クラウドがもたらす「本質的な変化」
クラウドがもたらす本当のイノベーションは、システム・リソースを調達する手段が変わることだけではない。むしろ、そのような仕組みによって、もっと本質的な変化が起きつつあることを今日は紹介しようと思う。
ユーザーが共有するコンピューティング・リソースは、自前のものからクラウドに置き換わり、それを利用するユーザー・デバイスは、軽量で小型のPCへと移行してきた。さらに、今では、スマートフォンやタブレットなどのスマート・モバイル・デバイス(SMD)が、PCの役割を奪う勢いで急速に普及し始めている。
ところで、SMDの出現は、PCの小型化とだけ受け取るべきではない。PCでは、は、意図してネットへ接続する必要があつた。ネットに接続できる場所で、接続するための装置を介して、人手の操作が必要だった。しかし、SMDは、常時接続が当たり前。また、多くのセンサーやGPSが組み込まれ、ユーザーの様々な活動情報を収集している。そして、アプリは、クラウド上のアプリケーションと一体となって、様々な機能を提供している。
さらに、IoT(Internet of Things)の時代を迎えると、私たちが日常使う様々なモノにセンサーや通信機能が埋め込まれるようになる。例えば、自動車には、既に数十個のセンサーやGPSが組み込まれている。これらが、ネットにつながり、道路設置されたセンサー情報や自動運転機能と組み合わせれば、渋滞箇所を回避し、燃費の向上や時間短縮、事故の低減などに効果を上げるものと期待されている。また、住宅設備や家電製品、スマート・メーターとの組合せにより、省エネや生活の快適性向上に役立つだろう。さらには、ウエアラブル・デバイスと組み合わせれば、活動量や生体情報を収集し、健康維持に貢献してくれる。
このように見ていくと、クラウドの出現は、単なるコンピューティング・リソースが、ネットの向こうにシフトしたことではないことがおわかり頂けるはずだ。モノやコト(個人の行動や社会的な活動)が、ネットを介してつながり、さらには、ユーザー・デバイスとクラウドが一体となったIT基盤が出現したのだ。これによって、IT基盤はビジネスからパーソナルへ、そして、ソーシャルへとその適応範囲を拡げつつある。
これまで私たちが向き合っていたIT基盤は、サーバーやPC、ネットワーク機器がむき出しの世界だった。クラウドの出現は、このようなユーザーにとっては煩わしいテクノロジーを、まさに雲の中に隠し見えなくしようとしている。同時に、手元にあるIT機器やモノが単独で機能するのではなく、これらがネットの向こうにある膨大なコンピューティング・リソースすなわちクラウドと様々な“つながり”を持ち一体になって機能する、ビジネスや生活の新しい基盤を生みだしただ。
「リアルとネットの融合と日常化」という、新しいバラダイムが出現したと言えるだろう。これこそが、クラウドのもたらした本質的変化だ。
ところで、このような変化は、表面的には、次のような変化として私たちの目に映る。
- ネットにつながるデバイスの数や種類が増える。
- 機能が並べられただけのUI(ユーザー・インターフェイス)だけではなく、使い心地の良さやわかりやすさと言ったUX(ユーザー・エクスペリエンス)への配慮が一層求められるようになる。
- ネットワークに接続するための手段が多様化し、高速化する。
しかし、これら表面的な変化だけに目を向けるべきではない。その背後で、とても大きな本質的な変化が生まれていることに気がつく必要がある。それは、次のようなことだ。
- 仕事のやり方やライフスタイルが変わる。
- 人と人との係わり方が変わる。
- 生き方やものごとを判断する価値観が変わる。
これまで常識と考えていたことが、非常識となり、新しい常識が生まれようとしている。このような常識の転換は、生活やビジネスは言うに及ばず、政治や経済、外交や安全保障にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。例えば、ソーシャル・メディアがきっかけとなって広がった「アラブの春」、米国の国家機密文書を誰もが見えるように世の中にさらしてしまった「ウイキリークス事件」、中国による米国IT企業やメディア、軍需企業への「ネット攻撃事件」など、社会的、政治的問題をも引き起こす大きな力さえ持つようになった。
「常識が変わる」こと、すなわち「パラダイムシフト」が、確実に起こり始めている。
私たちは、手段である「表面的変化」に目が行ってしまい、それについてのビジネスを考えがちだ。しかし、それでは、ビジネスのイニシアティブを取ることはできない。今起こりつつある「本質的変化」に着目し、そこにビジネスの可能性を見出すことではないだろうか。
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