オルタナティブ・ブログ > プロジェクトマジック >

あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

僕がなぜITオンチの社長さん向けに本を書いたのか?あるいは面倒くさいからこそモチベーションが全て

»

本を書くのは、ものすごく面倒くさい。
僕のように本業をやりながら書こうと思うと、色々なものを(家族とか自転車とか、誰かの睡眠時間とか・・)を犠牲にしないと書けない。

ということで、
・これなら、絶対いい本になる!
・しかも、この世で僕にしか書けない!
・ウチの社員にも、お客さんにも、10年前の自分にも読ませたい!
という確信がない限りは、本を書く腰があがらない。


1冊目から2冊目は4年も間が空いた。
2冊目から3冊目だって、2.5年も空いている。

さすがに書くのにそんなに時間がかかった訳ではなく、「これだ!」と思えるテーマ、切り口を思いつくまで、あれやこれやと考えていたのだ。

正直、「このテーマならすぐに1冊書けるな」と思うテーマはいくつかあった。でも、それを絶対書きたいか?というと、そこまででもない。
そんなモチベーションでやるには、本を書くというのは面倒くさすぎる。


2014年の12月、ついに「これなら、僕にしか書けない最高の本になる!」というテーマを思いついた。
それは、お世話になっている2人の社長さんに向けて、「世の中にはちゃんとした本がないけど、この方々は切実に必要としていて、僕ならうまく説明できる知恵」の本だ。

よく「特定の人にむけて書いた方が、ぼんやりとしたターゲット層に向けて書くより、いい本になる」と言われる。僕の場合は、このお2人に向けて書いた。


本の「はじめに」には、執筆動機として、そのことをもちろん書いた。
発売して1ヶ月たったので、「はじめに」をそのまま公開します。


ありがたいことに、見知らぬ読者の方々から
「会社の役員に薦めたら社長も読んでくれて、ブームになった」
「部下全員に私費で買って配った」
というメールをいただいています。

そういう時、
「いい本だよ。はじめに、が公開されているからとりあえず読んでみて」
と推薦するのに使っていただければと。


ここから********************************************

この本は、Yahooや楽天のような、いわゆる「IT企業」にお勤めの方に向けて書かれた本ではありません。
そして、プログラマーのようなITエンジニア向けでもありません。製造業や流通といった普通の会社に勤める、営業や経理や企画や生産管理といった普通の仕事をしている方に向けた本です。
ではなぜ、タイトルに「IT」が入っているのか?
これから説明しますので、ちょっとお付き合いください。


★ITオンチのまま経営者へ
ある企業での営業改革プロジェクトに取り組んでいた時に突然、おめでたい発表がありました。お客さんのプロジェクト責任者が、社長に就任することになったのです。
「いやー、こんなこと言っていいのか分からんけど、自分が一番びっくりしたよ...。社長に呼び出されて行ったら、やけにニコニコされててさ...」

このことが、この本を書くきっかけになりました。新社長はプロジェクトを成功に導くべく、オーナーとしての熱い思いを私達にぶつけ、日々議論に多くの時間を割いてくださっていました。
わたし達もそれに応えるべく、どうしたら会社が良くなるのかを考え、その会社にかなり耳が痛いことも含め、何でもぶつけ返していた。
つまり、クライアントとコンサルタントという関係を超え、いわば同志として最高のプロジェクトを作り上げつつあったということです。

そういう大変お世話になっている方へのお祝いに、何かプレゼントできないだろうか。玄関に飾る蘭のようなありきたりの「モノ」ではなく、わたしだけが贈ることができる「知恵」を。


新社長は敏腕営業マンとして鳴らしてきた方です。組織の長として皆をまとめ上げる力もすごい。一方で失礼ながらウィークポイントを挙げると、「ITを経営にどう使うか」の土地勘がありませんでした。彼のような叩き上げの社長に良くあることですが、「ITオンチ」だったのです。

ひるがえってわたしの方は、経営と業務とITをつなぐ仕事をしてきました。だったら「ITを会社の武器にする方法」を、ITエンジニアでない方でも理解できるように分かりやすくレクチャーするのが、一番のはなむけになるのではないだろうか。


こうして、この本の元となった社長向けのプレゼンテーション資料は作られました。
キャリアの途中で集中的にITに関わった幸運な一部の方を除き、多くのビジネスパーソンは彼と同じ境遇にあるのではないでしょうか。
自分の持ち場でいい仕事をし、周りから評価もされてきた。これから責任がますます重くなる。「業務や経営を考える上でITが欠かせない」と盛んに言われているし、これまでの仕事で実感することもあったけれど、よく分からないままここまで来てしまった。

この構図は、英語コンプレックスに似ています。「これからのグローバルビジネスを生きぬいていく上で英語は必須!」と言われているけど、忙しさにかまけて英語を鍛えてこなかった。それと同じように「ITは大事らしいが、自分自身はITオンチ。うーん」

ITコンプレックスです。学校でITについて全く教わっていないので、英語コンプレックスよりもタチが悪い。いざ勉強しようと思った時の土台がないから、どこから始めていいのかも、分からない。いまさらプログラミングを学んでも仕事に活かせる気もしないし...。


この本は、そんな方に向けて書かれました。もしあなたが既に経営幹部なのであれば、ITを会社の武器にするために経営幹部として明日からできることが、この本に書いてあります。
もしあなたが現場の第一線でバリバリ仕事をしているような一介のビジネスパーソンなのであれば、業務改革やIT構築プロジェクトでエンジニアではない自分が何をすればよいのかや、ITエンジニアとのコミュニケーション方法が分かるでしょう。
それはもちろん、経営幹部としてITについての意思決定を迫られる来るべき将来に向けた、素晴らしい予行演習にもなるはずです。


★誇りある工場、誇りなきIT
 わたしはコンサルタントとして、様々なお客さんとの様々なテーマのプロジェクトを支援しています。お客さんの業種は金融からサービス業まで多様なのですが、製造業のお客さんとお仕事をするときは、やっているプロジェクトに関係なくても工場を見せていただくことにしています。

するとどこの工場を見学しても、働いている社員の皆さんが自分たちの工場を大切にしていること、誇りを持っていることを強く感じます。
例えば日野自動車さんの工場では、ラインの端っこでは鉄骨のフレームだけだったのに、ラインに沿って歩いて行くとアレよアレよとパーツが取り付けられ、逆の端では20トントラックが走りだします。ああ、モノづくりってこういうことね、としみじみおもいます。

見学を案内してくださるのは、たいてい職場長にあたるような方々で、印象的なのは、彼らが自分たちの工場を清々しく「自慢」することです。
・機械が最新鋭で、特別な加工ができる
・ラインがいかに効率的にデザインされているか
・どのような工夫で生産性を高めているか
「これが俺たちのラインだ、どうだ見てくれ!」という誇りが伝わってきます。

工場(機械設備や生産ラインのデザイン、働きかたのノウハウなどを含めた、広い意味での工場)は、莫大な時間とお金を注いで練りあげてきた製造装置です。「装置産業」という言葉があるとおり、「自分たちはこの装置を武器に戦っていく」という意識を社員は持っていますし、実際に自社の利益の源泉なのです。

次の章で詳しく話しますが、今やITも、会社を支える重要な「装置」です。ビジネスの命運も握っています。にも関わらず、自社のITを誇りに思っている社員はほとんどいません。
会社を訪問してITの話をすると、「ウチは業界No1企業なんて言われてますが、ITはこんな感じなんですよ。お恥ずかしい限りで・・。他社さんどうしているんですかね?」という展開によくなります。
そしてITは「どっちかというと関係したくない厄介なもの」とIT部門以外の多くの社員から思われているようです。

これを製造業に置き換えると、「ウチは世界一のオートバイメーカーだけど、ウチの工場はひどくて、とても人様に見せられないよ・・。なんだか知らないけど生産性も低いし・・」という感じになる訳ですが、こんな会社はあり得ないですよね?
ところが、製造業にとっての工場と同じくらいITが重要なビジネスであっても、多くの会社の業務担当者や経営幹部は「ウチはITをうまく使いこなせていない。経営の武器になっていない」とおっしゃいます。では、「ITを武器にできていない」とは、実際にどういう状況でしょうか?

