個人で仕事をしている人は時間を「事業資産」と考えている
「来てもらえないでしょうか?こちらの考えていることをお話ししますので。」
電話越しに嫌な予感がしました。だいたい、こういうご依頼を頂くときは、「考えていない」場合が多いのです。
ある大手電子機器メーカーの技術管理部門にいるという男性からITトレンドについて研修をしたいので、相談にのって欲しいというメールをいだきました。そこで、まずは研修の目的や対象者、イメージしている研修内容など、本人の意向を伺おうと電話したのです。しかし、先方は、とにかく来て下さい、来たら話しますからの一点張りで、何も応えようとしてくれません。
行くのが嫌なわけではありません。ただ、手ぶらで行くのでは効率が悪いので、まずは概要だけでも伺いたたき台を用意しようと思ったからです。しかも、場所は東京郊外にあり、1時間ほど電車に揺られ、その後はバスかタクシーですから半日は潰れてしまいます。だから少しでも効率よく話を進め、すぐにでも結論を見極めたいと思ったのです。
断っても良いかなあ、とも思いましたが、たまたま候補日に他の予定はなく、仕事になるかもしれないとの下心も有り、行くことにしました。
作業服姿の40歳台半ばくらいの男性が現れました。彼は拙著「【図解】コレ1枚でわかる最新ITトレンド」を見て、自分のやりたいことのイメージに近いと思って連絡をしたというのです。
「お読みいだき、ありがとうございました。それでは、あそこに書かれているようにITのトレンドを俯瞰するような研修をご希望なんですか?」
そんな質問をしたら、次のような答えが返ってきました。
「いや、まだ買ってないんですけどね。上司から、うちの技術者にITのトレンドについて研修を企画しろと言われたんですよ。うちはもの作りの会社だから、その辺が弱いんですよね。そこで、"ITトレンド"で検索したらその本が見つかって、話を訊いてみようと思ったんですよ。」
これは、ダメだと思いました。しかし、高い電車賃と時間を使ってここまで来たわけですから、このまま引き下がるわけにはいきません。そこで、こんなことを訊いてみました。
「技術者ということですが、どのようなことを担当されているのでしょう。何人ぐらいを対象にされているんでしょうか?」
そのあたりはこれから決めようと思っていてまだ決まっていないとのことでした。
「研修の内容はともかく、研修の結果、どのような成果を期待されていますか?どんな気持ちの変化や行動に結びつけば良いとお考えでしょうか?」
上司に「ITトレンドの研修」を企画しろと言われただけなんで、そこまでは考えていないとのことでした。
もちろんのことですが、丁寧にお断りをして、その場を辞したことは言うまでもありません。
ここまで極端なことは、そうありません。ただ、時間についての価値観が、この人とはだいぶ違うと感じることは、時々あります。私のような個人で仕事をしている人間にとって、時間は言うなれば「事業資産」のようなものです。講演や講義、原稿や資料作成、調べものや打ち合わせなど、お金を生みだすための大切な資産なのです。仕事としてそれを使う以上、何らかの成果につなげたいと思うのは当然のことです。また、相手から時間を頂いた以上は、何らかの成果を返さなくてはいけないと考えてしまいます。
打ち合わせで、結果として目に見える形での成果が出なかったとしても、お互いがそういう意識で真剣に向き合えば相手への敬意は生まれ、また相談してもいいなぁと思えるかもしれません。それも次につながる立派な成果です。しかし、ここで紹介したケースのように、相手にそのような意識がなく、しかも一方的に無償での提供を求めてくるという方とは、二度と関わりたくないと思ってしまいます。
時間を「事業資産」と考える感覚は、個人で仕事をしている人ばかりではないと思いますが、個人で仕事をしている人にとっては、ストレートにお財布に影響するので、とても切実な感覚なのです。
講義や講演、打ち合わせで、相手の時間という資産に敬意を払えるかどうかは、とても大切なことだとおもいます。そういう意識が持てるかどうかは、自分の時間という事業資産をどれほど大切に感じているかにもよるかもしれません。この感覚は、サラリーマンを辞して強く意識するようになったことは確かです。
こんな偉そうなことを言っていながら、Facebookでついつい時間を潰してしまう自分がそこにいることもまた事実なので、なんともアンビバレントなことを言っているなぁと恥ずかしくなりますが、せめて相手には、そういう接し方をしたいものだと思うのです。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン