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【書評】白川克『会社のITはエンジニアに任せるな! ―――成功率95.6%のコンサルタントがIT嫌いの社長に教えていること』(ダイアモンド社)

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本書の概要

非エンジニアのビジネス・パーソンも、ITを使わないと仕事が進まない時代になりました。ITが苦手なままどんどん昇進してしまった場合、ITプロジェクトの経営的判断を求められてもさっぱりわからない、という事態に陥りかねません。

そのような事態を避けるために、オルタナティブ・ブログ ブロガーの白川克さんが新作を発表されました。『会社のITはエンジニアに任せるな! ―――成功率95.6%のコンサルタントがIT嫌いの社長に教えていること』(ダイアモンド社)です。

「ITエンジニアに丸投げするには重要すぎる意思決定を、アドバイスを聞きながら自分で判断できる」ようになりたい人のための本です。

ITのことをわかっていないと、ITプロジェクトを適正に進めたり、不要なコストをかけてしまったりしかねません。

そのため、エンジニア経験がある著者・白川さんが、コンピューターや通信の仕組み云々がわからない人に向けて、プロジェクトを進める上で知っておくべき"ITの本質"を理解できるように本書を書いたそうです。

ITに苦手意識があっても、この本の内容を実践すると、業務に役立つIT活用・ITプロジェクト推進を実現できます。副題には"IT嫌いの社長"と書かれていますが、経営者を目指しているビジネス・パーソンにも役立つ本ではないでしょうか。

本書で紹介されている事例

ファシリテーションが得意なコンサルタントが、"業務改革に役立つITプロジェクトの進め方"を解説しています。

『会社のITはエンジニアに任せるな! 』の目標は、以下の三点です。

  1. 会社にとってITとはそもそも何なのかを解き明かし、
  2. それをベースに「ITを思うように会社の武器にできない理由」を探り、
  3. 武器にするための具体的な方法を提示すること
    ※前掲書 はじめに p.Ⅴから引用

目標を達成するために、段階をふんで必要なスキル・考え方を学ぶことができます。

  • 第1章 なぜ、ITを会社の武器にできないのか
  • 第2章 成功率3割を9割に引き上げるためにやっていること
  • 第3章 異様に高いコストを下げる方法
  • 第4章 勘・経験・度胸に頼らない投資計画の立て方
  • 第5章 変革リーダーを組織的に育てる
  • 第6章 結局、我が社のITはどこを目指すのか
  • 第7章 意思を込め、長い目で育てよう
  • 第8章 そして、経営の足かせを武器に変える

"ツール型IT"と"プラント型IT"

第1章「なぜ、ITを会社の武器にできないのか」に登場した、"ツール型IT"と"プラント型IT"の考え方は非常に重要なので、この場でも説明します。

白川さんは「会社で使うITには、「ツール型IT」と、それとは別に、会社にとって死活的に重要な「プラント型IT」があると考えるべきなのです(前掲書 p.3)」と指摘しています。

「ツール型IT」はざっくり言うと、メールやプリンター、会社のウェブサイトなどを指します。「ツール型IT」は便利な道具です。しかし、会社の業務や経営に大きな影響・打撃を与えるわけではありません。

「プラント型IT」は会社の業務と密着したITを指すそうです。プラントは石油プラントのように複雑な工業施設を指します。

精密に作られた複雑な設備が組み合わさって、正確に動作します。複雑に組み合わさっていますから、些細なミスでも命取りになりかねません。

「プラント型IT」は業務と密着したシステムなので、経営に影響をもたらすITです。既存のソフトウェアではまかなえないため、自社で独自に作る必要があります。

業務改革プロジェクトの七割はITと関連あり

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ株式会社が支援する、業務改革プロジェクトの七割はITと関わりがあるそうです。

  • 最初からIT構築ありき 約三割
  • 分析の結果ITに手を入れる 約四割
  • IT無関係 約三割
    ※箇条書きの内容は前掲書p.21 図5から抜粋

ITをテコとして会社を変えていく施策か、やりたいことを成し遂げるためにITを大幅に組み替える必要がある施策に、どうしてもなってしまうのです。なぜかといえば、ここで問題になっているITがプラント型ITだからです(前掲書 p.20)

修正と追加を繰り返して内部構造がゆがんでしまったシステムを使っていると、社員はITに振り回されながら日常業務をすることになります。

抜本的に社内システムを改善する必要があるときは、経営陣がITに関する意思決定をする必要があります。その際に経営陣はITの投資判断やIT人材の育成と確保、ITビジョンを立てる必要があります。

業務部門もそのようなシステムが業務に必要なのかニーズを経営陣・IT部門に伝える必要があります。経営陣・業務部門・IT部門の連携によって業務改革は可能になります。白川さんがp.21の図5で指摘しているように、「IT改革と業務改革は常にセット」なのです。

PLの養成は特に重要

プロジェクトを進める際には、「勘・経験・度胸に頼らない投資計画(前掲書 p.98)」を立てる必要があります。

コストが予定よりも大幅に大きくならないためには、「プロジェクトが予測困難であることを前提に、検討が進むたびに見積もりをやり直し、一回立ち止まり「本当に投資するのか」を問い続ける作戦(前掲書 p.120)」を取る必要があります。

白川さんは、「経営、特に変革のスピードは、ITプロジェクトを任せられるプロジェクトリーダーの数で決まる(前掲書 p.136)」と考えているそうです。ITがボトルネックになる理由はPL(プロジェクト・リーダー)の数が足りず、着工できないから。

PLは経営陣・業務部門・IT部門の間にたって、問題解決や進捗の調整を行います。経営・業務・ITの知識を持っている必要があります。白川さんによると「カリスマ性というよりは、話を聞き、全社最適の観点から方針を決断し、丁寧に説明してまわるようなタイプが向いています(前掲書 p.142)」とのこと。

このような仕事が勤まるPLの人数に合わせてプロジェクト数を押さえる必要がある。しかし、数が足りないので着工できない、というのは実にもったいない話です。

したがって、長期的視点で、社内の変革プロジェクトを担えるPLを育成していく必要があると考えられます。

"熱海の旅館化したIT"より、伊勢神宮の遷宮方式のITを!

