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問われる情報システム部門の存在意義と求められる施策(2/2)

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昨日は、企業情報システムの縮小均衡の構図について考えてみた。今日は、この現状を打開するための施策として、「守りのIT」と「攻めのIT」を明確にし、メリハリをつけた施策の大切さについて考える。

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「守りのIT」をアウトソーシング

サーバーやストレージ、ネットワークなどのインフラ、企業の独自性を求められないコミュニケーシュンやコラボレーション、経費精算や財務会計などのアプリケーションといった「守りのIT」をクラウド・サービスやマネージド・サービスへアウトソーシングすることで、そこにこれまで関わってきた人材を減らすことだ。

デスクトップPCをVDI(Virtual Desk-top Infrastructure)やDaaS(Desk-top as a Service : 仮想デスクトップのクラウド・サービス)に切り替えれば、PCの調達や運用管理に関わる人材を大幅に減らすことができる。VDIのコストはPCを購入することに比べて高くつくことは否めない。しかし、コモディティの領域で人材を減らすことができるのであるとすれば、そこに投資することの価値は十分にある。

クラウドへの移行を考えるとき、これまで自社で保有していたシステムをそのままに引っ越すだけでは、クラウドという名前のプライベート・システムをホスティングするだけのことであり、システムの柔軟性やコストの削減も限定的となる。ユーザーにも割り切って頂き、標準化されたシステムを受け入れることで、クラウドの提供するアジリティやスピード、スケールといったメリットを享受すべきではないか。

「攻めのIT」に人材をシフト

次に、守りのITに関わってきた人材の再教育だ。米国であれば、人材の流動性が高いので、これまでの人材を解雇して、人材を改めて雇用するということも行われている。しかし、日本ではそれができない。そこで、再教育が必要となる。

ただ、ここで言う再教育とは、情報システム部門の人材だけを再教育するというのではなく、ユーザー部門も含めた人材のローテーションも含めて、情報システムと業務を融合させる組織対応とあわせて行う必要がある。容易なことではないが、経営者の強い意志と業務部門の理解を求める必要があるだろう。

では、何を再教育するか。企業としての競争力や成長に直結するアプリケーシュン・システムを企画、設計、開発できるスキル、テクノロジーやサービスを評価し目利きできるスキル、プロジェクトを管理運営できるスキルなどが、重要になる。

例えば、PLMやSCM などは製造業にとっては競争力を左右する戦略的領域だ。マーケティングなども自らが担うべき領域だろう。また、それらシステムからのデータを活用し経営や業務の意志決定が迅速に行えるようにするためのビッグデータやアナルティクスも対象とすべきだろう。

このような「攻めのIT」は、これまでにも増して変化へのスピード対応を求められる。アジャイル開発や超高速開発ツール、PaaSやSaaSなども利用することで、ユーザー部門とインタラクティブな関係を維持しながら、ビジネス・スピードに同期したITを提供できる人材を育てることが目標となる。

評価基準の見直し

情報システムを「必要悪」と捉え、コストが少ないことを評価する価値観を変えてゆかなければならない。売上や利益に貢献する投資として情報システムを捉え、投資対効果の大きさを評価する必要がある。

また、情報システム部門の要員を間接要員としてではなく、利益を生みだす直接要員として、人材の育成を考えることも必要だろう。

このような考え方を持たなければ、経営や事業と情報システムの戦略的融合や人材のローテーションを実現することは難しい。未だ多くの企業で情報システム部門が、経理部門や総務部門の配下にある。これは、とりもなおさず、コストの削減や効率的運用を評価の対象としているということだ。この組織体制も考え直す必要があるだろう。

経営や業務部門と情報システム部門、双方にとって大きな意識の改革を迫られることになる。しかし、情報システムを「ビジネス・ソリューション」に貢献させてゆくには、このような変革が必要だ。

「全ての予算はIT予算になってゆく」

ガートナーは、こんなレポートを公開している。これは、経営や業務はIT無しには今後考えられず、業務のための予算はITを活用するための予算になってゆくだろうという予測だ。

世界が、このような方向に向かいつつある中、我が国の情報システムのあり方が従来のままでいいはずはない。経営や業務とITの融合は、もはや待ったなしの状況にある。

正直なところ、情報システム部門がなくなることは、本質的な問題ではない。問題なのは、経営や業務部門が、情報システムの戦略的価値を評価し活用できず、グローバルな競争から取り残されてしまうことだ。

そのことを経営や業務に遡及できず、縮小均衡のままで旧態依然とした組織を維持することにしかできない情報システム部門であるとすれば、むしろない方がいい。業務部門が独自にITに長けた要員を抱え、取り組んでゆく方が、業務とITについて組織目標が一致するわけだから、よほど健全かもしれない。

しかし、テクノロジーの高度化と多様化が加速する中、このような個別最適な取り組みでうまくゆくとも思えない。まず、情報システム部門が、このような問題意識を経営や業務部門に勇気を持って発信し、自ら進んで改革してゆくことが必要なのだろう。

それが結果として、情報システム部門の存続につながるのではないか。ただし、それは、もはやこれまでの狭い範疇の組織ではなく、「ビジネス・ソリューション」を提供する新しい組織として、新たな役割を担ってゆく覚悟が必要だ。

SI事業者やITベンダーは、そういう彼らの改革を支えて行くべきだろう。そうでなければ、彼らの存在意義が失われ、一蓮托生で自らの存在意義を失うことになることを自覚しておくべきだろう

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  • 第2章 モバイルとウェアラブル
  • 第3章 ITインフラ
  • 第4章 IoTとビッグデータ
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最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました

ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。

【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。

「テクノロジー編」(182ページ)

  • ストーリー展開を一部変更しました。
  • 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
    • Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
    • パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
  • 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
    • M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
    • ドイツのIndustry 4.0について追加しました。

「ビジネス戦略編」(49ページ)

  • ストーリー展開を一部変更しました。
  • 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
  • 人材育成について
    • 生き残れない営業を追加しました。
    • エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。

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拙著「システムインテグレーション崩壊」が、「ITエンジニアに読んでほしい!技術書・ビジネス書大賞」のトップ10に選ばれました。多くの皆様にご投票頂き、ほんとうにありがとうございました。2月19日(木)のデベロッパーズサミットにて、話をさせて頂きます。よろしければお立ち寄りください。

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「システムインテグレーション崩壊」

〜これからSIerはどう生き残ればいいか?

  • 国内の需要は先行き不透明。
  • 案件の規模は縮小の一途。
  • 単価が下落するばかり。
  • クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。

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