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「全員営業」ということばを負担に感じるのはなぜなのか

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「全員営業で頑張って欲しい。」

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こんな経営者の言葉に、営業職以外の人たちは、

「営業じゃないのに、自分も営業して案件を見つけてこなきゃいけないんだ。」

「開発でめいっぱいなのに、売り込みなんかできないし・・・」

「営業センスのない自分に、営業しろと言われてもねぇ・・・」

「心」あるいは「意図」を丁寧に伝えないままに、「全員営業」という言葉だけを投げかけ、時にして現場に大きな精神的負担を与えてしまっている。

「営業活動をするからこそ自分たちの仕事があり、給料がもらえる。だから、営業は自分自信のためだということは分かっちゃいるけど、じゃあ営業しろ!と言われてもなぁ〜」

こういうことになってしまうのは、「営業」という言葉を共通の理解がないままに、それぞれに解釈してしまっているからだろう。

「営業」を「目的としての営業」、「行為としての営業」、「職務としての営業」に分けて考えてみるといいかもしれない。

目的としての営業

営業の目的は、お客様の価値を高めて、その価値の対価として代金を頂く行為だ。製品の販売やシステム開発、運用管理などの行為は、お客さまの価値を高める手段であり、それを売ることが目的ではない。

「お客様の価値」とは、お客様の業績の向上、つまり売上や利益の拡大であり、顧客や従業員の満足度を高めること。これまでにないビジネスを始めることかもしれない。そんなお客様の求める価値をお客様と合意し、これを実現することが「目的としての営業」だ。

行為としての営業

どうすれば、お客様の価値を高められるかを追求すること。一般的には「営業活動」と言い換えることができる。

「営業活動」とは、お客様の業務や経営について徹底的に理解し、深く考察することからはじめる。そこで得た気付きや課題、業績向上のアイデアをお客様と語り合い、強固な信頼関係を築くこと。そして、解決すべきテーマ、すなわち案件をお客様と共に創りあげてゆく。その上で、その取り組みを具体化し、提案としてまとめ、その取り組みについてお客様と合意すること。すなわち受注が「営業活動」のゴールとなる。

職務としての営業

「行為としての営業=営業活動」全般に責任を持ち、円滑に進める任務や役割のこと。利害関係の違いを調整する、金額を交渉する、必要なリソースを調達・手配するなどの仕事。

「行為としての営業」で、お客様と合意したことを実現するためのプロデュースと言い換えることもできる。様々な協力者やお客様の協力を引き出し、受注を獲得すること。そして、デリバリー成功のためにPMを支援し、お客様の満足と対価の回収を確実に行う役割を担う。

このように考えてみると、「全員営業」とは、「目的としての営業」を全員で共有することだ。そして、「行為としての営業」や「職務としての営業」は、それぞれの役割において、自分の責任を果たすこととなる。

例えば、エンジニアであれば、お客様の価値を高めるために、お客様の業務をどのように変えればいいのか、どのようなテクノロジーを使うべきか、どのような開発手法や運用の方法がいいのかを考え、提言することが「行為しての営業」に当たる。また、提案書の作成に協力し、必要なシステムの構成や技術的な助言をすることが「職務としての営業」となる。

大切なことは、「目的としての営業」を自覚し、それぞれの立場において目的の達成を追求すること。だれもが一律に「職務としての営業」すなわち「営業職」と同じ仕事をすることではない。

「全員営業」とは、「目的としての営業」を共有し、お客様の価値向上のために、全員がそれぞれの役割を全力で果たすこと。

そんなことは当たり前のことなので、「全員営業」などと取り立てて言う必要もないほどだ。しかし、そう言わざるを得ない理由があるとすれば、「目的としての営業」が正しく理解され、共有されていないからではないか。

営業の目的が「お客様の価値を高めること」であり、その対価として代金を頂く行為であるという共通の理解が棚上げされ、モノやサービスを売ること、システムを開発することなどの手段を提供することが目的となってはいないだろうか。お客様の業務や経営に関心を持たず、自分のやっていることが何のための仕事であるかを分からないままに、日々の職務をこなしているとすれば、「目的としての営業」が共有できていないことになる。

ビジネスの先行きが不透明な時代となり、環境の変化に即応しなければ生き残れない時代となった。そんな時代に、手段としてのITは、クラウドや自動化により人の関わる領域を減らし即応力を高めている。そんな現実に向き合うことなく、手段としてのITにこだわり続けても先が見えている。ならば、手段は積極的にクラウドや自動化に譲り、お客様の事業の成果に直接貢献することに役割を移してゆくしかない。

そうなったとしても、「目的としての営業」が変わることはない。ただ、「行為としての営業」や「職務としての営業」は変えてゆかなければならない。

「全員営業」という言葉をかけ声倒れにしないためには、こんな「営業」としいうことばの本質を問うてみては如何だろう。

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【新規】ハイパーコンバージド・システムのメリット p.137

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