ビジネス・プロフェッショナルのためのITを味方に付けるための3つのステップ
どこの製品やサービスを使えばいいのか、どのツールを使って開発や運用をすればいいのかなどの現場の実務についてはITの専門家(ITプロフェッショナル)の仕事です。しかし、経営者や業務部門(ビジネス・プロフェッショナル)は、自らの役割として次の3つのステップを実践する必要があります。
1.「あるべき姿」を明らかにする
- 圧倒的な価格競争力で業界トップの地位を確保したい
- スピード対応で他社の追随を許さない
- 顧客の要望にきめ細かく迅速に対応できるサポート力で顧客を囲い込みたい
どうやって実現するかではなく、結果としてどうなっていたいのか、すなわち「あるべき姿」を明らかにすることが最初の一歩です。
ITを使うか、ITを使わずに業務プロセスの改革で実現するかは、この段階で考えることではありません。むしろ、経営や事業のゴールを明確に定めることが、ビジネス・プロフェッショナルの大切な役割です。
2.達成基準を決める
どのような結果が出れば成功したと見做すのかを決める必要があります。例えば、「圧倒的な価格競争力で業界トップの地位を確保したい」のであれば、「売上、営業利益、顧客シェアでトップを維持する」こととなります。この場合は、売上だけを達成しても営業利益や顧客シェアで競合他社の後塵を拝するのであれば、成功とは言えません。
また、それを3年間かけて達成するのであれば、例えば初年度は売上、2年目は営業利益、3年目で顧客シェアのトップを達成すると言ったように期限を区切って達成目標を設定することです。
3.戦略・作戦・戦術を決める
- 戦略(Strategy):目指すべきゴール、すなわち「あるべき姿」を実現するためのシナリオ。
- 作戦(Operation):はこの戦略を実現するためのひとつひとつのプロジェクト。
- 戦術(Tactics):そのプロジェクトを遂行するための手段や道具。
これらひとつひとつを決めてゆきます。この段階で、はじめてITが関わってきます。
戦略(Strategy)
「戦略」の段階では、「思想としてのIT」を考慮する必要があります。人工知能やIoT、クラウドなどのテクノロジーの進化は、かつて非常識だったことを常識に変えてしまうことだってあります。例えば、
- これまではコストがかかりすぎてとても考えられなかった
- 高度な熟練が必要で人間にしかできなかった
- 規制があってできなかった など
テクノロジーの進化が常識を変える事例が数々登場しています。
「そんなことはできるはずはない」といった思い込みを廃し、テクノロジーのトレンドやデジタル・ビジネスの事例を丁寧に調べ、可能性を探ることです。
ネットや書籍で調べることも大切ですが、ベンチャー企業や大学などとの共同での研究や技術開発、優れた技術やアイデアを集めるイベントの主宰やコミュニティーへの参加など、感度を高く最新の事情に触れ、知恵や知識を持つ人たちとつながっておく取り組みが大切になるでしょう。
そんな知識を頼りに、例えば、「自動操縦技術とマルチスペクトル・カメラを搭載したドローンによる農場監視システムと人工知能による解析技術を活用して農業支援情報を提供し、農業生産の効率化と品質向上に貢献する」といった戦略を立てることができます。
作戦(Operation)
作戦においては、「仕組みとしてのIT」を考えます。どのような手順で、どのような手続きを行い、どのようなやり方で結果を出すか。そんなビジネス・プロセスや業務手順を明確に定義して、それを実現するプロジェクトです。
業務プロセスを改革するだけで、ITを使わずに実現するという選択もあるかもしれません。あるいは、効率やスピードを考えれば、ITをうまく使った方が効果的かもしれません。
ITを使うことを選択したとき、「ITの専門家ではないから」という言い訳をすべきではありません。目標を達成するためのプロジェクトである「作戦」において、業務プロセスやビジネス・モデルとITは分けて考えることができないからです。
具体的なプログラミングや機器の設定作業はITの専門家に任せればいいのですが、ITで何ができるか、どのような効果が期待できるかを正しく理解し、活用の仕方を考えることはビジネス・プロフェッショナルの責任です。
戦術(Tactics)
戦術において考慮すべきは、「道具としてのIT」です。例えば、
- どこのタブレット端末がコストパフォーマンスが高いか
- どのパッケージ・ソフトウエアが作戦の実現には最適か
- どの開発ツールを使えば開発の生産性は高まるのか など
これからおこなおうとしている「作戦」にふさわしい手段として最適なものはどれか、また、それを使えるようにするための手順や使いこなすためのスキルをどのように身につければ良いのかをITプロフェッショナルである情報システム部門やITベンダーに提案を求めるとよいでしょう。
新しいことへの提案をITプロフェッショナルに求めたとき、時にして「そんなことはできません」あるいは、「まだ技術的には未熟ですからやるべきではありません」といった回答をうけることがあります。特に、旧来のテクノロジーの経験しか無く、リスクを冒すことを嫌う保守的な情報システム部門やITベンダーも少なくありません。しかし、新しいことへ果敢にチャレンジしているITベンダーもどんどん登場しています。そういう企業にも積極的に提案を求め、可能性を広げてゆくべきです。
「うちと長年付き合いがあり、うちの事情もよく知っているから」といったことだけで特定ベンダーだけの提案を鵜呑みにしてはいけません。
- 他社の提案と比較し可能性を広げ選択肢を増やす。
- ビジネスの要件を正しく満たしているかを吟味する。
- 満たしていないとすればその理由は何か、どうすればギャップを埋められるかを議論し検討する。
最終的なゴールの達成はビジネス・プロフェッショナルの責任です。詳細な技術論はともかくとしても、彼らの提案の妥当性を評価し、できるかどうかの評価と確認は自らの責任であると自覚し、このような取り組みを通じて、知見を蓄積してゆくことも大切です。
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