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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る(2)

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中小企業のための海外進出(3)
-日本のコメ・ご飯・おにぎりを欧州で売る 第二回-

日本のコメを欧州で売る際に必要になる知識、情報、事業案などの第二回目。

IT事業の起業のためにブダペストに1.5ヶ月、ロンドンに1.5ヶ月、キッチンのあるゲストハウスに宿泊し、現地で食材を買って自炊していたので、両都市の「コメ」「ご飯」の事情がおおむね把握できた。

結論から言うと、日本人の味覚から見て現地で入手できるコメはあまりおいしくなく、日本の「ふっくらした炊きたてご飯」は望むべくもない。
そのため、日本のコメを、炊き方と一緒にして売るならば、うまく行く可能性がある。言い換えれば、炊きたてのふっくらしたご飯の味を、おにぎりなどの形で現地に浸透させて行けば、かなりのやりようがあるように思う。

◎ブダペストのコメ事情

ブダペストは広域都市圏の人口が約340万人。公共交通網がしっかり整備されている立派な大都会である。ハンガリー、スロヴァキアを含み、オーストリア、ルーマニア、ウクライナなどにまたがる巨大なカルパチア盆地の中心にある都市で、11世紀からハンガリー王国として大きく栄えた。同盆地で産出する豊かな農産物とドナウ河の舟運によってもたらされる各国の物産とが、ハンガリー王国の富の源泉になったようである。5〜6世紀からワインが作られているワインの名産地でもある。
古くから富の蓄積が進んだため、ブダペストの市街地は石造りの立派な建築物で埋め尽くされている。日本から行くとその建築群のあまりの壮麗さに圧倒される。行政府の建物だけでなく、一般的な住居や商業施設もすべてが歴史ある石造建築物になっているのが特徴だ。

街並みを歩いていると、大変に豊かな市民生活水準を実感することができる。購買力平価基準の一人当たりGDPは2003年の数字で2万ドル(日本は2018年に4万4,000ドル)だが、15年も前の数字であり、現在では3万ドル程度にはなっているはずである。2004年のEU加盟により経済発展に勢いが付いたようだ。東側諸国にありがちの経済が沈滞している様子はまったくない。
ただ、為替レートがまだ弱いようで、日本円を換算して得られる現地通貨フォリントは、日本人の感覚からすれば日本円の2倍近い使いでがある。レストランの食事や公共交通は日本の半額に近い感覚一方で、国外から輸入品として入ってくる商品、例えばオリーブオイルなどはフランス、英国の二倍近い価格が付いている。

ハンガリーは日本から少し高級な商品としてコメを持って行って売れる市場という意味ではなく、現地でコメがどのように食べられているかという観点で見て行きたい。

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ブダペストの街並み。古い教会と住居、商業建築が入り混じっている。

◎炊飯器がないところでおいしいご飯を食べるには

ブダペストでは欧州各国で展開しているスーパーチェーンのうち、SPARが圧倒的な存在感を放っている。都心部では日本のコンビニのように至るところで中規模・小規模店舗が展開している。500mも離れていないところに2〜3軒というケースもある。
それと並行して個人営業のソフトドリンク、タバコ、ビール、保存食品などを売る店も多い。コメはスーパーならほとんどの店で小型パック売っている。

前回記事の写真で掲げたのは、イタリア料理リゾット用として売られているコメで短粒種。他にもインド料理用のコメ(長粒種)、タイ料理のジャスミンライスなど、料理別の米が500g入りの縦型ビニールパックとして売られている。見た目は高級食品。明らかに、特別な機会にコメを食べる人たち向けの特殊な商品である。

ブダペストのコメは炊飯器のない状況で「炊く」(炊き上がり時に水気がなくなり、硬さがちょうどいい状態になる)ことは難しいため、「煮て」、硬さがちょうどよくなったら水から揚げて、しばらく放置して、それをそのまま食べる、ないし、調理するという段取りになる。
別パターンでは、米のまま油で炒めてから調理しても良い(煮るプロセスは不可欠)。これは中東のピラフの作り方。油で炒めると、煮る時間を短くできる。

以上の煮るか油で炒めるかして調理すれば、日本人がそこそこおいしいと思えるご飯になるが、やはり、「ふっくらとした炊きたてご飯」には程遠い。

これらのことから、ブダペストの人たちは、日本のコメをおいしく炊き上げたふっくらご飯を、おそらくは一度も経験したことがないだろうという仮説が出てくる。都心に日本食レストランはあるが、まだ特殊な位置づけ。日本人の感覚で炊いた日本のおいしいお米のおいしさを、ほとんどの人は知らない。そこにビジネスチャンスがあるはずだ。

