「意識を変える」より「行動を変える」ことが先
日本軍のエリート学習は、現場体験による積み上げ以外になかったし、指揮官、参謀、兵ともに既存の戦略の枠組みの中では発揮するが、その前提が崩れるとコンティンジェンシープラン(うまくいかなかったときの代替となる計画)がないばかりか、全く異なる戦略を策定する能力がなかったのである。
「失敗の本質」の一節だ。第二次世界大戦中の日本軍の軍事作戦の失敗を組織論的に分析したもので、1984年の出版ではあるが未だに再販を重ねる名著で、私も思い出しては何度も読み返している。
この本の一節を次のように読み替えてみると、まったく違和感がないことに気付づく。
日本企業の管理者の学習は、現場体験による積み上げ以外になかったし、部長、課長、社員ともに既存の戦略の枠組みの中では発揮するが、その前提が崩れるとコンティンジェンシープランがないばかりか、全く異なる戦略を策定する能力がなかったのである。
これまで、お客様がシステム機器を購入し、これを前提としてスクラッチ・アンド・ビルドでシステムを構築する。この枠組みの中で、ビジネス戦略を組み立て収益を上げてきた企業は少なくない。しかし、情報システム部門の予算の圧縮、予算に占める維持・運用に関わる費用の占める割合が7割りを越える現実。これに対処するには、もはや従来の枠組みでは難しくなってきた。この前提が崩れてしまっている。
これまでの成功体験から導き出された体験的ドグマに固執し、その枠組みから外れるものについてはそれを遠ざけ、自分の経験則に合うように作り替えてしまう。世の中の変化やお客様の意識の変化から、学習しようとはせず、新しい枠組みを作り直そうとはしない。これでは、時代の変化に対処することできない。
あるSI事業者の営業責任者の方と話しをする機会があった。かれは、次のようなことを話してくれた。
「現場の意識を変えなければ、何も変わらない。それが、なかなかうまくいかないんです。それが営業改革の最大の障害なんです。」
私は、彼に次のように話をした。
「いまやるべきは意識を変えることではありません。行動を変えることです。行動を変えれば、その結果を通して、行動の意味するところに気付き、結果として意識が変わるのではないでしょうか。」
「目的はパリ、目標はフランス軍」だ。何が目的で、何が手段なのかをはっきりとしなくてはならない。第二次世界大戦中、パリの陥落をめざすドイツ軍にとって、フランス軍はパリという目的地に到達するための避けて通ることのできない障害となっていた。これを殲滅しない限りパリには到達できない。
この会社の目的は、大手SI事業者の下請け体質から脱却し、直接顧客の比率を高めることだという。これまでの「下請けが常識」の精神から脱却し、「直接お客様を持つことが常識」の精神を根付かせていく。まさにこの意識の改革こそが目的であり、けっしてそれは手段ではない。
「守破離」という言葉がある。千利休が残した茶道の心得だ。
規矩作法 守り尽くして 破るとも 離るるとても 本ぞ忘るな
「守」とは先人の築き上げた「型」を守ること。そこには、先人が苦労して成し遂げた経験が、織り込まれている。まずは、これを徹底してまねることで、先人の知恵を自分のものとして会得する。
この「型」を徹底的に守り通した上で、これをあえて破ってみる。自分ならではの工夫で、試してみる段階、それを「破」という。本来を知りつつ、自分なりにそのやり方をあえて破ることで、自分ならではの「型」を求める段階だ。
そして、それを他にも伝えられるほどに洗練させることができたならば、そこには、今までにはない「型」が生まれる。この段階を「離」という。
前提が崩れた以上、新しい前提で新しい「型」を作る。これを徹底することから始めるべきだ。
営業活動でいう「型」とは、「直接の顧客を獲得するための営業の行動手順=営業活動プロセス」を具体化し、その手順に従った行動を徹底させること。また、やらせてみて、失敗を体験させ、それを共に分析し、どうすれば良いかを議論すること。そういう行動が、結果として意識を変える。
「目的は"直接お客様を持つことが常識の精神を根付かせる"こと、目標は"営業プロセスの徹底"」
ということになるのだろう。
この本には次のような記述もある。
日本軍の戦闘上の巧緻さは、それを徹底することによって、それ自体戦略的な強みに転化することがあった。いわゆるオペレーション(戦術・戦法)の戦略化である。しかし、近代戦においては、つねに通用するわけではなかった。一定の枠組みの中で、敵の行動が可視的に捉えられ、自軍の行動に高度の統合性を要求されないような場合においてのみ有効であった。
製品やサービス単体ではなかなか差別化ができない時代となった。もはや競合優位を築くためには、お客様個別の課題に対処する個別最適な組み合わせを作り上げて行くしかない。これまでのように、ひとりの営業の頑張りや自分力に頼る現場オペレーションだけでは限界がある。会社として、あるいは会社を越える大きな枠組みを統合し、強みに変えてゆく戦略が求められている。
この本に描かれている60年以上も前の精神構造は、今も健在のようだ。これは驚くべきことと言うよりも、何千年の歴史の中で日本人のDNAにくみこまれていることなのかもしれない。その自覚の上に、自らを省みることができれば、正しい戦略の道筋が見えてくるように思う。
こんな方に読んでいただきたいと、執筆しました!
- IT部門ではないけれど、ITの最新トレンドを自分の業務や事業戦略・施策に活かしたい。
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目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン
デベロッパーズ・サミット2015にて紹介させていだきました!
拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」のトップ10に選ばれ、先日、デベロッパーズサミットにて、紹介させて頂きました。
「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。
【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。
「テクノロジー編」(182ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
- Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
- パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
- 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
- M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
- ドイツのIndustry 4.0について追加しました。
「ビジネス戦略編」(49ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
- 人材育成について
- 生き残れない営業を追加しました。
- エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。