本気になりきれないSIビジネスの現実
「SoftLayerは売るけど、BlueMixは売りにくいなぁ」
あるIBMパートナーのこんなひと言に、SIビジネスの現実を垣間見た気がする。
昨年、IBMがx86サーバーをLenovoに売却した。IBMのサーバー販売は、収益源のひとつであること以上にIBMというブランドを看板として使えることの意味合いが強い。機能や性能だけならLenovoでもいいし、他のブランドでも構わない。しかし、なかなかそのように割り切れないのが、IBMブランドの重みだ。お客様は、IBMというブランドに信頼を置く。それが営業上の説得力に重みを与える。
しかし、x86サーバー事業の売却で、その流れが変わった。しかし、それに変わる商材として、IBMはSoftLayerという選択肢を提供した。折しもWindows Server 2003のサポート切れのタイミングにクラウドへの移行を考えるユーザー企業も増えている。また、リースの更改の折りにクラウドへというユーザー企業も増えている。そんなニーズに応える商材として、IBMの冠をいだくSoftLayerは、説得しやすい。しかし、このビジネスの構造は、物理サーバーが、クラウドに置き換わっただけで、他は何も変わらない。
「なぜ、BlueMixはダメなんですか?」
「仕様も機能もまだまだ変わるようだし、これでは仕様が確定できないから納品なんかできないよ。まだ、過渡期なのかなぁ。それに、開発の工数も減るからねぇ。」
クラウド・サービスは、開発と本番運用が同時に進行する。「過渡期」というなら、永遠に過渡期だ。また、「納品」という概念はない。継続的に新しい機能を取り入れ、システムの新陳代謝を図ることが、このようなサービスを使うことの意義だ。工数が減るということは、それだけ開発スピードが速くなり、コストも削減できることを意味する。それこそ顧客価値のはずだ。
この類の話は他にもある。例えば、開発工数を減らすツールは看板として担ぐが積極的には売らない。クラウド・セキュリティも、簡単なセットアップで迅速に導入できるし、最新の脅威にも対応できる。しかし、工数が稼げないので売らない。
しかし、こういう商材もエンドユーザーに直接売り込めば、すぐに関心を示し、契約に結びつくことも多いという。
「要求仕様をベンダーと詰め、見積書をやり取りして発注するサイクルは現場の求める改善スピードに追いつかなくなった。」
ジャパネットたかたCIOの言葉だ(日経コンピュータ/2015.1.22)。だから、内製化を進めているという。まさに、現場はこのような需要を抱えている。
ITが前提のビジネスは、今後益々増えてゆく。そこに新しいテクノロジーを積極的に使っていこうという意欲は高い。しかし、それは、同時に開発や運用の工数を削減するものでもある。
「経営のスピードに追従する、事業の競争力を高める、ビジネス・プロセスの変革を加速する。」
いまテクノロジーに求められているのは、開発の生産性や効率ばかりではない。
このようなニーズにこそ、これからのビジネスはある。
工数が減ることは、時代の必然だ。仮に工数を稼げるビジネスがあっても、多くはオフショアとの価格競争になるだろうし、その先は、人工知能に置き換わってゆくだろう。
この現実は逃れようがない。ならば、テクノロジーを味方につけ、収益構造の異なるビジネスに踏み出す覚悟が必要だ。
「そんなこと、やっていますよ。でも、いっこうにうまくいかないんですよ。」
話を聞けば、そういうところに社内のエースを投入していない。あるいは、本業は本業で責任を負わせ、新規事業はクラブ活動として検討されているだけ。そんな話も聞く。
何が成功の方程式か分からない。それがITビジネスの現実だ。だから計画など立てようがない。ならば、小さなことでも本気に取り組んで、試してみるしかない。
「SoftLayerは売るけど、BlueMixは売りにくいなぁ」
の言葉には、まだ本気になりきれていないSI事業者の現実があるようだ。
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こんな方に読んでいただきたい!
- IT部門ではないけれど、ITの最新トレンドを自分の業務や事業戦略・施策に活かしたい。
- IT企業に勤めているが、テクノロジーやビジネスの最新動向が体系的に把握できていない。
- IT企業に就職したが、現場の第一線でどんな言葉が使われているのか知っておきたい。
- 自分の担当する専門分野は分かっているが、世間の動向と自分の専門との関係が見えていない。
- 就職活動中だが、面接でも役立つITの常識を知識として身につけておきたい。
目次
- 第0章 最新ITトレンドの全体像を把握する
- 第1章 クラウドコンピューティング
- 第2章 モバイルとウェアラブル
- 第3章 ITインフラ
- 第4章 IoTとビッグデータ
- 第5章 スマートマシン
【残り若干名】2015年2月4日(水)より開講するITソリューション塾【第18期】
このブログでも紹介させて頂いたテクノロジーやビジネスに関する最新のトレンドをビジネスにどう結びつけてゆけば良いのかを考えてゆきます。そのための提案やビジネス戦略・新規事業開発などについても解説します。また、アジャイル開発でSIビジネスをリメイクした実践事例、クラウド時代のセキュリティとガバナンスについては、それぞれの現場の第一線で活躍される講師をお招きし、生々しくそのノウハウをご紹介頂く予定です。
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詳しくはこちらをご覧下さい。また、パンフレットもこちらからダウンロードできます。
最新ITトレンドとビジネス戦略【2015年1月版】を公開しました
ITのトレンドとビジネス戦略について、集大成したプレゼンテーションです。毎月1回、「テクノロジー編」と「戦略編」に分けて更新・掲載しています。
【2015年1月版】より「テクノロジー編」と「戦略編」の2つのプレゼンテーションに分けて掲載致します。
「テクノロジー編」(182ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 「クラウド・コンピューティング」の追加修正
- Webスケールとクラウドコンピューティングについて追加しました。
- パブリック・クラウドとマルチクラウドの関係について追加しました。
- 「IoTとビッグデータ」の追加修正。
- M2MとIoTの歴史的発展系と両者の違いについて追加しました。
- ドイツのIndustry 4.0について追加しました。
「ビジネス戦略編」(49ページ)
- ストーリー展開を一部変更しました。
- 2015年問題の本質というテーマでプレゼンテーションを掲載致しました。
- 人材育成について
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- エンジニアの人材育成について新たなプレゼンテーションを追加しました。
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「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
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