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ブダペスト市街の古い建築の一例。

◎テスコの寿司を10数年ぶりに試す

イギリスのロンドンはどうか?2000年前後に仕事で数日滞在した時に、大手スーパーのテスコ店頭で寿司を売っていたので、買って食べたことがある。ご飯が固くて、でんぷん質によく熱が入っていない、炊き方が失敗したようなご飯の酢飯の上に、ゆでエビなどが乗っかっていた。
あれから20年近く。テスコの寿司も相当に進歩していると思って買ってみた。店頭ではロール寿司が3種。あとはサーモンとゆでエビをセットにした握り。見た目は日本のコンビニで売っている握り寿司パックの小型版。中には魚型プラスチック容器の醤油と、日本のスーパーの刺身についてくる小型パック入りわさび、小型パック入りのガリも入っている。付属品が丁寧だ。
肝心の味はと言えば...。18年前に食べたテスコの寿司からまったく進化していない。これが驚きだった。ご飯は硬い。冷凍のものを解凍しただけなのか、例えて言えばプラモデルのご飯を食べているという食感。サーモンのネタは刺身ではなく、うっすらとスモークしたサーモン。鮮度の問題があるため、生のネタは使わないのだろう。これはこれでおいしい。ゆでエビは...。あまりおいしいとは言えなかった。

このような、長年経ってもおいしさにほとんど改善のない寿司パックが大手スーパーで売られている。日本食が何もないよりはありがたいと言うべきか。

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ロンドンの街並み

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大手スーパーTESCOで売っている寿司。ゆでエビ、サーモン、何かの巻物。大量に作ったものをいったん冷凍して保存し、店頭に出す前に解凍していることが窺われるご飯の「歯ごたえ」。

◎ファッショナブルな日本食レストランでもご飯はイマイチ

一方で、日本食はロンドンでは高級な料理として認識されている。都心中の都心であるピカデリースクエア地区には、紛れもない高級料理である日本のラーメンとその他の日本料理を出す高級レストランAnzuがある。1杯10ポンド程度(1,500円前後)のラーメンを出す、飲み物抜きの客単価3,000円程度のレストラン(東京の感覚からすれば高級の部類に入らないが、レストラン価格が安めのロンドンでは高級)。
この界隈では日本からやってきたKanada-Ya(金田屋)など複数のラーメンレストランが、ある程度高級な食べ物として店を出している。

寿司はもちろん、芸術的な日本料理として認識されている。最高級ホテルのザ・リッツもある金融街には、ハイエンド日本レストランのセクシー・フィッシュがある。メニューを覗いてみると、握りの単品が5ポンド(750円)程度。これをいくつか組み合わせてオーダーする。刺身ももちろんある。客単価は飲み物抜きで1万円程度か。やはり東京よりは安いが、ロンドンではハイエンド。
その他、"wagamama"(ワガママ)という名前で展開している若者向けのファッショナブルな和食チェーンもある。ここはラーメンやカレーがメインで価格は10〜14ポンド程度。メニューを工夫して単価を高めに設定している。日本の居酒屋の突き出しに当たる枝豆なども、立派な前菜だ。

wagamamaでカツカレー(11ポンド)を頼んで食べてみた。カツは鳥。ロンドンはインド、中東から来たイスラム系の人が格段に多いので、豚は敬遠されるのが普通。まして、イスラム教徒に配慮して「ハラル」の看板を掲げている飲食店では、豚はタブー。日本食レストランでもハラルを掲げているところがある。多く見積もれば、ロンドンの人口の1/3程度はイスラム教徒ではないか。
このことから、英国初め欧州でおにぎりなどを展開する際には、あえてハラル料理として提供していくのが得策だろう。

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ファッショナブルな日本食レストラン(ただしカジュアル路線)wagamamaのカツカレー。ハラルを意識してか、カツは鳥。

このカツカレーのご飯だが、詰まるところは、日本のおいしい炊きたてのご飯とは一線を画していた。とりあえず、炊飯器で炊いているご飯ではある。しかし、コメが、日本人一般が普通おいしいと思うコメではない。ランクが二等か三等下がったようなコメ。日本では言葉はよくないが飼料にしかならないようなコメという印象があった。相当にファッショナブルな日本食レストランでもそういう現実がある。
厨房の中を覗くと、欧州系白人、インド人、アフリカ系黒人などが入り混じって働いていて、ロンドンの人口構成の縮図そのもの。その中に日本人はいなかった。また、日本食レストランによくいるタイ人もいなかった。つまり、ご飯を常食しない人たちが炊いているご飯なわけである。

