「新規事業」を作っているのか「新規事業計画」を作っているのか?
「ところで、何を売りたいんですか?」
新規事業を検討する打ち合わせの中で、こんな質問を投げかけてしまった。
「世の中にどのようなニーズがあるかは分かりました。皆さんが、何ができるかも分かりました。でも、それをどんなビジネスに仕立てようとしているのでしょうか。」
まだそこまでは考えていないとのこと。
「一般論としての世の中のニーズは分かります。しかし、具体的に、だれが、どのようなシーンで、何に困り、どのようにしたいと考えているのでしょうか。その実感を持っていらっしゃいますか?」
リアリティのある「使う人」が想像できないビジネスがうまくいくはずのないことは、容易に想像がつく。それにもかかわらず、自分たちのできること一般論を都合良くつなげて、新しい事業を描き、あたかも大きな可能性があるかのような合理性のある事業計画を作ってしまう。そんな現場に幾度となく立ち会ってきた。なぜ、そんなことをしてしまうのだろう。
それは彼らの目的が、「新規事業」を作ることではなく、「新規事業計画」を作ることになっているからではないのだろうか。
計画には承認者が納得できる合理性が必要だ。そのために自分たちの経験や既存の顧客、巷の話題など、経営者に分かる言葉や数字をつなぎ合わせ、相手に無用なストレスを与えず、すんなりと納得してくれそうな計画を作ろうとする。わかりやすいことやロジックが優先され、それにそぐわない事実は切り捨てられてしまう。その結果、自分たちのできることや既存顧客といった事業資産に都合が良い市場を創造し、その市場でこちらに都合の良いように振る舞ってくれる顧客を創造し、その市場や顧客に都合の良いデータとその解釈を与えることで、いかにもうまくいきそうな事業計画を創造してしまう。
そもそも新規事業とは、新たな市場や顧客の開拓なわけだから「既知」や「既存」がそのままでは使えない。にもかかわらず、既知や既存の延長でしか考えられないとすれば、それはもはや新規事業とは呼べないだろう。ならば、こんなことに無駄な時間を費やすよりは、既存事業をさらに改善し利益率を高めたり顧客の裾野を増やしたりといった取り組みに時間を費やす方がはるかに有益ではないだろうか。
Teachmeというサービスをご存知だろうか。業務手順書や作業指示書といったマニュアルをスマートフォンで簡単に作ることができるサービスだ。作業シーンや操作画面を作業の流れに沿って写真を撮って行くだけでマニュアルの基本的な流れが出来上がる。あとは、そこに必要に応じて解説を加えてゆくだけで完成する。
彼らは、もともと業務プロセスを改善するためのコンサルタントとして働いていたが、改善したプロセスを現場に徹底させるためにマニュアルを作っていた。そのために多くの手間と時間を割いていたのだそうだが、これを何とかできないものかという発想から、このサービスを思いついたのだという。いろいろと苦労はあったのだろうとは思うのだが、いまは順調に顧客を増やしているという。
リアリティのある現場ニーズが彼らにはあった。だから何が必要か、どうすれば良いかが具体的に理解できたのだろう。統計的な裏付けはないが、使いたいと思う人が確実にいることが感覚として分かっていたのだろう。たぶん、うまく行く新規事業というのは、こういう感覚的理解から発想するものなのかもしれない。
決して、数字的裏付けやKPIの設定を軽んじているわけではない。しかし、そもそも新しい事業なのだから市場も分からなければ数字もない。だから、こういう具体的な現場ニーズから発想し、試行錯誤を繰り返しながら改善を重ねてゆくしか方法がない。ある程度、ビジネスが軌道に乗り始めてやっと数字が予測できる。そうなれば、KPIも設定できるだろう。
ただ、このような「新規事業」を既存事業の計画と同じフォーマットで描かれていなければ承認しようとしない意志決定のプロセスしか存在しないとすれば、いつまでたっても「新規事業」は生まれない。
「新規事業」を作っているのか「新規事業計画」を作っているのか。もし、新規事業に関わっているのなら、改めて問い直してみては如何だろうか。
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最新版【2015年10月】をリリースいたしました。今回の目玉は、最新ITトレンドを俯瞰するチャートの追加、IoT関連のチャートの追加、ビジネス戦略の内容刷新とSIビジネスを分析したチャートの追加です。
【テクノロジー編】(379ページ)
- 「デジタル化の歴史」を追加しました。
- サイバー・フィジカル・システムについて、既存のチャートを修正し、さらに新たなチャートを追加しました。
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- IoTのもたらすパラダイムシフトについてのチャート
- フォグ・コンピューティングのチャート
- 「クラウドにつながるとモノはインテリジェンスになる」チャート
- 人口知能(ティープラーニング)についてチャートを追加しました。
【ビジネス編】(67ページ)
- 新たに「SIビジネスの現場や課題」の章を立て、8枚のチャートを追加しました。
- 成長してきたSI産業
- SI事業のコスト構造
- SI企業のアドバンテージ・マトリクス分析 など
- 新たに「SIビジネスのが直面する現実」の章を立て、既存のチャートと4枚の新しいチャートを加えました。
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目次
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- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン