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オープンソース系パッケージソフトウェアベンダーの社長のブログ

「夢」と「不要な機能」の境目(餅つき器とパン焼き機が合体する理由)

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 去年の冬頃から、どういうきっかけだったか忘れたが、自分でパンを焼くようになった。パンは大きいオーブンが無いと焼けないモノ、と思いこんでいたのだが、うちにある電子レンジ一体型の小さなオーブンレンジでも焼ける、と知ったのがきっかけだ。実際、自分でパンを焼くとおいしくて、安い。質量あたりの材料費は多分、スーパーで賞味期限切れ間近で3〜4割引で安売りされているパンと同じぐらいで、おいしさはいわゆる焼きたてのパンを売ってるパン屋さんの3〜4割引ぐらいの感覚。そして作るのが楽しい。私の感覚だと「お得」だったのだ。

 しばらく喜んで作っていたのだが、自分の稼働時間が隠れたコストになっている。生地をこねたりする作業が楽しいうちはいいのだが、なんだかんだで3〜4時間拘束されるので毎日焼くわけにはいかず、週1でもちょっと飽きる。

 で、いろいろ調べているうちに、家庭用自動製パン機(ホームベーカリー、HBというらしい)なるものが存在することを知った。材料を入れてボタンを押すだけで勝手にパンができて、しかも味もおいしいらしい。これだったら買う価値あるんじゃないの?と思って価格を調べると、価格コムにちゃんと専用ジャンルがあるという市場成熟っぷり。

 興味深いことに、一番安いものは6千円台で買える一方、高いものは2万円弱と、価格に3倍程度の開きがある。私が全く知らない間に、家電市場の一角で、苛烈な機能競争が進んでいたようだ。結論から言うと、高いものと安いものを隔てているのは、調理可能なメニューの種類だ。基本的に高いものは「パンのほかに、餅もつけます!パスタもつくれます!なんと温泉たまごも作れちゃうんです!」といって売っている(つまるところ「パンの味」ではそれほど差別化できないらしい)。

 私たち夫婦は「餅もつけるなら、お正月は餅を買ってこなくていいね!」とかいって盛り上がったのだが、その盛り上がりは120秒ぐらいで冷め、俺たちに必要なのはパンを焼いてくれる機能だよね、ということで結局はパンを焼く機能を持った機種の中で一番消費電力の少なそうで手頃な価格のものを選んだ(それでも温泉たまご機能がもれなくついてきた)。

 なぜ高機能な機種を買わなかったのか。それは、本質的にはその機能が不要だったからにほかならないのだが、本質的にその機能が不要だったとしても、その製品が十分な「夢」を発信している場合には、ユーザーがその夢に魅せられ、「夢につきあって」しまうことがある。「夢」とは、その機能によってもたらされる生活の変化の魅力、体験(エクスペリエンス)への期待のことを指している。

 最近の自分の例ですぐ思いつくのはワンセグ携帯だが、私はもともとテレビを見ない人間なので、薄型テレビや、綺麗なテレビを宣伝されても全くピンと来ない。でも、ワンセグ携帯については、そういう宣伝をしていたこともあって、もし屋外でテレビが見られたら、もしかして新しい楽しい体験ができるのではないか…そんな「夢」を頭に描いてしまい、それに魅せられてワンセグ携帯を買ってしまった。結果、10ヶ月ぐらい使っていてもワンセグは合計視聴時間10分以内ぐらいなのだが、後悔はしていない。良い夢を見せてくれてありがとうと感謝しているし、夢の続きとなるようなプロダクトが出てくれば「夢につきあって」みても良いと考えている。

 どうせ物作りに携わるなら、やはり人を魅せられるような製品を作りたい。自分で自分の首を絞めかねない話題なのだが、製品を企画しているときに陥りかねない罠として、とにかく競合製品の機能を上回る機能の実装をめざしてしまうことの罠がある(私はこれを「○×表競争」と呼んでいる)。これは一般に、体験を想像させるような製品を作り、その体験をプロモーションするよりも、とにかく機能を実装して機能が多いことを定量的に示すプロモーションを実施する方が楽だからではないかと憶測する。餅もつけてパスタもうどんも作れる自動製パン機については、残念ながらメーカーのサイトを見ても、私には○×表競争の生み出したあまり魅力的でないモノとしか捉えることができなかった。とはいえ、機能は体験を作り出すための重要な要素であり、競争が機能を生み出すのは間違いがない。物作りにおいては、このあたりのバランスを取っていくことが重要なのだと感じた。

…ところで家庭用自動製パン機だが、たいへんおいしくパンをいただくことができており、確実に楽しい生活体験をしている。「掃除機ロボ」「二合炊きの土鍋」「ホームベーカリー」は、新・新・三種の神器として万人に広くお勧めしたい。

Comment(4)

コメント

我が家でもNationalのパン焼き機を愛用しております。(餅はつけませんが)
粉の購入はネットから行っており、クオカ、富澤商店を経て今はママの手作りパン屋さんというところが気に入っています。ハルエゾという強力粉は香りが良くておいしいですよ。
http://www.mamapan.jp/

ういーす。
我が家は7年前からパン焼き器を導入していて、現在2代目。初代のは餅つき機能がついてたけど、使ったのは2回くらいかな。食パンがおいしくできれば十分です。

ところで、うちも掃除機ロボ欲しいんだけど、何かオススメとかある?

小椋

>yoheiさん
今はネットで情報も集められるし、様々な種類の粉が買えて良い時代ですね。私はスーパーで売ってる粉しか買ったことがありませんが、いろいろ勉強していきたいとおもいます!

>sakuさん
掃除機ロボは、いろいろあるけどやっぱりRoombaじゃないでしょうか!
1代目が使われなくなった理由に興味津々です。壊れたからですか?それとも機能が必要になったからですか?

Roomba、6万とかするんだ。ちょっと高いなー。

初代は、ハネを固定している台座の部分がモゲたんで……。パーツ交換で1万円くらいかかるっていわれたから、去年安いヤツに買い替えました。

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