オルタナティブ・ブログ > ITソリューション塾 >

最新ITトレンドとビジネス戦略をわかりやすくお伝えします!

SI事業者のための新規事業の進め方 3/3

»

今日は、本連載の最終回。「実現するために必要となる条件や前提は何か」を考えてみよう。

leanstartup2.jpg

3.仮説を検証する

昨日紹介したように検討を重ね、競合にも勝てる魅力的な製品やサービスが明らかとなった。しかし、この段階では、まだ仮説だ。ならば、それが事実かどうかを検証する必要がある。

検証には、「最小で最高のプロトタイプ」を使う。汎用性を求めず、個別的、具体的なユーザーを絞り込み、彼らに最高の満足を提供できるであろう「現物」を作り、それを使って確認する。

資料を使ってプレゼンテーションし、アンケートに答えていだいたり、インタビューさせていただいたりでは、ユーザーの本当の評価は得られない。体験し、実感を持たなければ本当の評価は得られない。ただ、対象となるユーザーを広く捉えてしまうと、いろいろな機能を実装しなければならないため時間もコストも掛かってしまう。それよりも「現物」を手早く作り、絞り込んだユーザーに使ってもらいフィードバックをもらう。そして、そのフィードバックを元に完成度を上げてゆく。このサイクルを繰り返して、さらに完成度を高めとゆくといいだろう。

4.橋頭堡を築く

ここからは、具体的なイメージを持っていだくために、クラウドでサービス・ビジネスを展開することを想定して、考えてゆこう。

プロトタイプでの検証を踏まえ、限られたユーザーを対象とした「本当に使われ、利用者に実感として価値を享受できるもの」に絞り込んで、それだけを作り、サービスを提供する。まずはそこでのナンバーワンをめざすことだ。それを橋頭堡に「本当に使われ、ビジネス価値を実感してもらえる」機能を順次追加拡張し、利用者のロイヤリティを高め、その裾野を拡げてゆくことが現実的なアプローチとなるだろう。

「たぶんこんな機能が必要だろう」を洗い出し、全てを満たそうとするのではなく、使う人を絞り込み、その人に「本当に使われ、ビジネス価値を実感してもらえる」ことだけに機能を絞り込む。そして、スピードと変更への柔軟性を武器に、そのお客様の満足を追求する。最初から全員に65点のサービスを提供するのではなく、まずは一人に95点を提供するという価値観を持つことが大切だ。そのためには、「全部作らない、その代わりに変更への柔軟性を担保し、品質を徹底して作り込む」やり方が必要となる。これはアジャイル開発の思想だ。

また、「変更すれば即座に本番に反映し、ユーザーにメリットを直ちに提供する」開発と運用の関係、すなわちDevOpsの実践が必要となる。

どんなサービスを提供するかといった視点だけではなく、どのように開発し運用するかも含めた全体に取り組まなければ、サービスは実現できない。

5.仕組みで売る

例え機能が少なくても、従来のように営業がひとつひとつ交渉して、案件をまとめあげて来るやり方では、このような限られた顧客層では、ビジネスのボリュームを稼ぎ出せない。しかし、クラウドは、「売り方」の考え方をも変える仕組みだ。

対象とするユーザーは限られているとは言え、クラウドを考えた場合の母集団が膨大になる。そのため対象となるお客様の絶対数は桁違いに大きくなる。そう考えれば、例え対象ユーザーが限られていてもビジネスのボリュームを稼ぐことができる。

SI事業者が頼りにしていたPMや営業が個別に売ってくることを前提にするのではなく、マーケティングを重視し、「仕組みで売る」という視点が必要だ。当然、開発者は、「売り方」をも想定したシステムの実装が必要となる。

6.KPIの達成を求めない

新規事業は、何を成功と見做すかを予め決めることができない。「これはいける」とはじめても、うまくいかないことばかりだ。特にそれがこれまでに無い新しいビジネス・モデルであるとすればなおさらだ。

SI事業者が、これまで手がけてきたビジネスの多くは、既存の業務の改善が多い。コストを何割削減する、あるいは、できなかったことをできるようにするというように、前提となる基準が有るのでKPI(Key Performance Indicators: 重要業績評価指標)を設定できる。しかし、これまでにない新しいビジネスはそれがないのでKPIを定めることはできない。試行錯誤を繰り返し、KPIそのものを探しながらすすめてゆくようなものだ。

「3年後に10億円のビジネスをめざして欲しい。」

新規事業プロジェクトへの社長のこのような言葉は、現場の発想を硬直化しかねない。多くの発想がこの基準でフィルタリングされ排除されてしまう。それよりも、「将来、数千億円のビジネスになり、今の仕事を全て辞めてもいいくらいなビジネスをめざして欲しい。」と言って欲しい。大きな視野に立ち、世の中を変えることをめざして何かを取り組めば、例え失敗しても、規模はそこそこであっても次につながる新しい何かが残るはずだ。

