歴史を振り返れば見えてくる情シスの存在意義とIT営業の存在意義
「情報システム部門の存在意義が問われている」
そんな言葉を耳にすることがあります。しかし、それは同時にIT営業の存在意義を問われていると置き換えることもできるでしょう。
もはや情報システムのない経営も業務もありません。当然、何でもシステム対応が求められます。グローバル展開、セキュリティ、パイル対応など様々ユーザーのニーズに迅速に応えなくてはなりません。おかげで要望は積み上がるばかりです。しかし、そんなに潤沢な要員もなければ予算もありません。対応は後手に回ります。
現場や経営はそれを情報システム部門の不作為ととらえるかもしれません。そうやって、情報システム部門は現場や経営からの信用を失い、その権威も低下することになります。結果として、予算の配分は頭打ちとなり要員の拡充もままならず、新しいことにもチャレンジできません。ますます要望に応えられなくなります。情報システム部門は、そんなスパイラルに陥っているように見えます。
1960年代から1980年代にかけてのメインフレームが主役として活躍していた時代、情報システム部門は企業の情報化を牽引してきました。基幹業務がまだシステム化されていなかった時代には、情報システム部門のスタッフは業務とシステム技術に精通し、両者の架け橋としての役割を担う専門家集団として、花形の仕事でした。
しかし、基幹系業務の多くがシステム化されると、今度はできあがったシステムを安定稼働させることがミッションとなり、運用や保守へと仕事の重点が移ります。このような既存システムに関わる業務工数が拡大する一方で、あたらしい業務プロセスに対応したシステム構築は少なくなり、既存システムのコピー・改修の仕事が増えてゆきました。その結果、業務全体を見渡すプロジェクトは少なくなってしまったのです。
そして1980年代のパーソナル・コンピューターの出現は、このような情報システム部門の権威をさらに失墜させることになりました。コンピューターが、もはや専門家のものではなく、誰もが使えるようになったのです。これまで何でも情報システム部門に依頼していたユーザー部門も、ちょっとした帳票の集計やレポートの作成ならユーザー自身の手でできるようになったのです。エンドユーザー・コンピューティング(EUC)という言葉が使われるようになったのもこの頃です。「すぐにできない情報システム部門に頼らない」という宣言にも聞こえます。さらにオフコン、ミニコンが普及し、ユーザー部門が独自にコンピューターを購入することも難しくなくなりました。メインフレームの常識とは一線を画す新しい技術が世の中に受け入れられ始めたのです。
これまでメインフレーム=コンピューターであり、その保守や運用管理に大半の労力を割いていた情報システム部門は、このようなあたらしいトレンドに対応することに消極的でした。というより、余裕がなかったのです。その結果、自分たちはこれまで通りメインフレームを主体とした基幹業務システムの維持・保守・運用に専念し、あたらしいトレンドに対応しなければならないときは外部に丸投げすることも普通となっていったのです。
情報システム資産のユーザー部門への分散、情報システム部門のメインフレームへの引き籠もりは、情報システム部門の存在意義を低下させてゆきました。また、業務全体を見渡す経験の減少は、業務のわからない情報システム部門のスタッフを増やしてゆきました。
既存の基幹システムの維持・メンテナンスに専念し、システムの安定運用を維持することは、それ自体大切な仕事です。しかし、あたらしい業務システムを構築するといった前向きな話しではなく、保守やトラブル対応は必ずしもモチベーションを高めてくれる仕事ではありません。このような状況のなか、情報システム部門は、その存在意義とやりがいを「技術」にもとめるようになったのではないでしょうか。
つまり、ユーザー部門が直接関わることが難しいシステム技術のスペシャリストであることに自らの役割を見出し、そこに存在意義を見出そうという意識です。業務はユーザー部門に任せ、自分たちは情報システム技術に専念するという壁を築き上げ、それに安住することで、結果として業務スキル蓄積の機会を遠ざけてきたのかもしれません。インフラやシステム開発の知識はあっても、業務プロセスを知らない情報システム部門になってしまったのです。
しかし、クラウドになれば、インフラの維持・運用や開発という役割も小さくなって行きます。彼らの存在意義を低下させることになります。
一方でITは効率化やコスト削減の手段から、競争優位を築く武器としての役割をこれまで以上に求められています。また、ITは企業や社会のインフラとしての存在感を益々高めています。つまり、経営のイノベーションをITが牽引する時代になったのです。その戦略的価値に関わることこそ、情報システム部門の大切な役割となるはずであり、そのための変革を求められています。
IT営業は、そんな情報システム部門の変革に役割を果たしてゆくべきです。情報システム部門のモノとヒトの調達係のままでは自らもまた存在意義を失いかねません。お客様である情報システム部門が変わることを助けるためにお客様の変革を提案し、その仕組み作りをお手伝いしてゆくことが、問われているように思います。
クラウドや人工知能など、販売や工数のビジネスが厳しくなることは避けられません。そんな中で、改めて存在意義を問われているのがIT営業であるという意識を持つ必要があるでしょう。
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