①一つ一つのITプロジェクトが失敗し、投資の成果を刈り取れない
ITを武器にすべく、貴重な資金や人材をITプロジェクトに投資するものの、失敗の連続。使いこなす以前に、ちゃんと完成しない状況です。

②投資すべき時に適切なIT投資判断ができず、時代遅れの武器で戦う羽目になる
一つ一つのプロジェクトが失敗してきた過去があるから、経営者としてもIT投資をためらってしまう。そうして同業他社がミサイル防衛システムで戦争している時に、火縄銃で戦争していることに、ずいぶんたってから気づくのです。

③IT部門や人材が弱体化し、戦略実行の足かせになってしまう
そうやって攻めのIT投資ができず、今あるITの現状維持が精一杯になっていくと、会社のIT力が衰えてきます。IT部門も業務部門も、入社以来、新しいITを作る仕事をしたことがない社員ばかりになってしまうからです。

④ITが経営を変えるきっかけになっていない
そんな状況が積み重なり、「ITによって会社を変える」という実感もありません。ITに対して「業務を回すために仕方なくおカネを使わざるを得ない、税金みたいなもの」という感覚を持っている経営幹部や業務担当者が多いことでしょう。

こういった状況に陥らないために、またこの状況から抜け出すためには、経営幹部と業務担当者が主体的にITに関わるしかない、IT部門や外部のITベンダーに丸投げすべきではない、というのがこの本を通じて、わたしが言いたいことです。
つまりITを自社のコア業務だと思っていないこと自体が、問題の発端なのです。


もちろん経営者は企業の様々な仕事への目配りが必要で、その割に時間は有限です。(元々苦手な)ITくらいは別の人に任せたい、と思うのも人情でしょう。業務担当者だって、在庫管理やら人材育成やら新製品開発などの自分の仕事があるのですから、ITはIT部門が責任持ってやれよ、とも思っていることでしょう。

ですが、それが許されない状況にとっくになっているのです。だからこそ、わたしもお世話になっている新任社長さんにわざわざ時間を割いていただき、ITのイロハについてお話した訳です。
この「ITエンジニアでなくても、ITに主体的に関わる」という話は、直感に反しているので、急に言われてもうなずきにくいと思います。そこで次章で色々な角度からゆっくりと説明します。

★本書の目的と特徴
本書の目的は、
・「会社にとってITとはそもそも何なのか?」を解き明かし、
・それをベースに「ITを思うように会社の武器にできない理由」を探り、
・武器にするための具体的な方法を提示すること
です。

もう少し日常の業務に即して言うと、

「ITエンジニアと普通にコミュニケーションできるようになる」
「ITエンジニアに丸投げするには重要すぎる意思決定を、アドバイスを聞きながら自分で判断できるようになる」
「それらの積み重ねにより、会社にとって有効なITを育てられるようになる」
という辺りでしょうか。


いまやビジネスパーソンにとってのITは、現代人にとっての自動車みたいなものだと思えばいいかもしれません。ほとんどの人は自動車を一から組み上げることなんてできません。最新の自動車テクノロジーを熟知している訳でもありません。
それでも自分で運転できた方が便利だし、エンジンの原理ぐらいは知っていたほうが、何かあった時に専門家のアドバイスも頭に入りやすいでしょう。アドバイスをもとに、修理すべきか廃車にして新しい車を買ったほうがいいのか、自分の頭で考えられるようになります。それが大事なことなのです。

想定読者はITエンジニアではない普通の業務担当者や管理職、経営幹部ですから、分かりやすさにはかなり気を使いました。具体的には、
a)ITの技術的な解説はしない。ネットワークもプログラミングも出てこない
b)最新の技術動向にも触れない
c)経営幹部や業務担当者にとって大事なことに絞る
という方針です。

b)だけは少し説明が必要かもしれません。ITを経営の武器にする、というと、すぐに「クラウドが...」「ビッグデータが...」などと、その時点でのITトレンドの話をしたがる人がいます。
ところが、先にあげた「ITについて、大事なことは自分で判断できるようになる」という目標のためには、こういったITトレンドを追っかける必要はほとんどありません。

