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デジタルとアナログの間を行ったり来たり

オンラインもリアルもあってほしい

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 本屋さんについての雑感。

 もうここ数年、本を買うとなるとAmazonさんのお世話になりっぱなしである。「これが欲しい!」と一本釣りの場合は本当に楽だ。何件も本屋を探さなくてもすむ。購入するかどうかいまいち踏ん切りがつかないものは「後で買う」に入れておき、何かの折に合算することもある。

 おすすめ商品もたまに役に立つ。大抵は参考で終わることが多いが、この前何かのついでに「ベルサイユのばらで学ぶフランス語」なんて本を勧められ、面白半分に買ってみたらこれがけっこう良かった。名シーンをフランス語に訳しただけではなく、文法を系統立てて並べて解説してあるのだ。これでフランス語が上達するとは思っていないが、実は筆者はひそかに「ベルばら」をフランス人に紹介したいという野望を長年抱えている。この野望を達成するにはこの本を見せればいいではないかと思ったのだ。といいつつ、紹介するべきフランス人の知り合いはいないのだが。それまで本書を寝かしておこう。

 そんなこんなでリアルな本屋さんに足を運ぶ機会が少し減ってしまったかもしれない。近所にあった小規模な書店がカジュアルウェア店に変わってしまった時は少し寂しい気がした。だがリアルな本屋さんも必要だ。いまどんな書籍が出版され、何が平積みになっていて、その減り具合も興味深い。幅広く関連書籍を眺めたいときは本屋さんは強力だ。

 つい先日、小一時間ほど人を待たなくてはならない時があった。そういう時は軽くお茶するのがいい。ネットにアクセスできればより便利だ。だがその日はちょっと本屋に行きたくなった。雑誌か本でも買い、さらに余裕があればそれを持参してお茶でもしようと思った。

Dscf0473a  とりあえず雑誌を眺め、店内を歩いていると旅行関係の棚に行き当たった。そういえば。けっこう前になるが愛知万博ではカナダ館とフランス館が印象的だった。それで両国は「いつか行きたい国」となった。フランスはすでに1回足を運んだが、カナダはまだである。本を手にしてパラパラめくってみる。値段も手ごろなので何となく買うことにした。

 レジにカナダの本を差し出そうとすると、近くに東京国立博物館でやっている「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」の割引券が置いてあるので「これも入れて下さい」と頼む。するとレジにいた年配の女性が本に気付いてこう言った。

 「まあ、カナダに行かれるのですか」
 「あ、いや、まだ。なんとなく」
 「いいところですよ。特にビクトリアが……」

 女性の目が細くなり遠くを見つめだした。おそらくかつてカナダ旅行を経験したのだろう。その時の記憶がよみがえったのか、動きがゆっくりとなる。筆者の1万円札と300円を握りしめ、レジの手前で指が宙に浮いたまま心はカナダに行ってしまったようだ。

 お恥ずかしいことにその女性が言う「ビクトリア」がどこのことだか分からず、「西海岸の方ですか?それとも東?」と訊いてみると、こちらに顔を向けて「ええっと…」と口ごもった。どうやら自信がないようだ。ツアーなどで行ったのだろう。

 だが「船で回るのもいいんですよ」と目を細めて笑う。これはきっと愛想の作り話ではなさそうだ。きっと彼女にとって、とっても記憶に残るいい旅行だったのだろう。心が日本に戻ってきた女性は私におつりを渡しながら「どうぞお気をつけて」と言ってくれる。まだ行くと決めたわけではないのだが。

 だが彼女の恍惚とした様子は印象的だった。そんなに幸せな記憶を残す景色や国ってどんなところだろうとカナダへの興味がさらに増してきた。加えて後から「こういう経験はオンライン書店では遭遇することはないな」とふと思った。オンラインの本屋さんとリアルな本屋さん、どちらも身近に存在してほしいと感じた。

「ベルサイユのばら」で学ぶフランス語
「ベルサイユのばら」で学ぶフランス語 友重 山桃 池田 理代子 平野 隆文

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