本当に「人を育てたい!」と思っている人向けに、ガッツリ書きました。


★学びのスイッチ
最近の学生さんはピンと来ないかもしれないけれども、むかし、講義はサボるものだった。安くはない学費を親に負担してもらい、わざわざ電車で大学まで行って、講義に出ないで食堂で喋ったりしていた。
勉強は単位を取るために、仕方なくするもの。
最小の労力で最大の成果を得たほうが生産性が高い訳だから、なるべく勉強しないで単位を取ったほうが賢い。
そんな価値観だった。

ところが多くの人は、社会人になって数年たつと勉強の必要性を感じ、いそいそとセミナーやら講演会に出かけていく。勉強熱心な人になると、ポケットマネーで夜間大学院に行ったり、有料のセミナーに出かける。
大学時代、僕より講義をサボっていた(そして同じく留年した)友人が、仕事と掛け持ちで大学院に行き始め、のけぞったこともある。

忙しい社会人になってから、仕事をやりくりしてセミナーに参加する。ところが滑稽なことに、基調講演で話している大学教授は、僕が学生時代に講義を取っていた(そしてたまにサボっていた)教授だったりする。
(僕は経営学を勉強していたので、こういうことが起きやすいのかもしれない。例えば伊丹敬之、米倉誠一郎、楠木建といった先生方の講義を受けていた)


怠惰だった学生時代と、勤勉な社会人時代というギャップはなぜ生まれるんだろうか?

単純なことだと思う。
人間は、必要性や面白さに気づいて初めて、学びのスイッチが入るのだ。

逆に、学びのスイッチが入っていなければ、いくら素晴らしい教育を施しても、無駄になる。
教育効果って、伝えるコンテンツの良し悪しなんて20%くらいで、残りの80%は受け手のマインドに依存しているんじゃないだろうか?



★教室では、仕事ができるようにならない
コンサルタントというのは、人を育てる仕事でもある。
組織のパフォーマンスを上げようとした時に、個々の人間の能力をあげるのは有力な方法だからだ。

だから、「○○の方法論を売ってくれ」「○○についてトレーニングできないか」という引き合いを、昔からよく頂く。
しかし、うまくいかない。
わかりやすく理論を教え、ワークショップでロールプレイしてもらうので、その場の満足度は高い。講師としてはまあ、合格点だ。しかし教室を出ると、なかなか実戦投入できない。つまり、実質的な効果が薄い。


教える内容が会計みたいな、自分ひとりが理解していればすぐに役に立つ知識ならばいざ知らず、リーダーシップやファシリテーションのような、他者や状況との関係性が大事な能力の場合は、この点が難しい。
なぜならば、仕事の持ち場に戻ると、そこには上司がいて、お客さんや市場という現実があるからだ。

そして、、
・新しく習ったことを使わなくても、一応仕事は回る
・本当にセンスのある一握りの人以外は、新しく習ったことの現実への適用に失敗する
(習ったことの現場適用は、研修受講者に丸投げされているから)
ということになる。

そんなこんなで、お客さんから「トレーニングをやってください」と言われても、基本的にはお断りしていた。効果が上がらない支援をするのは僕らとしてもやりたくないからだ。


そうして研修ビジネスみたいなものから距離をおいていたのだが。
ふと身近な人々を見渡して気づいたのだ。
ゴールを目指してしゃにむに走っている、プロジェクトの現場でこそ、人が育っていることに。

ウチの社員はもちろん、一緒に働いているお客さんのプロジェクトメンバーだって、随分成長している。
「自分たちだけで変革ができる組織になったのが一番の収穫」
「一緒にプロジェクトをやり遂げた、一般職の社員たちが本当にいきいきと頼もしくなったよ」
「社内で新しいことをやるときは、とりあえず彼に話が行くようになったよね」
などなど、たくさんの嬉しい言葉をお客さんから聞かせてもらった。



★学びの「心頭体」
なぜ、人は研修の教室では育たないのに、プロジェクトの現場では育つのだろうか?
多分、こういうことだと思う。

スライド1.JPG

スタートは心からでも、体からでもいいのだろう。

とにかく、このサイクルが回らないと、人は育たない。

大学生がなぜ学ばないか?
学ぶ必要性を実感する場がなく、「心」が追いつかない。
すると「頭」に入らない(いったん入っても、テスト後にすぐ忘れる)。

社会人の研修がなぜ効果をあげないか?
上司や人事部に言われて参加するから「心」が伴わないまま、知識を教わるから。
そして学んだことを「体現」する場を自分では作れないから。


教室で行われる研修の世界でも、もちろん「心」、つまり学ぶモチベーションの重要性は理解されている。だから、研修の初日の午前中は、学ぶことの重要性を理解させるような、ちょっとしたゲームから入ったり、講師の側も皆、工夫している。
でもその手の「気づきを与えるゲーム」で、バリバリやる気が出るほど、受講生も単純ではないでしょう。
仕事をしている中で打ちのめされ、はじめて「これは学ばないとヤバイ」と気づくのに比べれば、子供だましみたいなものだ。


