「お客様の立場」という「自分の立場」の提案にがっかりした
「いったい、だれのための提案なんですか?」
少々、声を荒げてしまった。
「現場事務所にはシステムに詳しい人がいないんです。だから、現場での運用管理負担を少なくできる方法を提案して欲しいとお願いしたはずです。それなのにお持ちいただいた提案はエンド・ポイント・セキュリティの話じゃないですか。どういうことなんですか?」
すると担当営業は、次のように応えた。
「確かに、そうなんですが、現場にはいろいろな会社の人が出入りされますので、御社のことを考えますと、まずはセキュリティを優先すべきと判断し提案させていだきました。まず対処しなければならないことだと思っています。」
わたしは、ますます腹立たしくなってきた。
「申し訳ありませんが、それは余計なお世話ですよ。そんな提案をこちらは望んでなんかいません。確かにセキュリティは重要です。しかし、まず解決したいことは現場のシステム運用負担の軽減です。それほどセキュリティが重要とおっしゃるならば、この両者を両立する提案をして頂くべきではありませんか。VDIやシンクライアントの組み合わせなら、それが可能じゃないんですか?そう申し上げたはずですよ。」
すると、ついに相手が本音を語り出した。
「確かにその話は伺いました。ただ、私どもにはVDIの実績がありません。だから、実績のあるこのセキュリティ製品の提案をさせて頂きました。まずはセキュリティが重要かと考えまして・・・」
こちらが何を重要と考えているかを斟酌せず、自分たちができること、売りたいものを優先し、そちらの方が大切だと持論を展開する。残念ながら、そのようにしか理解できなかった。
別の会社の話だが、情報システム部門の責任者の方から、こんな話を伺った。
「ファイルサーバー用のストレージについて、3社に提案をお願いしたんです。必要な仕様や予算の目安も示しました。結局、一番金額が高いところにしたんですけどね。」
その方が言うには、2社はこちらが提示した予算を少し下回る金額で、仕様を満たす提案をしてきたそうだ。ところが、残る1社は違っていた。まず金額は、提示した予算より3割ほど高めだった。しかし、こちらが提示した仕様から、どんな運用をしようとしているのか、ならばどんな機能や性能が必要かを考えて、構成に盛り込んできたそうだ。
その提案を受けた方は、「なるほど、確かにこうでなきゃ困るな」と思ったという。そして、少し予算を上積みして、その提案を採用したとのことだった。
このふたつのケースから、「お客様のご要望に応える」とはどういうことかの教訓を得ることができる。
まず前者は、こちらが何に困っているかを訴えていたにもかかわらず、それを真剣に受け止め、どうすれば解決できるかを考えようとはしなかった。自分たちができること、売りたいものを優先し、正論を展開して、「我々の方がものを知っているのだから、言うことを聞いておきなさい」というようにも聞こえた。「お客様の立場」を考えて、といいながら、「自分の立場」しか考えていない。
「がっかりしましたよ」。
同席されていた情報システム部門長のつぶやきが耳に残っている。
後者は、全くの対極にある。こちらが望んでいることだけではなく、こちらも気がつかなかった使い方まで考えて、あるべき姿を示してくれた。専門家としての経験と知識を活かし、期待以上のものを提供してくれた。言うまでも無く、その提案を受け取った方は、多いに感心し、何かあったらまた相談しようと思ったそうだ。
「いったい、だれのための提案なんですか?」
自分への問いかけとして、忘れないようにしたいものだ。
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