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人材育成は人材の流失を加速する 1/2

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201710月、コマツは、Smart Constructionを主力事業と位置付け、SAPdocomo、オプティムとの合弁会社ランドログを設立し土木工事における作業の自動化と高度化を実現することに加え、前後工程も効率化して、工期の短縮に貢献できるパッケージ化したサービスを提供しようとしています。20181月、トヨタがe-Palette Conceptを発表し、同年9月、ソフトバンクとの合弁会社Monet Technologyを設立しまし、MaaSMobility as a Service)をこれからのビジネスの柱に据えようと取り組みを加速しています。

両者に共通するのは、「モノを売り収益を得るビジネス。サービスはモノ売りビジネスを支援する手段」から、「サービスを提供し収益を得るビジネス。モノはサービスを実現なする手段」へと転換を図ろうとしていることです。

モノや人手などの「手段」を提供するビジネスから、「移動する」や「工事を行う」などの「結果」を直接提供するビジネスへと経営の根幹を変えてしまおうという取り組みであるとも言えるでしょう。

この背景にあるのが、デジタル・テクノロジーの進化です。現場をきめ細かくデータで捉えることを可能とするIoTや、そのデータから最適解を見つけ出し自律的に判断し実行できるAIは、ビジネスの常識を転換する大きな原動力になりました。

環境意識の高まりや人手不足、所有にこだわらない価値観の拡がりなど、ビジネスを支える社会環境の変化が、これからのデジタル・テクノロジー需要を拡大させています。

もはやITは、本業の生産性の改善やコスト削減を支援する手段には留まりません。事業や経営のあり方を変革するためにITを前提に考えてゆこうとしています。表現を変えれば、ITが本業となり、全ての企業や組織はITサービス・プロバイダーへと変わろうとしているのです。

この大きなパラダイム・シフトがデジタル・トランスフォーメーションです。

この大きな変化がもはや現実のものとなろうとしているのに、人材育成は未だ内向きであり、インサイド・アウト(自社事業延長線上に考える)でしかありません。例えば、ウォーター・フォール開発を前提としたプロジェクト管理やプログラミングの研修であり、運用管理の委託業務に答えるための運用管理手順のノウハウなどです。

もちろん、いまの収益を支えるためにはこのような知識やスキルは必須ですから、そんな研修が不要だと申し上げるつもりはありません。しかし、これからのお客様が求めるIoTAI、クラウドやモバイルなどの技術スキル、デザイン思考やリーン・スタートアップ、DevOpsやアジャイルなどの実践ノウハウなどの習得は、ことごとく自助努力に委ねられています。ほんとうにそれでいいのでしょうか。

先日、あるSI事業者の人材育成の責任者と話をする機会がありました。かれは、エンジニアの人材育成プランを作り直すように社長から命じられていました。私は彼の試案なるものを拝見して、なんとも残念に思いました。

  • 何も変わっていない
  • 時間をかけすぎ
  • 現実が理解できていない

結局は、ウォータフォール型の案件を受託するための前提となるPMBOKITILなどの資格取得が前提であり、技術者の視野を広げスキルを向上させるような内容は皆無でした。

また、たったこれだけのことをやるのになぜ3年や5年もかけなければならないのか驚きました。この点を指摘すると「予算が限られているから」ということでした。しかし、書籍やオンライン研修はいくらでもあります。実践的なシステム環境の構築やトライアルならクラウドやOSSを使えばお金などかかりません。それよりもなによりもそんなスピード感では、研修が終わる前に必要なスキルが変わってしまいます。

そんなことをお伝えすると、まるで他人事のように「もう、そんな時代なんですねぇ」との言葉が返ってきました。

お客様のビジネスの常識が変わり、求められるテクノロジーもその重心を変えつつあります。その実感がないようです。

クラウドについては「うちでも取り組まなければいけないと思っていますが、お客様からはそんなご依頼がないので」といい、アジャイルは「SIで使えるかどうかは分かりませんし、まだ具体的なご要望もありませんので」という答えでした。スキルがないことを分かっているお客様が、彼らに相談しないだけのことだという現実が見えていないようでした。

人材育成というのは、自分たちのビジネスのいまを支えるスキルを身につけなければならないことは言うまでもありません。しかし同時に自分たちの未来を創る人材を育てるためにも必要なことです。

コマツやトヨタの事例にもあるように、これからITは本業として、お客様の事業組織に組み込まれてゆきます。クラウドやアジャイル、DevOpsを前提に内製化をすすめてゆくでしょう。そんな時代の受け皿となれる人材を育ててゆくことも、人材育成に責任を持つ彼の役割のはずです。その自覚も見識もないままに任されたのは、彼にとって不幸なことだったのかもしれません。あるいは、経営者にそもそも先を見通す見識がなかったのかもしれません。

また、この会社は優秀な人材の流出が停まらないそうです。そのこともあって人材育成の見直しに取り組もうとしているというのですが、これでは逆効果です。

優秀な人材が流出するひとつの理由は、仕事にワクワク感がないことです。古いシステムの保守や運用管理、トラブル対応ばかりではモチベーションも下がります。新しいコトに取り組むチャンスは限りなく少なく、自分たちが作ったシステムがお客様の現場でどのように使われ成果をあげているかを知る機会もないままに、一方的に与えられた作業をこなすだけの仕事では、自分の成長や未来を期待することはできません。

現場で仕事をする人たちは、いま世の中が変わりつつあることを強く実感しています。一方で、経営者や管理者は、まだ大丈夫と安心し、あるいは、「変えるのは簡単なことではない」と施策を先送りしています。現場の人たちが、このままで大丈夫だろうかと不安になるのは当然のことです。

では、どうすればいいのでしょうか? 

*明日に続く*

ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/LiBRA

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