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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

【書評】田中淳子『速攻! SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』日経BP社より

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習わないと出来ないなら適正がない!?

新入社員が入社する時期が近くなって来ました。新人の社員や部下をうまく育てたい。しかし具体的にどうしたらいいのかわからない、というSE・プログラマーさんもいらっしゃるのではないでしょうか。

実際に訓練校時代の生徒さんから聞いてびっくりしたのは、先輩が本を1冊渡して新人さんが個室で本を読んでサンプルのソースコードを入力するだけだったという事例です。(一ヶ月間)

「『習わないとできないなら適正がない』と言って、本渡すだけは普通じゃないですか。1週間から一ヶ月の間に独習して、いきなり現場が普通じゃないですか? 」とのこと。

先輩社員と同じ部屋で、なおかつ周りを観察して学べる環境ならばまだマシ。ですが、本を渡されて個室で独習して研修の効果があるのかなと驚きました。

門前の小僧、習わぬ経は読めないと同じ?

講師の田中淳子さんが「「門前の小僧、習わぬ経は読めない」時代に」で以下の様なことを書かれています。

・「背中を見て育つ」と言うけれど、「背中」が今は存在していないケースが多い。セキュリティの関係で入れない場所、見えないデータ、話せない相手が増えている。

あるいは、コンプライアンス、個人情報などの絡みで、漏れ聞こえてくる情報(実は、漏れ聞こえてくる情報で学んでいたことは非常に多かったはず) も激減している。

日常のコミュニケーションは電子的になされ、「先輩のしていることから学ぶ」チャンスが本当に少ない。なんせ、「背中」が見えないのだか ら。
※http://blogs.itmedia.co.jp/tanakalajunko/2013/01/post-98df.html より引用(改行は片岡が追加)

先輩社員が部下・後輩に「独習しなさい」と言うならば独習してスキルを伸ばすことができる環境を用意する必要があるのではないでしょうか。

SE・プログラマーの人が部下や後輩を育てる方法については田中淳子さんの『速攻! SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』(日経BP社)が非常に参考になります。

  • プログラムは組めるけど、他人に教えるといっても感覚的にしかわからない
  • 社内研修で講師をすることになったけどどうしたらいいのかわからない

「教えるって何を? 」と思っている人におすすめの本です。

参考:田中 淳子 『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック (日経ITプロフェッショナルBOOKS)』

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第一部:ティーチングより

テクニック1・理由や根拠を明らかにし、相手のレベルに合わせて説明する

第三者に何かを教える時、読者の皆様は何を意識しますか? そして「教える」とはどんな行為なのでしょうか?

田中淳子さんは以下のように説明されています。

そもそも教えるとは相手の行動を変容させる行為といえる。相手がそれまでできなかったことをできるように指導する。それだけの事なのだが、これが難しい。

「単に自分はできる」ということと、「人をできるようにする」こととは全く違うからである。
※前掲書p,12より引用

第三者に何かを教えた際、説明をしたり課題を与えたりするだけでは「教えた」にはならない。相手ができるようになった段階で初めて「教えた」といえるわけです。

教えた相手ができないままの場合、自分の仕事の負担が増えてしまうだけでなく会社にとっても損失になりかねません。「上手に教えることは自分自身のため(前掲書 p,12より引用)」でもあります。

上手に教えるための3つのポイントは

  1. 知識や技術の根拠を明らかにして論理的に説明する
  2. 教える相手のレベルを考慮する
  3. 教える相手を子供扱いしない

です。

経験や勘でできるようになった人の場合、「こういう理由があるから○○したほうがよい」と説明できないと、「どうして○○しないといけないのか」質問された際に答えられなくなります。

田中さんは「論理的に教えられないITエンジニアは、自分が人から教わるときの過去の姿勢に問題があることが多い(前掲書p,14より引用)」と書かれています。論理的に説明できないときは自分の理解・教わる姿勢を省みたほうが良いかもしれません。

【私の体験】生徒さんが突っ込んだ質問をした時に「そういうものだから。」と理由を説明せずに答えるとその後の信頼を失います。わからなかったら「調べてから回答します」と伝えて、理由を調べて後で伝えると信頼度が高まります。

テクニック2・相手を大人として尊重し、実務上の必要を常に意識する

部下や後輩を育てたい時に特に気をつけたいのは「相手を大人として尊重し、実務上の必要を常に意識する」ことです。一歩的に「○○しなさい」と教えたり、子供扱いすると習う人はプライドを傷つけられます。

田中淳子さんは「子どもに対する教育と成人学習の違い」について4つにわけて説明されています。(p,20)

  1. 自己概念
  2. 経験
  3. 学習における準備状態
  4. 学習への方向づけ

子どもたちは将来に役に立つことを教科中心に学びます。大人は「今、抱えている問題を解決するため」に学びます。先輩が部下・後輩に教える時は「今、解決したい課題があるから教える」事を意識する必要があります。

大切なポイントとして「教える内容が業務に必要な理由や、どう役立つかを明確に伝える(前掲書p,23)」という点です。習った技術がどんな場面で必要になるのか、原理・原則がわかると部下・後輩は理解がしやすくなります。

というのは「こういう理由でこの技術を学ぶのだ」とわかるほうが学習に意欲が沸くからです。単純な暗記では覚えたことしかできませんが、理解したものはその後の応用が効きやすくなります。

終わりに

その他、第一部:ティーチングでは講義形式で第三者に教える際に気をつけたい点が紹介されています。

例:

  • 教える前までに何を準備したら良いのか(指導プラン)
  • 講義はどのように進めればよいのか
  • 発問のテクニック

先輩がが一方的に説明するだけでは、部下・後輩が本当に理解できたのかわかりません。質問を投げかけ、授業に巻き込む工夫が必要になります。また今説明している部分がテキストのどのページなのか、全体ではどの辺りを説明しているのか生徒さんがわかる必要もあります。

第一部はティーチング編。したがって講義の参加者が自分で考えて問題解決できるために、先輩はどのようにしたら適切に教えることができるのか図表入りでわかるようになっています。

今回は紹介を割愛しましたが第ニ部はOJT編、第三部はチーム強化編です。教え、育てるスキルを学びたい方はぜひご一読を。

参考文献

【電子書籍版】田中淳子『速攻! SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック』日経BP社
http://netstore.nikkeibp.co.jp/FYI/130206/138066/?ST=a_pc

【書籍版】田中 淳子 『速効!SEのための部下と後輩を育てる20のテクニック (日経ITプロフェッショナルBOOKS)』

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編集履歴:2015.9.29 19:37 題名に【書評】を追加。参考文献の「↓以下のアプリを利用して読むことができます。」と記載した部分を削除。※日経BPストアのアプリが配信停止になっていたため。

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