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撤退戦(引継ぎ)の鉄則10箇条、あるいは「育つプロジェクト」を育てるために

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★プロジェクトからは必ず撤退する
僕らは変革プロジェクトを成功させるのが仕事だ。プランだけ立ててあとは頑張ってね、ではなくて立ち上げから成功を見届けるまで、一貫して支援することに強くこだわっている。
しかし、そのことの裏返しとして「お客さんが僕らコンサルタントに依存しすぎないようにする」にもこだわっている。

成功を見届けるまでやる、泥臭い現場仕事も成功に必要ならばやる、というスタイルだと「コンサルタントがいないと仕事が回らない」という状態になってしまうことがある。
コンサルティング会社によっては「シメシメ」という状態かも知れないが、僕らはそうは思わない。ずっとコンサルタントに依存するということは、コストが高い人を雇い続けないといけないわけで、変革をやった意味がなくなってしまうからだ。


そこで、プロジェクトを成功させた後の撤退戦が重要になる。プロジェクト成功と同じ数だけの撤退戦を戦う。一時的に僕らが引き受けていた仕事、僕らが作った業務やシステムをその会社の人たちだけで回せるようにする。

これは、汗と涙で勝ち取った変革プロジェクトの成功を、ムダにしないために本当に大切な活動だ。ここをおろそかにすると「コンサルタントが去った後には何も残らなかった」ということになる。それなら最初から変革プロジェクトなど、やらない方がマシだ。



★撤退、引継ぎで一番大切なこと
撤退戦で一番大事なのは、最後に残るしんがりメンバーのプロフェッショナリズムだ。
プロジェクト稼動という華々しい場面が終わった後のけだるい状況でも、きちんと士気を保つこと。お客さんにとって正しいことを最後まで考え続けること。
プロジェクトが盛り上がっている中で頑張れる人は多いが、こういう収束局面でこそ、真のプロフェッショナリズムが問われる。

だが、今日は「みんなプロでしょ」という前提のもと、もう少し技術的なこと、ノウハウめいたことを書こうと思う。



★第1条:依存心をマインドチェンジさせる
いなくなる人、特にコンサルタントは何らかの貢献をしているはず。
つまり、頼られている。

「もうこの人達がいなくなるので、頼れなくなる」と、残る人々に思ってもらうこと。
全てはこれがないと始まりません。
このマインドチェンジがないまま、知識を教え込もうとしても、教わる側は上の空でしょう。



★第2条:撤退後の姿をイメトレしてもらう
せっかくの変革の成果を余すことなく刈り取るために、必ず撤退後の計画を一緒に練ります。
「僕らはいないけれども、次にこんなことをやれば、更に良くなりますよね!」と。その射程距離を長くすると「永続的に成長するプロジェクト」を後に残すことが出来る。

大切なのは、その中で、今後何が起きうるかを具体的に想像してもらうことだ。第1条のマインドチェンジを徹底することにも繋がる。

具体的には・・
・マスタープランを手元に置きながら、
・今後発生しそうなリスクをみんなで挙げ、
・そういう事態を起こさないためにどんな対策が取れそうか、
・それでも起きるとすれば、いつ起きるか(トリガーポイントを明確にし)、
・起きた時にどう対処すればよいか
を話し合い、「プロジェクト・リスク一覧」にまとめる。

これは単なる知識の移転にとどまらず、変革マインドを後に残す、という重要な意味がある。フランスワールドカップの代表から漏れた三浦知良が「魂だけはフランスに置いてきた!」と言っていた、あれです。



★第3条:並行稼動期間をつくる
引継ぎで一番有効なのは、
「引継ぎ相手が自分で仕事をやるが、困ったときには前任者に聞ける」
という期間をなるべく長く作ること。

ほとんどの引き継がれる人は想像力不足なので、教えてもらっている最中に「何か質問ある?」と聞かれても、お腹いっぱいで質問どころじゃない事が多い。
自分でやって困った事態に陥って始めて、質問が浮かぶのです。

同様に、ほとんどの引継ぐ人は想像力不足なので、自分でやることになり、困った相手から質問されて始めて、「ああ、これも引き継いでおかないとな」に気づくのです。

だから、強制的にそういう期間を設ける。
困ったときにはもう聞く相手はいない、というのが一番悲惨。


会社の定期ローテーションや突然の退職などでは、並行稼動期間を作れないことがある。一方で、プロジェクトは元々ルーティーンワークではないので、なんとか並行稼動期間を作ることは出来るもの。
管理職が引継ぎの重要性を理解していれば・・。
(理解していないケースが多いけど)



★第4条:今後のスタンスとマイルストーンを宣言する
当たり前ですが、撤退日の数カ月前には、それを決定し、周知する。
第3条の並行稼動期間はいつからいつまでなのか。それに先んじて、知識をいつまでに教えるのか。本当にいなくなるのはいつなのか。
スケジュールはもちろん、各フェーズでの「スタンス」を伝えることも、心づもりをしてもらうためには必要だ。
よくあるスケジュールは、
1ヶ月目:引継ぎ相手を決定してもらう
2ヶ月目:知識移転
3ヶ月目:並行稼動期間

3ヶ月目が終わると、本格的にいなくなる。



★第5条:だいぶ昔からさかのぼって経緯を説明する
しっかりした真面目な人が引き継ぐ場合、知識を教えることはやるのだが、経緯、つまりストーリーを伝えないことが多い。いらないと思っているのだ。

やはり経緯が分かっているかどうかで、判断の品質は変わる。
仕事を引き継ぐ以上、単にマニュアルに書いてある事を実行するだけでなく、イレギュラー事項に対処しないといけない。そのためには経緯をちゃんと共有しておくことだ。

そして経緯(ストーリー)の形で語ったほうが、普通の人は情報が頭に入りやすい。興味を持って聞いてもらえる。

僕らが撤退する際は、直接は関係がなくても、「プロジェクトをやる前はどうだったか」「そもそもなんでプロジェクトを始めたのか」「どう苦労したのか」なども語り起こすことが多い。



★第6条:やっていることの棚卸しと引継ぎ先の明確化

基本です。

ですが、コレがきっちり出来る人は、1割くらいしかいない。
特に長くやっていればいるほど、無意識でやるルーティーンワークが増え、それを洗い出せなくなってくる。



★第7条:ドキュメントは中身よりも読み方を教える
真面目な人であればあるほど、仕事をしながらドキュメントをちゃんと残してある。そうして引継ぎ相手に「ドサッ」とそれを渡す。すごく真面目な人は、それを丁寧に解説してくれる。
でもさ、分厚い引継ぎドキュメントを渡され、説明されても大抵の人は持て余すんだよね。そんなに一度に頭にはいらないから。

というわけで、ドキュメントを引継ぐ時は、中身よりも
・どういうドキュメントがあるのか
・ドキュメントはどういう関係になっているのか
・どういう時にはどれが助けになるのか
といった、「ドキュメントの使い方」を説明するべきだ。
「魚をあげるよりも釣りの仕方を教えよ」という中国の逸話があるが、「知識をあげるよりも知識の調べ方を教えよ」という感じかな。
これが足りていない場合は、大量のドキュメントは宝の持ち腐れになります。



★第8条:マニュアルを作るなら、引き継がれる人が作る
ドキュメントがちゃんと揃っているならばいらないのだろうが、そうでない場合は、撤退戦の中で作ることになる。
ただし、引き継がれる人が作るのが理想だ。
引き継ぐ人がマニュアルや引き継ぎドキュメントを作れるのは当たり前。引き継がれる側は普通は作れない。だが、作ろうとすると、無理矢理にでも学ばなければならない。そのこと自体に意味がある。そして後々、いざというときには他の人が作ったものよりも、自分が理解しながら作った書類のほうが頼りになるものだ。



★第9条:並行稼動期間中は、介入しすぎない
第3条の並行稼動期間を採用すると、本当にいなくなる日よりも前に、引き継ぎ日(バトンタッチの日)が訪れる。
この日を超えたら、基本的には介入しすぎないように注意。
本人および周りの人が「もう、この仕事のオーナーはこの人なんだ」と認知する事が重要だから。

むしろ引き継ぐ側が「あの件、どうなっているんですか?」と突っ込む側に回ってもいいくらい。それまで自分がやっていたのを棚に上げて、しれっと聞く。


引き継ぎ日を越えても介入し過ぎると、本当にいなくなった後に、引き継がれる人が大変な思いをする。
手を出さないことが、かえって引き継がれる人のためなのです。



★第10条:引き継ぐ側にもチャレンジを用意する
撤退戦って、やっぱり後ろ向きな仕事です。
そうして、第9条で書いたように、手を出し過ぎないことが重要。
ただしそうすると、モチベーションを保ちなくくなる。真面目な人であればあるほど。
だから撤退戦の時は、それまでやっていた仕事とは別のチャレンジを作る必要がある。


例えば、隣の仕事を2ヶ月限定で改善することに取り組むとか。
ちょっとしたマニュアル作っちゃうとか。
時間が限られているから、それほど大したことは出来ないが、ちょっと背伸びするくらいの難しい仕事の方がいい。

簡単なマトリクスを書いてみたので、参考にして欲しい。

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※関連過去記事
なぜ仕事ができないヤツほど「マニュアル読めば分かりますから」とか言うのか、あるいは引継力=仕事力

組織的に引き継ぎを仕掛ける方法、あるいはベンダーロックオンを防ぐために



****一言コメント************
みんなが休んでいる中、お盆に出勤するのが好きだ。
電車も空いているし、電話も少ない。プロジェクトがお休みになっている場合は、ゆっくりとプロジェクト外の仕事が出来る。何より、お盆はどこへ行っても混んでいて高い。
夏休みは9月ごろにとることが多かった。

とは言え、本当に夏が暑いのは、お盆前後の3週間くらい。体のためにはこの時期に休みを取ったほうがいいんだよね。夏バテ防止という意味で。個人的にはこの数年、クソ暑い中で熱中症と闘いながら自転車に乗ったりしていて、もうそういうレベルの話ではなくなっているけれども。

今年は仕事と家庭の都合で、社会人になって始めてお盆に休むことにした。
皆さんも暑さに気をつけてください。

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