プロジェクトの現場では、この「心」と「体」がふんだんにある。
プロジェクトはとにかく難しいから、自分に不足している能力を痛感できる(心)。
前例がないから、有識者に教わる前に、自分で無理やりやるしかない場面がある(体)。
だから、隣で仕事をしているコンサルタントから盗んでノウハウを補填する(頭)。
そうやって人が育つのだ。



★あるプロジェクトで起きたこと
某プロジェクトを立ち上げるために相談に乗っていた時は、ごく普通の変革プロジェクトだと思っていた。
これまでも社内で変革プロジェクトを立ち上げたことはあるのだが、
・部門が縦割りで、お客さんに提供するサービスに統一感がなく、イマイチである
・各部門のやりたいことをつなぎ合わせただけのプロジェクトしかやったことがなかった
・現状の課題を改善するのは得意でも、「そもそもどういうサービスであるべきか?」を考えるのは苦手
・社内の反対を押しのけながら、プロジェクトをゴリゴリ推し進める力に欠けている
こんな話だった。まあ、よくある状況だ。


だが、プロジェクトに参加してもらうメンバーの人選を議論している時に「僕らはノウハウをすべてオープンにするので、プロジェクトを乗り越えると人がめちゃくちゃ育ちますよ」とポロッと言ったところ、「リーダーシップのある人材の育成は、ウチの会社にとっても大きなテーマ。プロジェクトをやりながら人も育てる、貪欲なプロジェクトにしよう!」と盛り上がった。

そこでプロジェクトの進め方を見直した。
僕らコンサルタントは手を動かす量を減らし、お客さんのコアメンバーが殆どの作業をする。
その代わり、コンサルタントはノウハウを伝え、コアメンバーがやったことのレビューをし、品質をあげることに専念する。
もちろん、社長を始めとした経営幹部にプロジェクト方針を説明したり了承をもらうのも、コンサルタントではなくコアメンバーがやる。

半年間のプロジェクトで、座学だけでも10講座くらいはやっただろうか。
さっき書いたように、座学の回数をこなすこと自体には意味がない。このプロジェクトの場合、なし遂げるべきプロジェクトゴールがあり、そこに必要なノウハウを、必要なタイミングで伝える。
だから、普通の「○○入門講座、3日間で10万円」みたいのとは、受講者の真剣度がまったく違う。「今回のプロジェクトではどうすべきか」という観点から、鋭い質問もバシバシくる。
そして、僕らのプロジェクト方法論を愚直に実行していった。

結果として、プロジェクトゴールとメンバーの育成、2匹のウサギを捕まえることができた。



★また別のプロジェクトでも・・
別のお客さんでは、情報システム部門の育成に悩んでいた。
中規模クラスのプロジェクトならば自分たちでキッチリと回せるのだが、大規模プロジェクト(メンバー100人超、複数のベンダーさん、複数のソリューションを組み合わせる)だと、やりきれない。

「ケンブリッジさんは30歳そこそこでも、ややこしい業務課題の意思決定をファシリテーションしたり、ベンダーを仕切ったりしている。うちの社員もそういうことが出来ないと、大規模プロジェクトの成功はおぼつかない」という危機感から、プロジェクトが始まった

最初は「秘密はケンブリッジの方法論にあるのでは?」ということで、そのノウハウの移植を議論したのだが、方法論というのはカルチャーという土台の上で初めて活きてくるもの。
もちろん、その会社のカルチャーはケンブリッジとは全然違うし、そこにいる人々の性格や経験も違う。
単純に移植しても、根付かないのだ。


そこで、
・その会社流のプロジェクト方法論を作る
・なにもないところからは無理なので、ケンブリッジの方法論をベースにカスタマイズする
・方法論づくりのプロジェクトを通じて、プロジェクトをリードするコツを、実地でも学ぶ
・プロジェクトをやりながら、その場面場面で必要なノウハウを座学で学ぶ
というプロジェクトをデザインした。

このプロジェクトで一番良かったのは、「大規模プロジェクトの苦難」をテーマにした座談会。
今回、育成対象となったメンバーの大半は、まだ大規模プロジェクトをプロジェクトマネージャーとして切り盛りした経験がなかった。大規模プロジェクトがなぜそれほど難しいのか、中小規模のプロジェクトと何が本質的に違うのか、ピンとこなかったのだ。
そこで、大規模プロジェクトに苦労している社内の一流プロジェクトマネージャーに来てもらい、ざっくばらんに、その厳しさや体験談を語ってもらった。

効果はてきめんだった。どう見ても自分よりずっと経験豊富で優秀な先輩たちが、これほどきちんと仕事をしても、なお四苦八苦するのが大規模プロジェクト。
そして近い将来、自分たちもその大規模プロジェクトを成功に導かなければならない。なのに、今、手にしている武器はあまりに貧弱だ・・。