例えばクラウド。もちろん「クラウドを使わなくていい」と言っている訳ではありません。むしろ逆で、クラウドは便利だしコストが劇的に下がることも多いから、有力な選択肢として検討し、使うべき所で使えばいいのです。
言ってしまえばそれだけのことです。
原理原則を理解した上で、自社にメリットがあれば取り入れる。なければ無視する。それを判断する上で情報が足らなければ、社内外のプロフェッショナルの意見を集めればいいのです。

それよりもITエンジニアではない経営幹部や業務担当者が考えるべきは、
「新しい技術を使って何をするか」
「ビジネス構造が変わるのか?単にコストが安くなるだけか?」
「新しい技術を当たり前のように使いこなせるIT部門をどうやって作るか」であるべきでしょう。

そういったことを考える土台として、1章では「会社にとってITとは何なのか?」と「ITを思うように会社の武器にできない理由」という、会社とITの関係についての原理原則を説明します。このおかげで以降の説明がすっと頭に入るようになるでしょう。

2章から先ではITを会社の武器にするための具体的な方法として、重要な4つのテーマを取り上げます。
ITプロジェクトの成功のさせ方(2章)、
ITのお金の握り方(3章と4章)、
ITを支える人材の育て方(5章)、
ITの長期ビジョンの作り方(6章、7章)です。

この4つは、ITを会社の武器にするためにITエンジニアに任せっきりにはできない仕事です。
ITの仕事なのに、ITエンジニアだけではどうしてもうまく対処できない構造になっているのです。逆に言えば、経営幹部や業務担当者がこの4つさえしっかりやっていけば、厄介者のように見えたITが、会社にとって武器になるのです。

ケーキ30.png
ショートケーキに見立てると、「ビジョン、人材、お金」がスポンジの土台になり、その上にプロジェクトがイチゴのように乗っています。会社に価値をもたらすのは、一つ一つのプロジェクト(イチゴ)の成功ですが、そのためにはこの3つの土台(スポンジ)がしっかりしていることが大事なのです。
土台よりも身近なプロジェクトの話のほうがわかりやすいと思いますので、本書の構成としてはショートケーキを上から順に説明します。




★著者の立ち位置
わたしはケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズという会社のコンサルタントとして、経営・業務・ITの真ん中に立ち、隙間を埋める仕事をしています。社外から来たわたしが、企業の3つの立場の言葉をつなぎ、やりたいことをすり合わせ、1つのチームにし、プロジェクトを成功に導く。

4つの丸30.png

経営幹部には業務の事情やITの技術的な問題点を説明し、経営判断を促します。
業務担当者には経営視点での費用対効果やITを使ってできること、できないことを分かってもらうことになります。IT担当には業務要件を噛み砕いて説明しつつ、長期でのコストを考えたシステム構築について共に考えます。

こういう立場にいるので、経営幹部や業務担当者の方々に対して、ITについてよく説明します。もちろん、単にITの用語でITの論理を説明しても上手くいきません。
ともすると「カネばかりかかるブラックボックス」に見えるITを、彼らの論理に沿って説明します。そうしないと、正しい判断ができないからです。つまり、この本に書いたような話は、わたしの日常そのものです。

そして「会社にとってITとは何か?」「どうすればうまく使いこなし、利益の源泉にできるのか?」といった基本的なことを、この本を通じて広く伝えることは、プロフェッショナルとしてのわたしの責任であるとも感じています。
そうしないと経営とIT、業務とITとの断絶は埋まらず、ITは日本企業のウィークポイントであり続けてしまうからです。

これからの話を読みながら、「これって、自分の会社に当てはめると、どういうこと?」「社内の誰に聞けば、この辺を説明してくれる?」「ウチの10年後を睨んで、どういう手を打つべきか?」と疑問を持ってください。
その疑問をコンサルタントやITベンダーに丸投げすることなく、ご自分で考えられるようになることが、この本の目的なのです。
ITを会社の武器とするために、この本が少しでも貢献できますように。

***セミナーのお知らせ*****************************
明日、「会社のITはエンジニアに任せるな!」の発売を記念して、ダイヤモンド社でセミナーを開催します。

★1月13日(水)開演19:30
★原宿のダイヤモンド社9階
情報サイトはこちら

Comment(0)