「生き残れない営業」と「必要とされる営業」の違い
「機能や性能がいいことは分かりました。でも、使いこなすには、それなりに手間もかかりますからね。それに、今でも何とかなっているし、高いお金を払ってまで導入する必要性は、あるんでしょうかねぇ。」
エンドユーザー部門にBIやSFAなどを提案すると、こんなネガティブな反応を返されることがある。そこには、現場の動きが、経営者にあからさまになってしまうことへの抵抗感があるからかもしれない。
現場は、日々の活動やデータを正直に報告しなければならない。いい加減な報告は許されず、そのために手間もかかる。なによりも、見張られているような圧迫感に、現場はやりにくさを感じる。
一方、経営者にしてみれば、月次や四半期毎の予実の精度をあげたい。その目的が達成できるのであれば、投資する価値があると感じる。
クラウドの提案ではどうだろうか。現場の運用管理負担は軽減され、システム資源の調達や構成の変更などを短時間に行える。アプリケーションの開発や導入の生産性も改善され、TCO削減も期待できる。
しかし、情報システム部門にとってみれば、今までの自分たちが積み上げてきたスキルが必要ないと言われているようなものだ。そうなれば、自分たちの仕事は無くなってしまうかもしれない。システムを所有しないことを寂しいと感じ、自らの存在意義を失ってしまうと感じるかもしれない。
一方、経営者としては、資産を減らし経費化することができる。間接部門である情報システム部門の要員を減らし、直接部門に配置転換し本業の体制を強化できると考えるかもしれない。
ITの役割は、突き詰めれば売上や利益への貢献だ。そのために、業務の生産性を高めることや、新たな事業の創出を支えることだ。革新的なテクノロジーの採用や機能・性能の向上は、そのための手段であり目的にはなり得ない。
スマートフォンやタブレットでユーザーの利便性を向上させることも、ITの役割だが、これも突き詰めれば、社員の働きやすさを向上させ、意欲を高めることで労働生産性を高め、売上や利益に貢献させることだ。
しかし、売上や利益にどう貢献させるかは、自分で考えてくださいと言わんばかりに、自社の製品やサービスの優秀さばかりを説明し、お客様の業務や経営についての具体的な貢献を説明できていない提案すくなくない。
その価値を理解でき、社内で推進する意志や力を持っているに、このメッセージを伝えなければビジネスは前に進まない。担当だからという理由だけで、そこに提案するという無駄な努力をしてはいないだろうか。上記の例のように、それぞれの利害を考えることなく、「べき論」を振りかざしてはいないだろうか。それでは、提案を受け入れて頂くことはできない。
ソリューションとは、お客様の課題を解決することだ。しかし、お客様の課題は複雑だ。立場によって利害は異なり、求めている価値も違う。経営状態や時期によっては、優先順位も違う。このようなことも含めて、お客様の課題だということに思いが至らないとすれば営業は失格だ。
お客様についてどこまで関心を持っているだろうか。お客様の経営や業界について、徹底した情報収集やお客様との議論を重ねているだろうか。経営や業務の常識について、どれだけの知識を持っているだろうか。その努力を怠ってはいないだろうか。
私達の役割は、お客様の経営に貢献することだ。自分たちの提案が、そこにどうつながるかを明確に示されなければならない。また、その価値を理解し、自らが先導者となって動いてくれるスポンサーを見つけ出し、その人を支えなくてはいけない。「ソリューション提案」とは、このような一連の活動を指す言葉だ。
労働集約的なSIビジネスやモノの販売は、これまでにない淘汰を強いられるだろう。そこにどのような生き残りのみちがあるのか。
改めてビジネスの原点に立ち返ることだ。自分たちの提案が、お客様の経営に貢献できることを具体的に示せているか。適切なスポンサーと一緒になってどうすれば会社の経営に貢献できるかを議論しているか。この原点を問い直すことだ。この筋道を具体的に、明確に示すことができれば、お客様は受け入れてくれる。それは、商品力以前の問題だ。どれだけ、営業やエンジニアが、お客様の経営や業務、人に対する関心と理解を深められるかにかかっている。革新的なテクノロジーを追い求め、道具立てを整えても、この取り組みを怠れば、長続きはしない。
経営への貢献、それを主導する人を支えることは、いつの時代にも通用するビジネスの原点だ。この基本を怠っていないかどうかを改めて問い直し、不十分であれば、どうするかを考えること。そこには、革新的なテクノロジーは不要だ。こういうことが、これからの時代を生き抜くための原点となるだろう。
新刊「【図解】コレ一枚でわかる最新ITトレンド」
ITの最新のトレンドをわかりやすく解説した本を出版します。既に予約受付も始まっています。是非、ご覧下さい。
- ネットをながめても、テクノロジーのトレンド、意味や価値は見えてきません。
- 難しい技術用語を並べられていても、専門知識がなければ理解できません。
- 製品説明をつなぎ合わせても、テクノロジーの背景や本質は、分かりません。
本書は、約100枚のわかりやすい図表と平易な解説で、そんなお悩みを解決します。さらに、本書に掲載されている全ての図表は、ロイヤリティ・フリーのパワーポイントでダウンロードできます。自分の勉強のため、提案書や勉強会の素材として、ご使用下さい。
こんな方に読んでいただきたい!
- IT部門ではないけれど、ITの最新トレンドを自分の業務や事業戦略・施策に活かしたい。
- IT企業に勤めているが、テクノロジーやビジネスの最新動向が体系的に把握できていない。
- IT企業に就職したが、現場の第一線でどんな言葉が使われているのか知っておきたい。
- 自分の担当する専門分野は分かっているが、世間の動向と自分の専門との関係が見えていない。
- 就職活動中だが、面接でも役立つITの常識を知識として身につけておきたい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン
最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。
【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。
「テクノロジー編」(182ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
- Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
- パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
- 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
- M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
- ドイツのIndustry 4.0について追加しました。
「ビジネス戦略編」(49ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
- 人材育成について
- 生き残れない営業を追加しました。
- エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。
トップ10に選ばれした!
拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」のトップ10に選ばれました。多くの皆様にご投票頂き、ほんとうにありがとうございました。2月19日(木)のデベロッパーズサミットにて、話をさせて頂きます。よろしければお立ち寄りください。
「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。