こうしたことから、日本食をあちこちで見るロンドンでも、日本人にとってはごく当たり前の「ふっくらとした炊きたてご飯」は、ほぼすべての人が未経験だと想定できる。

◎ブダペストのトルコ食堂のご飯

ブダペストに話を戻して、あちこちに無数に展開していたトルコ料理の大衆レストランで出していたご飯を紹介したい。

トルコの食べ物は、日本でもよく見かけるドネル・ケバブの間口の狭い店舗か、ビュッフェ式で多数のおかずとご飯が並んでいるレストランで出されている。ブダペストの場合、誰もが気軽に入って食べられるレストランと言えば、トルコ系か米国のマクドナルド。それだけ一般的だ。
このトルコビュッフェで、おかずに組み合わせる炭水化物としてご飯が提供されている。ハンバーガーにおけるフライドポテトの位置づけ。お腹がいっぱいになるための補助食品として。白いご飯かトマトなどで色づけされたご飯が選べる。

私は中東料理で有名なムサカ(ナス、チーズ、ひき肉を層状にしてオーブンで焼いたもの)と、色のついたご飯を組み合わせて何度か食べた。ムサカ自体がおいしいので一皿としてはおいしい。しかしご飯をよく吟味してみると、非常にグレードの低いコメを使っていることが明らか。炊き方も「ふっくら」しているわけではない。茹で切らない極小のじゃがいもがライスになっている感じ。まずいわけではないのだが、日本人の感覚からすれば、おいしいご飯とは言えない。

ということで、おそらくは欧州全域で、日本人がふだん食べているおいしいご飯は食べられていない。というより、ほぼすべての人は未経験だろう。
従って、炊きたての本当においしいご飯を食べると、目を丸くするはずだ。我々日本人が、本当においしい焼き立てのパンに出会った時の感動。たぶん1980年代に起こったことだが、それに近いものを現地の方々に味わってもらえると考える。

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ブダペストの大衆トルコ料理屋のムサカとご飯(トマトライス風)

◎多種多様な用途のコメ製品

インド人はコメを常食している。英国にはインド人が相当に多い。パキスタン、バングラデシュからもかなり移民が来ている。いずれも英植民地の歴史的背景を背負っている。旧植民地から移民として来やすい時代があったようだ。ロンドンではインド人比率が大変に高い地域があり、そこではインド系商店が軒を連ねている。

先日覗いた大手スーパーASDA(米ウォルマート系)の中型店舗では、インド人用の5kg、10kgのコメを売っていた。10kgの高級そうに見えるパッケージで20ポンド(3,000円)。5kgパックでは15ポンド。ASDAブランドの安い商品になるとその半額程度。

また、常食しない人のための小型パッケージも売られている。複数の店で目につくのは、"Uncle Ben's"というブランド。大手セインズベリーでもこちらのASDAでも多品種が並んでいたので、英国のトップブランドだろう。
Uncle Ben'sには250gのコメを、生のままパックにしているケースと、半分調理して5分程度で食べられるようにしているケースとがある。また目的別にフライドライス(炒飯)、チキン風味、トマト&バジル風味、メキシコペッパー風味などに分かれている。インド人が好きな長粒種はもちろん、精白していないブラウンライスも売られている。英国ではそれだけコメのニーズが多様だということだ。

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ロンドンのスーパーならどこでも置いているUncle Ben'sブランドのコメ製品。メキシコ料理用、インド料理用など、各国料理向けに中身を調整している。耐熱パックに入ったコメを5分程度お湯で煮ると、焚けた状態なる半調理品もある。

◎やはり炊いて食べてもらうのが一番

日本のコメをこうしたスーパーなどで売っても、まずうまくいかないだろう。すでに知名度とシェアを取っているUncle Ben'sのような製品とガチンコで戦わなければならないし、コメを常食としているインド人をターゲットにするには、パサパサの炊き上がり、味わいが軽い長粒種を食べている彼らに、粘度の高い日本の短粒種を食べてもらう必要があり、食習慣を変えるという大変に骨の折れる仕事となる。

日本のおいしい「コメ」を欧州の人たちに食べてもらうためには、やはり「コメ」+「 炊き上がり」で売るのが懸命だ。炊飯器がある家はごく少数派だという事情もある。また、何がおいしいご飯かわからない人たちに、初めて経験してもらう必要があるからだ。
「コメ」+「 炊き上がり」であれば、欧州の人たちにも「真においしいご飯」を味わってもらえるようになる。何せ、一度もふっくらご飯を食べたことのない人たちである。炊いてあげて、食べてもらうのが早道だ。

次回は、炊いて食べさせる業態として、どのようなものが可能かを見ていきたい。

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