ビジネスにとって成功は、売上や利益の向上だ。しかし、新規事業は、時にしてそれを実現するために、まず新しい市場やユーザーの価値観を創造しなければならない。それは何かを見つけることと「3年後に10億円のビジネス」をはじめから結びつけて考えることには、無理がある。「何か」を見つけ、収益が確実に上がる見通しが立てば、「3年後に10億円のビジネス」というKPIは、機能するが、それは先の話だ。

「新規事業プロジェクト」というボランティア・サークルで、「3年後に10億円のビジネス」という目標を与えられ、リソースも与えられずに自助努力を強いられるだけでは、成果をあげることはできない。これまでの自分達の常識とは大きく違うという自覚を持ち、覚悟して取りかからなければ、100年を費やしても何も生まれてはこないだろう。

このやり方が、唯一というつもりはないが、不確実性も高く、ビジネス・スピードも速い時代に新規事業を成功に導くためには、いずれのやり方をするにせよ、次の3点は心がけておくべきだろう。

  • 事業計画書は書かない。不確実な未来など予測できないから。
  • ユーザーを絞り込む。本当に使ってくれる顧客を増やし、確実に売上や利益を積み上げたいから。
  • 検証に時間をかけない。状況やニーズは時々刻々と変化するから。

御社のプロジェクトは、このような点を心がけているだろうか

あなたも参加しませんか

ITソリューション塾・第19期を募集しています。

  • クラウドと仮想化の違いを説明できますか?
  • IoTとビッグデータの関係を説明できますか?
  • DevOps、アジャイル開発ってなんですか?なぜそんなに注目されているんですか?

ITに関わる皆さんにそんな「常識としてのIT」身につけて頂く研修です。

ITソリューション塾

  • 期間:2015年2015年5月21日(木)〜7月22日(水) 毎週2時間x10回
  • 場所:市ヶ谷・東京
  • 講義資料(パワーポイント:約500ページ)はロイヤリティフリーにてダウンロード

第19期は、基幹業務での利用が加速するクラウドの新たな位置付け、IoTやアナリティクスについて、これまで以上に掘り下げてみようと思います。また、ビジネス戦略の策定やIT人材のあり方や育成についても考えます。

また、DevOpsやアジャイルはもはや外せないテーマです。実践ノウハウにまで踏み込んで、専門家による特別講演を予定しています。セキュリティは、「起こさないための対策」と「起こってからの対策」を体系化して解説します。前者はテクノロジーや業務運用、後者は法律専門家や広報ということになるでしょう。

セクシーな提案書の作り方、顧客満足の科学など、お客様との応対力を高める実践ノウハウも解説します。

定員は60名を予定しています。比較的早い段階で定員を超えることが予想されますので、まだ未定の場合でもご意向だけメールにてお知らせ頂ければ、参加枠を確保させて頂きます。

詳細な日程や内容につきましては、こちらをご覧下さい

「ITの最新トレンドとビジネス戦略」【2015年3月版】リリース

全て無料でご覧頂けます。今回の改訂の目玉は、以下の3点です。

*「コレ1枚で分かる最新ITトレンド」を全面改定。
  IoTの位置づけを見直し、Cyber Physical Systemsについての記述を追加しました。
  最新の解説もダウンロードできます。
*IoTの記述を追加し、より分かりやすいものにしました。
  IoTとソフトウェア制御の関係やIoTデバイスのスタックについて整理しました。
*「アナルティクスとビジネスインテリジェンス」のセクションを追加しました。

こんな方に読んでいただきたい!

  • IT部門ではないけれど、ITの最新トレンドを自分の業務や事業戦略・施策に活かしたい。
  • IT企業に勤めているが、テクノロジーやビジネスの最新動向が体系的に把握できていない。
  • IT企業に就職したが、現場の第一線でどんな言葉が使われているのか知っておきたい。
  • 自分の担当する専門分野は分かっているが、世間の動向と自分の専門との関係が見えていない。
  • 就職活動中だが、面接でも役立つITの常識を知識として身につけておきたい。

Top1

「【図解】コレ1枚で分かる最新ITトレンド」に掲載されている100枚を越える図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。自分の勉強のため、提案書や勉強会の素材として、ご使用下さい。

スクリーンショット 2015-01-18 13.32.13

目次

  • 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
  • 第1章 クラウドコンピューティング
  • 第2章 モバイルとウェアラブル
  • 第3章 ITインフラ
  • 第4章 IoTとビッグデータ
  • 第5章 スマートマシン

>> 詳しくはこちらをご覧下さい。

Follow Us on Facebook Facebookページを開設しています。「いいね!」やご意見など頂ければ幸いです。

Comment(0)