あるいはファシリテーションが得意なコンサルタントによるノウハウとか失敗とか教訓とか

優れたITリーダーの傾向、あるいはスーパーエンジニアとは別な道

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僕が「この人はすごい」と思うITリーダーって、オタクっぽくない。
ここでいうITリーダーはスーパープログラマーとかではなく、「ある企業の経営にITを活用する際に先頭に立っている人」という意味だ。つまり求められる能力、マインドは技術屋というよりも経営者に近い。だからオタクっぽくないのは当たり前かもしれない。
技術を極める以外に、こういうキャリアもあるよ、という意味で、彼らの特徴と、なぜITに関わる場面だとそれが大事なのかを考えてみたい。



★引き出す能力、教わる能力
自分の得意領域をゴリゴリと追求するタイプのエンジニアだと、「この会社のITをどうしていくか」というテーマを考える役割は向かない。
一口にITと言っても要素技術や論点は非常に幅広いので、なんでも自分で知らないと気がすまない、というよりは、社内外の詳しい人から引き出すマインドが必要になってくる。そういう人は部下に教えてもらうのは厭わない。というより、「若い人や社外の詳しい人に教わるのは当然」と思っている。知らないことでプライドが傷つけられない。会社のITを担うという難しいことをやっているのであれば、そんなことはどうでもいいと思っている。
そうやって教えてもらった上で、会社にとって的確な判断をするのが自分の枠割だと思っている。

そして周りの人に気軽に教えてもらう関係を作るのもうまい。もちろん、教わる相手に対するリスペクトもあるし、部下ともカジュアルな関係を作っている。意図的に相談を持ちかけられやすくしている。相談に乗ると勉強になるからだ。




★言語化能力、お絵かき能力
目に見えないものを多くの人が共同作業で作っていく。関係者の中にはプログラミングはうまいが業務をよく知らない人もいれば、その逆の人もいる。そういう人たちを同じ目標に向かってもらうためには、目指すものを言葉か絵で表現する必要がある。
比喩が上手くて話が面白い人もいるし、さっとホワイトボードに作りたいものを書き出す人もいる。この辺りも「まずは1人で動くものを作り、みんなに見てもらおう」というワークスタイルとはずいぶん違うところだろう。


★白黒つける
仕事によっては、あまり物事を明確にせずにヌルヌルと進めたほうが上手くいく場合もあるだろう。だが、ITに関してはそれはご法度だ。最後の最後は「もしAの時はBとすべきか?Cとすべきか?」を決めなければならない。
お金のかけ方、責任範囲、スケジュール、リスクへの対処・・すべて白黒つけなければうまくいかない。意思決定から逃げても「未決」という状態が長く続いてしまうだけのことだ。

だから、優れたITリーダーは自分の意思、会社としての決定を明確にする。そういうコミュニケーションスタイルになる。日本的な組織の中では多少浮き気味になるが、それは職業柄、仕方のないことなのだ。
同様に、なるべく結論を先延ばしにしないようにする。結論の先延ばしがコストに直結すると知っているからだ。
決められないことがひとつあると、関連することを議論するときに、すべて「あれがAの場合はBで、CならばDで・・」と2重に議論しないといけなくなる。


★衝突を恐れない
日本と欧米の両方でITプロジェクトを率いた方が、「日本でプロジェクトをやるときに一番問題なのは、みなコンフリクトを避ける事だ」と言い切っていた。僕もそう思う。
プロジェクトには多くの立場の人々が集まっている。当然、見解が分かれることはしょっちゅうある。
「発注者とベンダー」「ユーザーと開発者」「経理部門と営業部門」など、構図は様々だが、やるべきことは変わらない。・まず見解が分かれていることを双方認識する
・お互いの立場と意見を伝え合う
・どちらが全体最適かを議論する
・第3の選択肢がないか探る
・結論を下す

「白黒つける」とも重なるが、こういうプロセスから逃げていても、いずれもっと大きな問題になって帰ってくるだけだ。解決する時間がなくなっていたり、双方投資してしまって損害が大きくなったり。なるべく早いうちに衝突し、決めなければならない。


★胆力
プロジェクトというのは、不確実なものである。
初めてやる活動だから、やり始めて初めて判明することが多い。黒部ダムのためのトンネルを掘るというプロジェクトの場合は、地下水が吹き出す硬い岩盤が非常に難所だったそうだが、そんなの着工時点で分かるわけがない。
だから「この先どうなるかわからない」という不安定な状況に適応するしかない。

ITリーダーに一番向いていないのは「リスクを0%にしないと不安でしょうがない」という人だ。ITという道具は(他の大抵の道具と同じように)使う際にはリスクを伴う。情報漏洩や金額誤りやスケジュール遅延、コスト増大など。それでも使わなければスタートラインに立てないのだから、リスクとお付き合いしていくしかないのだ。

胆力とは、腹が座っていて、リスクを飲み込む力のことだろう。リスクを減らすべく、打つべき手を打ち、あとは見守る。問題が出たらその時々で最善(に見える)手をうつ。そうしなければ前に進めなくなってしまう。
人間的に大きいとか、本質的に楽観的とか、大将的な人間性が問われる。


★長期視点、全社視点
これはまあ、経営に近いビジネスパーソンとして当然だろう。
いくらITの世界が日進月歩といえども、10年、20年先の自社のITやIT部門の有り様を考え、判断する姿勢。
ある責任ある立場の方にかつて「15年先の当社のITについてこれから議論しましょう」と言ったら「15年どころか3年後には私は定年だから、責任持って議論できない」と返され、大変がっかりしたことがある。
それじゃあ、一体誰が将来について考えるんだろう?
自分は恩恵を受けなくても、最後まで責任を取れなくても、「将来のビジョンを作ることの責任」はあるはずでしょう・・。


★変化への適応
一方で、逆説的だが、必要であれば、変化することへも腰が軽くなければならない。
先ほどとは別の方が「今後ウチの会社の基本言語はJavaで行くべきだ、と部下たちが言うので、組織全員でJavaを勉強することにした。部長も課長も全員でプログラムを何本も作ってみる。やってみることで、色々と見えてくるものがあったよ」とこともなげに言っていた。
「うちの社員はCOBOLしか使えないから・・」とか言っていてもしょうがない。
この辺も楽観的な性格がベースに必要なのかもしれない。



こういう「すごい人の特徴」を挙げていくと、スーパーマンになってしまう。
今日書いたITリーダーの場合、「なんでも知っている」という博覧強記の人ではないが、人間的にはかなり優れた人ではある。すべてを満たすのは難しいので、まずは傾向として目指し始めるところからやるしかないんでしょうね。「お絵かき能力」や「長期視点」あたりは難しいが、オープンな姿勢を心がけるくらいは今日からできる訳だし。

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コメント

ardbeg32

人の話を聞いて意思決定が早くても、「部下から話は聞くだけ聞くが、結局自分の思った通りに結論付けて、部下に同意を『強要する』」タイプの上司だと大変なのです。
「インターネット端末は業務端末からネット的に隔離されてるから、ウイルス対策ソフトはいらない」なんて結論が先にありきで、部下から対策ソフトの導入の大切さを聞いたところで、「でもやっぱり業務端末さえ対策してあればインターネット端末には対策はいらないじゃないか、な、そうだろ!」と部下に同意を強要し、なにかあったら「あのとき部下も賛同しました」とケツをまくる。
リスクは飲み込むもので、なかったことにするものじゃないというのがわかってないわけで、こういうのがITリーダーだとあっちこっちにリスクが潜在したシステムが組みあがるわけで、いつ表面化するのかは神のみぞ知る。
コンフリクトを回避するのはダメだけれど、ジャイアンというのも困り者だと思います。

ardbeg32さん、こんばんは。
おっしゃる通り、「優れたITリーダー」と「部下になりたくない人」は紙一重かも知れません。その紙一重を分けるものは何なのか?はまだ僕の中でも整理できていません。
誠実さ?判断力?やっぱり技術知識??
でも、これを書くために思い出した優れたITリーダー達は、単に優れたリーダーなんですよね。ITかどうかにかかわらず。うーむ。

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