これくらい強烈にしっかりと学びスイッチが入れば、あとは懸命に議論し、他社から盗み、自分たちの方法論を作り上げるだけだ。
余談だが、スケジュールの都合でこの座談会の前に1回だけ座学形式のトレーニングもやった。これからやっていくべきことを示す、本質的な内容だったのだが、コアメンバーのウケは全然良くなかった(ちなみに講師は僕がやった。トホホ・・)。多分、その時点では自分たちがやるべきことと、僕が話していることがあまり結びつかなかったんだろう。
人に育ってもらうには、まず「心」。その後に「頭」と「体(体験)」はついてくる、と先に書いたのは、こういうことだ。



★意図的に、学びのサイクルを回す
先に、「心頭体」のサイクルについて説明したが、「プロジェクトでの育成」を念頭に、もう少し具体的にすると、こんな感じになる。

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ここまで、どういうコンセプトで、プロジェクトで人を育てるのか?という話をしてきた。
実際には、人はコンセプトだけでは育たないので、日々のプロジェクト活動に、コンセプトに沿った仕掛けを埋め込んでいかなければならない。
すると、こんな感じになる。

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一つ一つの仕掛けをここでは細かく説明はしない。だが、説明しても「ふーん」という感じかもしれない。あくまで、コンセプトに沿って愚直にやるからこそ、大きな成果を生むのだ。



★プロジェクトで鍛えられる能力とは?
最後に、プロジェクトで主に鍛えられる能力をざっとあげておこう。

能力を分類する方法は無限にあるだろうが、いずれにせよ、ここにあげたような能力は、すべての企業でものすごく求められている力だし、そんなに簡単に身につく力ではない。だからこそ、育成型プロジェクトのような、本腰を入れた取り組みが必要となるのだ。

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【変革力】

組織のなかで変革プロジェクトを立ち上げ、遂行するための総合力。
プロジェクトを成功させるノウハウを学び、経験から学ぶことも多いのだが、リーダーシップやファシリテーションなどの能力で、下支えが必要。

【リーダーシップ力】
カリスマ性は(たぶん)鍛えることは出来ないが、リーダーシップは鍛えられる。「リードする」とは、先を見通し、それを皆に納得してもらうことだから。
プロジェクトの方法論を学べば先を見通せるようになるし、それを伝える技術はプレゼンテーションやドキュメンテーションなどの形でかなり体系化されている。
なにより、リーダーシップを鍛えるためには、リーダーシップを発揮する機会を持つのが一番だ。プロジェクトは、リーダーシップを発揮せざるを得ない場にあふれている。

【ファシリテーション力】
僕らケンブリッジが、プロジェクトを成功させる武器としてファシリテーションを多用することもあり、お客さんから一番「教えて欲しい」と言われるのが、ファシリテーション力だ。変革の方向性を合意する際にも、問題を乗り越えてゴリゴリと仕事を進める際にも、必要。
これも、良いお手本を見て、理屈を学んだ上で場数を踏むしかない。普通のビジネスパーソンにとって、ファシリテーション力を磨くために一番障害となるのは、場がないこと。そして周りの人が受け止めてくれないこと。
育成型プロジェクトという特別な場で、まずは鍛えるのが得策だ。

【知識】
変革プロジェクトを成功させるためには、もちろん、特定の知識も必要だ。特定の業務知識やITなど。まあでもこれは皆さん得意な領域なので、「プロジェクトでの育成」ではあまり意識しない。

【コンセプチャルスキル】
リーダーシップやファシリテーションのベースとなるのが、物事を抽象的に捉え、考え、発信する能力である、コンセプチャルスキルだ。
例えばプロジェクトの立ち上げ段階で、「組織課題がどういう構造になっているのか、紙に書いてみてください」と言っても、ペンが止まってしまう人は実に多い。具体的にアレがまずい、こうしたい、というアイディアはあるのだが、そのままだと抜本的な変革にはならない。
組織全体を動かすためには、「こういう現状を、こう変えよう!」とビジョンとして示さなければならない。

ところが、それに必要なコンセプチャルスキルを意識して鍛えてきた人は稀だ。学校でも会社に入ってからも、あまり教えてもらわない。
プロジェクトの立ち上げ合宿で夜まで「そもそも何が問題なのか?」を語り合うのは、これを鍛える絶好の機会になるだろう。

***

ということで、長々書いてきたが、コンサルティングのスタイルとして、「お客さんと一緒に『育つプロジェクト』を作る」というやり方に、大きな手応えを感じている。

唯一の問題は、本当にお客さんが育つと、僕らにコンサルティングを依頼する需要がなくなること。実際にそういうケースはいくつもある。

だけど、それがいいと思ってくれたら、他の部門、他の会社を紹介してもらって、その人たちと「育つプロジェクト」を作ればいい。僕らが飯を食えなくなるまでには、まだまだたくさんの会社があるだろうし。

僕らはわりと本気でそう思っている。

 

 

 
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プロジェクトをリードする人材の育成については、この本でも触れました。

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