"熱海の旅館化したIT"が言い得て妙なのは、古くなったシステムを根本から作り直さないで、古いシステムに必要な機能を追加する事が多いからです。時間が経つにつれて、だんだんおかしな構造になってきて、つじつまが合わなくなっていきます。

時間が経ってから修正に対応するエンジニアは悲鳴を上げることになります。私がプログラマー見習い時代に担当したのも、汎用機系の"熱海の旅館化したIT"でした。

社内システムが"熱海の旅館化したIT"になってしまった場合、

  1. 遅い
  2. 不安定
  3. 変えられない
  4. 高い

という状況になります。

「この不安定な状況でおっかなびっくり使い続ける」か、「抜本的に作り直す」のどちらかを選択するしかなくなります(前掲書 p.209)。

CIOが社内システムを抜本的に作り直したいと思っても、機能がアップするわけではないのでOKがもらえない事態に陥ります。しかも、業務部門の人が入力作業をしているだけになっている場合、ビジネスロジックがわからなくなっている事態も起こりえます。

【ビジネスロジックの例】ビジネス上重要な判断基準、チェックすべきこと、計算式、などを指します(前掲書 p.211を参照)。

それでも巨大なシステムを再構築する企業が存在します。その理由を説明するものとして、本書では

「伊勢神宮の式年遷宮なんです。と他の経営陣を説得しました」というのが、そのプロジェクトを主導しているCIOの言葉でした。(前掲書 p.213)

が挙げられています。

式年遷宮は、デジタル大辞泉によると、

【式年遷宮祭】 定期的に神殿をつくり替え神座を移す、神社にとって最も重要な祭儀。伊勢神宮では、原則として20年ごとに行われている。

と解説されています。

【補足】出雲大社や上賀茂神社など、伊勢神宮以外の神社でも行われています。式年遷宮を行う理由は不明です。

白川さんによると、式年遷宮を行う理由の有力説の一つに挙げられる宮大工の技術継承」をITに応用する企業が増えてきたそうです。定期的(20年に一度? )に"プラント型IT"をゼロから再構築することによって、「ゼロから業務を組み立てる経験」ができます。

何故このようなことをしているのか、自分たちの業務は何をやっているのか。本質を見失わないためにこのような経験は欠かせません。

IT部門が果たすべき役割とは?

ITプロジェクトの成功は、「あらかじめ決められた品質と予算と納期を守り、プロジェクトを完了させること(前掲書 p.245)」と定義されています。

しかし、前掲の条件を守ったのに、経営面でプラスにならなかったという事態が起こりえます。経営面での成功とITプロジェクトの成功条件は違うと言うことなのです。

本書は経営者やビジネスパーソンを想定して書かれていますが、IT部門の人にも読んでいただきたい本です。ITプロジェクトは、

  • 経営
  • 業務部門
  • IT部門

の三者で行うものだからです。(コンサルタントが三者の間に入ります。)

グルーバル化した中、競争を優位に進めるためにはプラント化ITが必要になります。自社独自のITビジョンや、IT部門はどんな役割を果たしているのか。

白川さんは"IT部門の役割"を4つあげています。

  1. 新規事業創出
  2. 業務コンサル
  3. 維持発展
  4. 便利な道具提供

これらの役割を通して、IT部門は何を目指すのか。その認識は経営陣や業務部門と共有できているのか、が重要になります。何を任せて、何をやるのか自覚する必要もあります。

本書では、専門用語を極力使わないように心がけたそうです。一見、経営者、ビジネス・パーソン向け印象を与えます。しかし、「お客様に一生懸命しているのに話が通じない・・・」と悩んでいるエンジニアが読むと、説明の仕方や考え方の参考になるのではないでしょうか。

おわりに

この本はITがわからない人に、

  • ITプロジェクトの本質とは何か、
  • ITプロジェクトをどのように進めれば、経営にメリットが生まれるのか

を伝えるために書かれました。

"会社のITはエンジニアに任せるな! "という挑戦的な書名とは裏腹に、エンジニアが読んでも役に立つ内容であるのも興味深い点です。

  • ITプロジェクトのコスト・予算が安くなる方法
  • IT人材を育てる方法
  • ITプロジェクトの成功率が高い会社が行っている方法

が書かれている点も魅力的です。

白川さんは「費用対効果で示せない判断こそが経営幹部の仕事(前掲書 p.216)」と書かれています。すなわち、「正解のない、数値で表せないような判断を現場に押しつけるな(前掲書 p.217)」ということです。

"プラント型IT"を育てて行くには、

  • ①目先ではなく、長期のメリット・デメリットを考えること
  • ②時には損得を超えて、信念に基づく投資を決断する
    ※前掲書 p.226から引用

ことが必要になります。

それには経営陣がITから逃げないで、業務改革プロジェクトに向き合うことが必要になると言えるでしょう。

最後に。この本は著者の白川さんから献本していただきました。大変ありがとうございました。

今回、紹介した書籍

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