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研修はツール、心の有り様に関心を向けなければ人は育たない

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「優秀な営業を早く育てたいんです。」

こんな相談を受けることがある。しかし、数日の研修でそれができるわけもなく、二つ返事でお引きするというわけにはゆかない。

営業に限ったことではないが、優秀な人材を育てるには、まずはその環境を作ることからはじめなくてはならないと、私は考えている。

具体的には、「優秀な人材の採用」、「チャレンジさせる勇気」、「意欲のマネージメント」の3つが、人材育成を支える根底になくてはならないだろう。

優秀な人材の採用

「育てれば育つ人間」をはじめから採用することが、人材育成の基本。

人材育成の視点から見た「優秀な人材」とは、「学習することを楽しいと感じることができる人材」と定義することができる。

スタンフォード大学の心理学者であるキャロル・S・ドゥエックは、人間には、「固定的知能観」か「拡張的知能観」かの、いずれかの心の有り様があり、それによって、その人の能力は決まってしまうというと主張している。

固定的知能感(fixed-mindset)の持ち主とは、自分の能力は固定的で、もう変わらないと信じている人。彼等は、自分の能力はこの程度だから、努力しても無駄だとみなす。また、自分が他人からどう評価されるかが気になり、新しいことを学ぶことから逃げてしまう心の有り様の持ち主だ。彼等が学ぶのは、それが自分にとって利益になる場合。つまり、これを知らなければ仕事がこなせない、収入が減るなどの場合だ。

一方、拡張的知能感 (Growth-mindset)の持ち主とは、自分の能力は拡張可能であると信じている人。彼等は、人間の能力は努力次第で伸ばすことができると信じ、たとえ難しい課題であっても、学ぶことに挑戦する心の有り様の持ち主。彼等は、好奇心旺盛に自らテーマを作り、学ぶこと自体を楽しむことができる。

このような、「自分の能力や知能についての心の有り様」=「知能観(Mindset)」が、学習についての意欲を左右し、能力の獲得や育成に大きな影響を与えるという考え方。

「私には無理だと思います」、「自分はそういうことはあまり得意じゃないんで・・・」ということばは、固定的知能感のひとつの特徴かも知れない。

また、「なんでこんな研修を受けなきゃならないんだ、役に立たないよ」、「どうせやっても無駄ですから」などと考えてしまう心の有り様もまた、固定的知能感と言える。

ベテランの方のなかには、「もう自分はこれでいいんだ・・・」、あるいは、「自分のやり方を今更変えようとは思わない」など、豪語する方もいるが、これなども固定的知能感を示している。

時間をかけて専門的な知識や能力を身につけても、新しいことに興味を持てなくなったとき、その人の成長は止まってしまう。残念なことだ。

採用の段階で、このような特性を見抜くことは容易ではないかも知れない。しかし、このような人を育てることは容易なことではないことは言うまでもない。だからこそ、「優秀な人材の採用」が人材育成の出発点でもある。

チャレンジさせる勇気

「もう採用してしまった人材を今更入れ替えるにはゆきませんよ・・・」そういう反論もあるだろう。

そこで、次に取るべき態度が、「チャレンジ」させることであり、それを奨励し、失敗を受け入れる環境を作ることだ。

失敗を恐れるあまり、決まり切ったことしかやらせないとすれば、当然、本人は、最低限の能力獲得にしか意欲を持たない。「これで十分」と考えることこそ、固定的知能感に本人を押し込めてしまうことになる。それは、拡張的知能感の持ち主であっても、そのような職場では、固定的知能感の持ち主として振る舞うこともある。

意欲のマネージメント

「チャレンジさせる勇気」、そして、それを奨励し、失敗に対しても真摯に向き合い、解決策を共に考えてゆく。そんな、組織のメンタリティがあれば、新しいことを学ぼうとする意欲が育まれる。そして、成功体験を通じて、そこに成長の喜びが生まれる。拡張的知能感へと心の有り様を育むことになる。このサイクルを回すことが、「意欲のマネージメント」だ。 

「この技能が不足しているから、こういうことを学ばせよう。そのためにはどのような研修プログラムを組み立てればいいだろうか?」

人材育成を考えるとき、このような議論がよく行われる。それも大切なことではあるが、これだけでは不十分だ。

「学習に対する心の有り様」をどのように育んでゆくのかを併せて考えるべきだろう。心の有り様を育ててこそ、はじめてツールである研修は、効果を発揮する。

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「啐琢同時」ということばがある。これは、雛が卵から生まれようとするとき、雛は殻の内側から卵の殻をつついて外に出ようとする。これを「啐」という。そのとき、親鳥もまた同時に外側から卵の殻を破るためにつつきはじめる。これを「琢」という。この親鳥と雛が、同時に殻をつつき合うことで、雛は生まれることができるという禅のたとえ話だ。

研修だけではなく、心の有り様を育てる。人材の育成とは、まさに「啐琢同時」でなくてはならない。

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