自称「クラウド・インテグレーター」の不都合な真実
「よそ様が作るサービスを売っても利益はほとんどありませんよ。導入支援など、多少の付加価値を乗せても、ほとんど儲かりません。」
今年の3月、私も運営に関わっている「ITACHIBA(異立場)会議」でご講演頂いたGoogle Appsの有力パートナーであるグルージェントの取締役・相談役 栗原傑亨氏の言葉だ。
「引き合いは、たくさんあります。しかし、実際には、収益の少ないライセンス販売に終止しがちでした。お客様にとっては、コストダウンが目的ですから、少しでも安くという話になってしまいます。それでは、いくらライセンスをたくさん売っても儲けは少なく、同じことをただ繰り返すだけのビジネスでした。」
栗原氏は、「このままではビジネスが立ちゆかなくなる」と考え、ライセンスの販売に留まらず自社で開発したグループウェアやワークフロー機能をGoogle Appsに乗せて、付加価値を高め、自社サービスとして提供し、収益を上げるビジネスモデルへと転換された。
クラウド・サービスの顧客単価は安い。だから顧客は、それを使おうとする。当然、何ら付加価値を載せなければ、儲けが出るはずはない。
また、クラウド・サービスのライセンスを販売するとなると、営業、マーケティング、一次サポートは、自ら負担しなくてはならない。そのためのコストが見えないままに、気がつけば、大きな負担となってしまうこともあるだろう。
「もうからなくてもいいんですよ。」
ある中堅SIerの営業責任者から、米社のクラウド・サービスのライセンス販売をしている理由について尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。
「お客様が、クラウドといえば、何か持って行かなければ、それでおわりですよ。それに、ドアノックに使えるならそれで良いと思っています。」
儲けが出なければ、いずれにしても“それでおわり”だ。また、ドアノックの成果について尋ねたところ「まだこれからです」と渋い顔をされていた。当然のことだろう。誰でも知っていて、インターネットを介して簡単に利用できるサービスを、わざわざSIerに紹介され、提案されてもありがたくはない。導入に当たって、多少の作業はお願いすることしても、最初だけの話だ。
「クラウド・インテグレーター」という言葉を使われるSI事業者もいる。しかし、その実は、「ライセンス販売」であり、真に付加価値を提供できているかと言えば、怪しいところもある。
聞けば、AWS、Salesforce.com、Google Apps、SoftLayerなど、扱えなければ仕事のきっかけが減ってしまうと言う理由だけで、そこに真の付加価値を載せて、ビジネスの展開を図ろうとしているわけではなさそうだ。
クラウドへの関心が高まっている本当の理由を見据えないままに、手段としてのクラウドにしか、着目していないことが、真の「クラウド・インテグレーター」になれない理由なのだろう。
お客様の側に、クラウドを求める理由があるからこそ、お客様はクラウドについて関心を持っているのだ。その真のニーズに応えてこそ、ビジネスは成立する。
ユーザー企業、特に情報システム部門の現実を見れば、頭を押さえられているIT予算の中で、ビジネス環境の急速な変化に対応することやグローバル展開、セキュリティへの対応が、重くのしかかっている。こういう事態に対処するためには、自前で開発し、所有することを前提としたシステムのあり方だけでは対処できない状況にある。
- 予算が抑えられるなか、システム化ニーズはむしろ増える傾向にある。
- 現場の要件にあわせることより、時間を優先させなければならない。
- 要件をあらかじめ決められない、変更には迅速に対応しなければならない。
このようなユーザーの要求を満たす手段として、クラウドへの期待が高まっている。この期待にどう応えるかという回答を持たないままに、サーバーやパッケージ・ソフトウエアの代替商材としてクラウドを提案しても、期待に応えることにはならない。
「うちはシステム開発しかやっていないので、クラウドになってサーバーが売れなくなっても、あんまり影響ないと思いますよ。」
このような話を聞くこともあるが、これは本質ではない。
お客様のビジネス・プロセスやワークスタイルを変えることなくして、ここに示したようなお客様の課題を解決することはできないだろう。そこについての提案を行わず、サービスやツールの機能や性能を訴えても、お客様に響くことはないだろう。
また、クラウドを自ら使いこなし、その「クセ」や「得手不得手」を理解することができて、お客様の業務ニーズに応えられる最適な「クラウド・インテグレーション」が提案できるはずだ。しかし、そういうノウハウや目利き力の蓄積もないままに、「クラウド・インテグレーション」などできるはずはない。
いまさらながらのはなしではあるが、収益の構造も変えなくてはならないだろう。従量課金や月額定額のクラウド・サービスと人月積算の折り合いをどうつければ良いかは、なかなか難しい。
また、意志決定者が情報システム部門からユーザー部門にシフトする中、「これだけ手間がかかったので、その分をお支払い頂きたい」は、通用しなくなるだろう。例えば、美味しいラーメンに満足し、その満足に対して対価を支払っても、それを作るためにかけた手間や時間に、対価を支払うことはないのと同じはなしだ。成果への対価という考え方は、ますます広がってゆくだろう。
クラウド・サービスを売ることではなく、お客様のニーズに応えることが自らの役割であり、そのために最適なクラウド・サービスや独自の付加価値の組合せを提供することができてこそ、「クラウド・インテグレーター」といえるのではないだろうか。
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*更新しました* 今週のブログ
SIビジネス 3つの変化、対処のための3つの要件
「人材が手当てできない言い訳が使えるうちに、優秀な人材を新規事業の取り組みに回したらどうですか?」
先日、SI事業者の社長にこんな話をしてみました。では、それでなにをすればいいのでしょうか。
今週のブログは、こんなテーマを取り上げてみました。
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