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昇進とソリューションは優秀な人材を潰すかも知れない

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「弊社では、優秀な技術者ほどライン管理職に登用されてしまい、その結果、現場に優秀な技術者がいなくなるという問題が起きており、どうすれば、それを是正できるかを検討しようとしています。

 優秀な技術者が優秀な管理職になれるかという問題もあるかと思いますし、これはその会社のもつ評価制度、給与制度、人事制度にも関わってくる、一筋縄ではいかない、とても重大で重要な問題だと思います。」

 あるSI事業者の方から伺った話だ。マネージャーに登用するということは、プレーヤーとしての現場力を一時的にでも弱体化させることになる。それが分っている上位の管理者や経営者は、新任のマネージャーに、継続してプレーヤーとしての働きを期待する。それを「プレーイング・マネージャー」と称し、本人をどっちつかずの状況に押し込めてしまう。

最初は何とかなる。それは、マネージャーに任ぜられた本人も張り切っているから、多少のオーバー・ワークもいとわない。しかも、なれない新任のマネージャーなので、周りの目も寛容だ。ただ、そんな幸福な時間は長続きしない。

 いずれは、自分の立場を明確にしなければならない。自分の力ではなく、組織の力としてビジネスを牽引し、一人の時よりも、より大きな力を発揮できるように働くことが、マネージャーの仕事だ。

 経営者は、その当たり前を本人の自助努力に任せてはいないだろうか。はっきりとした目標と、その目標を達成するための手立てを用意することなく、「おまえは、プレーイング・マネージャーなんだから・・・」という言葉だけで、自らの役割を棚上げしてはいないだろうか。

 このような問題は、技術者に限らず、営業にもある。

 社員500人ほどのソリューション・ベンダー。プロダクト販売が主な収益の柱となっているこの会社には、60人ほどの営業がいる。その中の一人の営業課長が、暫くお休みすることになった。

 この営業課長は、新年度の春、課長に昇進し部下を持つようになった。彼は、所属する営業課の半分以上を稼ぐ実力者であり、営業の中でもリーダー的存在だった。

 人当たりも良く、誠実なタイプで、お客様にも信頼され、だれからも「優秀な営業」と評価されていた。そんな優秀な営業マンだから、本人も回りも、彼が昇進して課長になることは、当然といった空気はあった。

 課長に昇進し、彼も大いに張り切っていた。今までの自分が担当していたお客様は、引き続き自分が担当し、加えて、部下の営業マンの担当するお客様にも出向き、話しをすることもいといとわなかった。そんな彼が、変わり始めたのは、秋ごろからだ。

 最初の変化は、会議に出て、発言を求められると話しが詰まり、何も話せなくなったそうだ。発言しなければならないことは良く分っているし、何を話すべきかは了解している。しかし、どうしても声が出ない。普段の会話には、なんの支障もないのに、会議では声が出ない。あせればあせるほど、苦しくなり、 脂汗が出てきたそうだ。

 次に電話が怖くなった。電話が鳴ると、固まってしまって電話を取ることができない。

 次第に遅刻がちになり、そのうち昼前に出社するようになった。満員電車が、怖くて通勤時間帯に電車に乗れないという。とにかく、電車の中で、見ず知らずの人と接することが、耐えられなくなったそうだ。どうしても、朝会社に出なくてはならないときは、自腹でタクシーを使っていた。

 暫くは、そんなことをしながら、なんとか会社に来る努力はしてしいたのだが、ついに会社に出てくることさえ難しくなってしまった。

 私には、本当の原因がどこにあったかの判断を下す立場にはない。ただ、このケースから伺えるいくつかの特徴や背景は、「プレーイング・マネージャー」の意味を考えるきっかけになるかも知れない。

 まず、第一に、「まじめで、誠実な人柄」であること。彼は、プレーヤーとマネージャーの仕事を両方誠実にこなそうとしていた。当然、彼の上司もそれを期待したし、彼ならできると考えていたようだ。彼は、毎日深夜まで働き、休日も仕事をしていた。

 次は、会社の方針転換。この会社は、今までサーバーやネットワーク機器の販売など、プロダクト中心の商売をしてきた。しかし、社長は、それではこれからの将来はないということで、「ソリューション・ビジネスを強化する」と宣言し、モノからサービスへのシフトを加速するよう現場に求めていた。

 しかし、社内にそれに対応するスキルもなければ、デリバリーの要員もいない。結局は、外部から調達するしかない。

 多くの営業は、「冗談じゃない。外部のリソースなど、そう簡単に集められるものでもないし、売り上げ目標を達成するには、効率が悪い。」ということで、相変わらずモノ売りをしていたが、彼はまじめに、その方針に従って、奔走していたようだ。

 モノ売りは、調達も販売も、関わる人や手順が、比較的シンプルだが、SIなどのサービスとなると、お客様ごとに異なる仕様に、個別に対応しなくてはならず、関わる人や企業、プロダクトの種類なども増えてしまい、複雑で多様な組み合わせをプロデュースしなければならない。

 それを支える仕組みが、いまだ未整備なこの会社では、それは、すべて現場の営業の仕事だ。これは、相当の負担になったのではないだろうか。

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 人は、「不満」で、心を病むことはない。ほとんどの場合、「不安」であることが原因だ。

 しょいきれない荷物を、一身に背負い、自分で抱え込んでしまう。できないことは、自分の努力不足であると考え、「がんばる」ことで、対処しようとする。と同時に、「これで、本当にうまくゆくのだろうか?」という不安が、ますます膨らんでゆく。

 少々いい加減なところがあって、手を抜く術を持っている人ならいざ知らず、まじめな人は、そうはゆかない。

 彼が、お休みをすることになった本当の原因は、わからない。ただ、もし、上記のような事実が関係しているというのなら、それは、彼の能力不足や資質の問題とは、いえないだろう。明らかに、上席者、経営者の責任だ。

 プロダクトからソリューションへの掛け声を否定する人はいない。しかし、それは、同時にビジネスの多様化、複雑化を意味している。それが、プレーヤーやマネージメントのあり方を大きく変える事となり、求められる役割や能力も変わってくるはずだ。

 優秀だからに報いる手段が、管理職になることだけである今の人事制度は、もはや限界にきているのかもしれない。そろそろ、この常識を考え直してはどうだろう。そうでなければ、必要とされる、本当に優秀な人たちを殺してしまうかもしれない。それは、本人にとっても、会社にとっても、なんと不幸なことだろうか。

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