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伝えたという自分の満足ではなく、伝わったという相手の真実が大切

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「言葉を磨く研修」をしてほしい。あるITベンダーの人材育成を担当される方から、そんなご相談を頂いた。

もともと、この研修を創ったのは、展示会の開催を前にした製造業向けの商材を提供するITベンダーさんからのご依頼がきっかけだった。限られた時間の中で、自分達の商品やサービスの良さを確実に伝えたい。そのためのわかりやすいプレゼンテーションと説明の言葉を用意したい。そんなご意向を請けたものだった。参加者は、営業や販促の方々20名ほど。展示会では、それぞれに自分の担当する商品やサービスが割り当てられていた。

まずは、彼等に次のような事前課題を与えた。

「自分の担当する商品やサービスについて、プレゼンテーション3枚を作り、これを5分で説明できるようにしてきてください。」

展示会のブースでは、お客様を長時間拘束することはできない。だから、限られた時間の中で、効率よく、そして、効果的に説明ができなければならない。その意図を伝えて、資料の準備をお願いした。

研修の初日、全員にそれぞれ用意したプレゼンテーションで発表してもらった。しかし、その多くが、30ページ、40ページある元の資料を要約、いや、要約と言うより、文字を小さくして詰め込むだけ詰め込んで、何ともビジーなプレゼンテーションに仕上がっていた。また、書かれていることをとにかく全部話そうとするので、何がこの商材の魅力なのかがさっぱり分からない。しかも、その商材の機能や性能が如何に優れているかを説明しようとしているが、前提知識の乏しい私には、いったい何が良いのか、どんな役に立つのかがよく分からなかった。

そのようなことを指摘しつつ、次の3つのテーマを与え、順次考えて頂いた。

最初は、担当する商材が、お客様のビジネス・プロセスの中で、どのように位置付けられるかを整理して欲しいというもの。

そもそも、その商材は、それ自身単独で存在することはない。必ずそれを使う前工程、そして、その商材の結果を利用する後工程がある。その前後工程を含む、全体のプロセスを描き出してほしいというもの。ユーザーはこの全体プロセスを経て、何らかの価値を生みだそうとしている。その全体の中で、その商材はどのような課題を解決し、どのような付加価値を提供するかを明らかにしようというのが、最初のテーマだ。

これが思いの外できない。自分の商材について、その工程を細かく説明はできても、全体が分からない。中には、なぜお客様が、自分の商材を買ってくれているのかさえ、うまく説明できない人もいた。Value Proposition(顧客に提供する価値の組合せ。製品やサービスのメリット、存在価値や独自性を顧客に伝え、その価値を高めること)を示すことなどできないのだ。

商材を開発した人たちは、もちろんそのことを考えて作ったのだろうが、営業の現場は、できあがった商材の機能や性能を語ることはできても、顧客の価値を語れない。これでは、説得力など生まれるはずもない。

次のテーマは、「もっと詳しく話を聞きたい」と思わせるための言葉選びである。展示会の限られた時間で、全てを網羅的に話すことはできない。むしろ、興味を持ってきて頂いたお客様に、もっと話を聞きたいと思わせることが目的だ。そのためには、「こんなことでお困りではないでしょうか?」、「今、こんなコトが注目されています?」、「このようなやり方のままでは、いずれはこんなことになります?」というような、話を聞きに来られた方にリアルなイメージを思い浮かべて頂き、彼等の琴線に触れる言葉を探してもらおうというもの。その上で、その課題を「どのように解決するか」の手段やプロセスではなく、「この商材を使えば、どういう結果になるか」をできるだけ具体的に、現場の仕事の流れや数字を使って表現してもらった。

最後に、以上の検討を踏まえて、資料を作り直してもらった。目的は、「5分間でもっと話を聞きたいと思わせること」。すると、こんな質問を頂いた。

「商材の説明をしなくてもいいのでしょうか?」

もっともな質問だ。商材の詳しい説明を入れる余地はほとんど無い。しかし、答えはそれでいい。もちろん、なんのための商材かを簡単に紹介することは必要だ。そこで、最後のページに補足資料として、製品の全体プロセスにおける位置づけと、特徴や機能をコンパクトにまとめるように薦めた。しかし、大切なことは、「是非詳しく聞きたい」と相手に思わせることである。もし、相手がそういう気持ちになれば、相手も時間を割いてくれるだろう。そうなれば、これまでやってきたことであり、これまで作った資料も役に立つ。

研修そのものは、もう少しいろいろあって、間隔を開けて2日間に渡って行った。その結果は、最初作った資料とは全然違ったものになり、展示会でもうまく対応できたようだ。

「Value Proposition=顧客価値」が何かを示せないままに、いくら自社の製品の優位性を語っても相手は興味を持つことはない。自分が伝えたいことを伝えるのではなく、相手が知りたいことを伝えてこそ、言葉は相手に届く。

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「伝えたという自分の満足ではなく、伝わったという相手の真実」が大切である。そのことを忘れないようにしたいものだ。

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