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営業が抱える3つのしがらみを断ち切らなければ、お客様に愛想を尽かされる

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「エンジニアが足りません。彼らの稼働率が高く、提案に時間を割けないことが原因です。」

新規案件の開拓や売上が目標に届かない。その理由はこれだと、大手システム・ベンダーの事業部長が説明をした。しかし、現場の方にいろいろと話しを聞くと、そんな単純なコトではないことが分かってきた。

確かに数字上は、提案活動に関わるエンジニアの稼働率は高く、営業からの依頼に応じきれないのは確かなようだ。しかし、彼らに話しを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「営業に呼ばれてお客様に行っても、役に立たないことがよくあります。うちは、プロダクトやサービスごとに担当エンジニアが別れているのですが、まったく自分の担当外の話しの場合がよくあります。また、それ以前の話しですが、お客様の要件が曖昧で、何を説明すればいいのか、何を提案すればいいのか、そこから確認しなければならないこともしばしばです。」

これでは、エンジニアの稼働率が上がるのも当然だ。本来、お客様との技術的に突っ込んだ議論やクローズのための提案作成に彼らの時間を割くべきところだが、営業活動の最初の段階にかり出されて時間を使ってしまっている。そのために稼働率が上がり、本来の役割が果たせないといった事態になっているようだった。

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本来、営業は、お客様の良き相談相手となって、お客様の困りごとを解決する方法を提示することや、どうすればいいか分からないお客様であれば、お客様の「あるべき姿」を示し、正しい方向に導いてゆかなければならない。それにもかかわらず、ただの御用聞きに留まっているようでは、営業としての役割を果たしているとは言えない。

製品の情報を得ることや機能や性能の比較ならばオンラインで簡単にできる。オンラインのチャットや音声対話で商品説明をうけることもできる。商品やサービスの説明だけなら、お客様に出向いてやらなくてもいい。お客様がオンラインで機械と対話的に相談しながら、製品の選択や見積依頼ができる日もそう遠くないだろう。

機械にできることしかできない営業はいらない。むしろ、お客様の課題や解決策の選択肢を絞り込めない営業は、営業活動全体の生産性を低下させる元凶であり、何もしないでいてくれた方が会社のためだ。

これまでITは、業務効率の改善やコスト削減の手段として使われ、成果をあげてきた。その前提には、ユーザー現場のたゆまぬ改善への取り組みがあり、情報システムはその成果を反映させることで成果を提供してきた。しかし、既存のやり方の延長線上では、十分な投資対効果が得ることができないほどに、IT利用はすすんできたとも言える。このような現状を革新し、新たなやり方で現状の閉塞感を打開できないだろうかと模索している。

既存のやり方の改善では実現できなかった劇的なコストの削減や生産性の向上、多様性への対応やビジネス・スピードの加速を実現することで、企業としての新たな競争力を手に入れることが可能になった。また、テクノロジーの新たなブレークスルーを積極的に取り込み、これまでに無いビジネス・モデルを創りあげ、競争原理を変えてしまう動きも、多くの産業分野で見受けられる。このようなITの新たな需要に応えるためには、3つのしがらみを断ち切らなければならない。

「お客様からの要望に応える」というしがらみを断ち切る

お客様はいまのテクノロジーで、これまでできなかったことがどのように解決できるかを知らない。そして、近い将来、どんなことができるようになるかも知らない。営業は、そんなITのトレンドを正しく理解し、お客様の良き相談相手となって、一緒になって解決策を創りあげてゆく必要がある。

具体的な実現方法はエンジニアの力を借りなくてはならないが、お客様のあるべき姿をお客様と共に描き、そこに至る物語=戦略を組み立てる上での主導者は営業の役割だ。

営業はお客様の3年後や5年後に責任を持たなければならない。そのためには、お客様からの要望に応えるだけの「御用聞き」から脱却し、お客様の未来について自ら語り、お客様に夢を与え、その具体的な筋道を共に模索し描いてゆく「共創」によってお客様に関わって行ゆく必要がある。

「情報システム部門一辺倒」のしがらみを断ち切る

いま経営者や事業部門の方たちは、ITの必要性を感じながらも、その活用になかなか手が出せない。それは、ITについての知識不足、あるいは、難しくて分からないからと遠ざけるアレルギー症状が背景にある。それ故、ITのことは専門家である情報システム部門に任せておけばいいと、自らの思考を停止し、彼らに押しつけてしまっている。

しかし、情報システム部門は新しいことをやっても評価されない組織であり、失敗のみが減点評価される企業文化の中で生きてきたことから、新たなIT活用については慎重だ。ですから、検討に検討を重ね、リスクが高いのでやめた方がいいという結論を導く傾向にある。安定稼働とコスト削減が徹底してすり込まれてきた彼らにとっては、ごく自然な結論と言える。

このような状況をそのままに、ITによるビジネスの革新は起こらない。営業は、この状況を打開することに取り組まなければならない。そのためには、ITを知らない経営者や事業部門に、いまのITで何ができるのか、それがお客様のビジネスにどのような価値をもたらすのかをわかりやすく伝えなければならない。そして、ITによるビジネス革新の主導権を彼らにとらせる必要がある。

そんなお客様との関係を築き、プロジェクト全体のイニシアティブを握ることができなくてはならない。

「調整役や仲介者」であるというしがらみを断ち切る

クリエイターであり、シナリオライターとして、役割の重心をシフトしてゆく必要がある。お客様のあるべき姿をともに創り出し、そこに行き着くシナリオを描かなくてはならない。「調整役や仲介者」であることは、そんな役割を果たすための手段であって、本来の役割を果たすために必要条件にすぎない。

お客様の経営者や業務部門の人たちが、IT活用に魅力を感じ、自分たちにもできるとの確信を持たせる伝道師との役割を果たすことも必要だろう。

自分の思想や戦略を持たず、お客様の経営や業務への関心も持てないとすれば、この役割を果たすことはできない。むしろ積極的にお客様と対立し、お客様の根っ子にある課題を引きずり出す位の覚悟必要だ。

「エンジニアの時間がとれず、相談できないから提案できない」や「お客様のことが分からないから、お客様の課題やニーズが整理できない」ということでは、AI営業に取って代わられるのは時間の問題だ。

お客様に新たな気付きを与え、お客様といっしょになって新たな取り組みを共創する。これからの営業にはそんな役割が期待されている。

新たな技術への対応や新規事業の開発に投資することの重要性は、いまさら申し上げることもない。しかし、それをお客様に展開できる営業を育てることに同様の価値を見出しているだろうか。両者は車の両輪であって、片方が欠ければいつまで経っても同じところを回り続けるだけのことだ。もし、冒頭のようなことが起こっているとすれば、もはや事態は深刻な状況かもしれない。

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【新規】「社会的価値」とは何か p.183
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【新規】支配型リーダーと支援型リーダー p.185
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