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「業種が違う」が、SIビジネスを救うヒントになるかも知れない

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「受託開発ビジネスはどうなるのか、どうすべきか」

昨夜、こんなタイトルのイベントを行った。『「納品」をなくせばうまくいく』の著者で、ソニックガーデン社長の倉貫さんと、ほぼ同じタイミングで拙著『システムインテグレーション崩壊』が出版されことが縁で知り合い、イベント開催となった。

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Facebookでの告知程度だったが、あっという間に100人の定員を超えてしまった。改めて、このテーマへの関心の高さを感じることとなった。

イベントは、私の問題提起から始まり、倉貫さんが取り組んでいる「納品のない受託開発」で、これまでとは違う受託開発ビジネスについての紹介、その後は、会場をも巻き込んでのパネルディスカッション。

*冒頭の問題提起に使ったスライドは、こちらからダウンロードできます。

パネラーは、受託される立場から、インテックの執行役員で技術本部長をされている荒野高志さん、そして、委託する側から、日本たばこ産業でシステム部長を努められている鹿嶋康由さんにご参加頂いた。また、ファシリテーションは、KADOKAWA ASCII.jpの大谷イビサさん、さらには、会場にいらした楽天で技術理事をされている吉岡弘隆さんをも巻き込んでのディスカッション。

この様子は、会場をご提供頂いた「エンジニアtype」のwebマガジンで紹介されるので、詳細はそちらでご覧頂きたい。私は、このイベントで、強く印象に残ったことを少しご紹介させて頂くことにする。

企業の競争力の源泉として、ITが果たす役割が、これまでにも増して重要になってゆくことに異論はない。また、自らの独自性を維持し、差別化を図ってゆくために受託開発がなくなることもないだろう。しかし、それを実現するビジネスのお作法が変わってゆくことに、どう対処してゆくかが、受託開発ビジネスの課題となる。

倉貫さんの話の中で、印象的だった言葉がある。

「SIerの方に、自社の強みは何かと聞くと、“最後まで逃げないこと”と話される方がいます。これは、本当に使うか使わないかはどうでも良くて、仕様書通りのソフトウェアを作り上げることを仕事と考えているから、こういう言葉になる。」

「仕様変更という言葉を聞くと、SIerは背筋が寒くなる。しかし、仕様変更とは、ビジネスのやり方が見えてきたから、つまり、使い方がはっきりしたからこそ、仕様変更されるわけで、良いことなんです。」

「SIerにとっては、規模が大きくなることは良いことだ。しかし、大きくなればなるほど、販管費は嵩み利益を圧迫する。それでも利益を増やそうと思うと人件費を削るしかない。それでは、エンジニアは幸せにはなれない。人月積算を前提とするビジネスにはこんな自己矛盾がある。」

彼との帰りがけの電車のなかで、「うちは、利益追求はしない。もうかれば、社員に還元すれば良いと思っている。」との話を聞き、あらためて今の受託開発ビジネスの現実が、重たい矛盾を抱えていることに気付かされた。

インテックの荒野さんから面白い話を伺った。

「うちは受託開発会社だけど、VAN事業の立ち上げやカラオケビジネスへの出資など、自らもサービス・ビジネスに積極的に関わっているんですよ。」

倉貫さんも話していたが、「うちはSIerではない。業種が違うんです。」という言葉とつながる話しだ。

人月を積み上げるビジネスは、ますます厳しい状況に追いやられるだろう。もはやこれまで、となったとき備えて手を打っておく必要がある。私は、「業種が違う」という言葉にこそ、この事態に対処する大きなヒントがあるように思う。

つまり、それは、これまでのようにシステムを作ってお客様に使わせるビジネスをするのではなく、自らがシステムを使ってサービスを提供するビジネスを展開することではないだろうか。

サービスの語源をたどると「奴隷」という言葉に行き着く。そこから、「奉仕する、給仕する」といった意味へと変化していった。つまり、サービス・ビジネスとは、お金を頂き便益を提供することとなり、システム機能を提供することではないのだ。

例えば、sansanの名刺管理サービスなどは、その典型だろう。以前は、名刺管理のために名刺データを入力するためのスキャナの機能やソフトウェアの認識性能を高める努力がなされてきた。しかし、なかなか精度は上がらず、そもそも自分で入力するという手間は残っていた。sansanは、それを人海戦術にすることで、この問題を一気に解決したのだ。

かれらは、システムを使っている。しかし、それをビジネスにしているわけではない。「名刺入力という作業とシステムを使って、名刺管理というサービスを提供している」のだ。

「システムを使ってサービス・ビジネスを行う」とは、こういうことなのだろう。

新規事業に取り組んでいるが、うまくいかないという話を聞くと、往々にして「システムを使って、システムを提供する」ビジネスの範疇を越えていない場合がある。

倉貫さんの「納品のない受託開発」も、その本質は、お客様の顧問CTOとなり、お客様のビジネスの成長をITの専門家としてアドバイスすることで、収益を上げている。そして、それを実現する手段としてシステムを開発し提供している。まさに「業種が違う」のだ。

これまでの「業種」へのこだわりを捨てて、新しい「業種」への転換を図ることが求められているのではないか。今回のイベントは、そんなことを考える機会となった。


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ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA

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