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クラウド破滅へのカウントダウン ~土に根を下ろしLANと共に生きよう~

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本エントリーは2011年11月11日に行った、オルタナティブ ブロガーズ ミーティングで僕が行った講習の原案を記載したものです。 この文章を講習に合わせてコンパクトに纏めてスライドを作ったのです。

振り返ってみると相当に中身を削ってます。なお、講習ではもうひとつのテーマをお話ししましたが、それは別のエントリーとして投稿します。

序章:本当の変革が始まろうとしている

クラウドコンピューティングが提唱されてから早五年。ようやく多くの企業にその概念が根付いてきた。今、企業のIT環境は大きな転換期を迎えようとしている、と人々は言う。

しかし、名前こそ変わったが、我々がクラウドコンピューティングの形に触れたのは遥か昔。

十年ほど前、人々のコミュニケーションはすでにクラウドの中にあった。

2ちゃんねる、Yahoo!が代表的なものだ。

人々はただ、インターネットに接続し、それぞれのサイトにアクセスすれば、多くの人たちとの交流を楽しむことができた。

ビジネスの世界では、歴史はさらに古い。

それはどうやら僕が生まれる前にまで遡るらしい。1960年代にはデータセンターに集約されたサーバーから定額のサービスを提供していたという。

どうやら我々は声高に叫ばれる「革新」の言葉に騙されていたのではないか、そんな気まで起きてくる。

しかし、これからの10年間は本当の意味で変化が、それこそ激動の転換期がやってくるのではないかと予感している。

そしてこれから、その予感の根拠と、激動の時代をどう切り抜けていけば良いのかを考えて行きたい。

クラウドの終わりと次の世界

ここ1、2年で急速に浸透してきたクラウド コンピューティング。その急成長とともに仕事も遊びも便利なものになった。

しかし、その裏では緊急課題とも呼べる問題が浮き上がってきている。

○通信網の限界

先日、携帯キャリア各社が相次いで通信料定額を見直す意向を発表し話題になった。アメリカではそれよりも前に議論されていたのだが。

現在、スマートフォンが急速に普及し、携帯電話の通信でPCと同程度のデータが扱われるようになった。これにより急速に回線の容量が圧迫されているのだという。

しかも今後、モバイル端末の性能は伸びて行くばかりで果たして通信網の強化は追いつくのだろうか。

容量の問題だけではない。

モバイル端末の高性能化によりほとんどの処理が一瞬で終わる状況で、通信回線の遅延は大きな不満の種になるだろう。通信上の遅延は回線速度とは異なり、通信の高速化を行なうことでは解消できない。

クラウド コンピューティングの発展を支えてきたのはモバイル端末とそのネットワークであるだけに、モバイル通信の破綻はすなわちクラウドコンピューティングの死を意味する。

○超高速プロセッサー

さらに悪いことに、コンピューター用のプロセッサーは全く進化の歩みを緩める気配はないようだ。

数年前から噂される量子コンピューターやことしに入って注目された、NTT docomoにより発表されたバネの原理を利用したデータ処理方法などデータの処理にかかる時間は限りなくゼロに近づいて行く。

このような状況で、あらゆる人、企業がモバイルをフル活用するとなると、いくらビジネスで扱うデータがテキスト中心であるといえども、それに付随するデータも含めるととても無視できない量になるはずである。

○ゼロ・レイテンシーの世界

ただし、データ量増加、プロセッサーの性能向上に対してネットワーク技術に希望が無いわけでもない。

ネットワークの通信速度、レイテンシを解消する方法として注目されるのが「量子テレポーテーション」である。

詳細な説明は省くが、これはある場所にある量子の状態を変化させると、別の場所にある対をなす量子にも同じ変化をもたらすというもの。しかもそのレイテンシーはゼロである。

この技術がネットワークに応用され、実用化すればモバイルネットワークのみならず、コンピューターに関わるネットワークのほとんどの問題が解消されるだろう。

現時点ではまだ実験室レベルの研究だが、いずれは実現するに違いない。

ただし、この技術が登場する前に、ネットワーク トラフィックの問題を解決する必要があることに変わりはないのだが。

情報のカタチ

ここからは、これまでの話をもとに企業が情報というものをどう扱ったらよいか、環境の変化に翻弄されないために必要なこととは何かを考えて行きたい。

○環境の変化と情報の変化

これまで述べてきた通り、情報技術を取り巻く環境というのは常に変化している。その変化のスピードは日に日に増しているようだ。

では情報そのものに目を向けてみよう。

通信回線が高速化され、コンピューターの処理性能が大幅にアップしたことで扱う情報に変化はあっただろうか。

そう考えると環境の変化に比べれば扱う情報の変化は少ない。

情報を伝えるツールはメールからSNS、動画のストリーミングなどといったように通信回線の変化や情報技術の変化にあわせて変わってきた。

ところが情報の内容にを見てみると特段大きな変化は見られない。これは至極当然のことで、ビジネスで必要な情報というのは誰がいつ何を、いくらで行なうかということだけでほとんど事足りるのだから。

この、情報そのものの変化の無さを踏まえ、運用を考えることが、環境の変化に左右されない情報管理の鍵となるだろう。

○鏡とレントゲン

俳優やアイドルなど人に見られる仕事をする人々は鏡を見て自分の姿をチェックすることが重要といわれている。しかし、これは何もそのような職業に限ったことではない。企業においても自分の姿を見つめ直すということはかなり重要であると思う。

企業が自分を見つめ直すというと、対外的なイメージ、事業の健全性など、企業とそこではたらく人々も含めたあり方を見ることになるだろう。

しかし、企業の情報管理を見るとなると少し様相が変わってくる。

情報とは無機質なもので、あくまでも事務的な事柄を言語化したものである。鏡に映った姿は外形や表情と言ったところは確認できるが、骨組みを理解することが難しい。企業の情報管理を見つめ直すためには鏡ではなくレントゲンが必要なのである。

情報管理を見直すためには対外的イメージや従業員、環境と言った要素を一切無視して事業の構造だけを見なければいけない。

顧客からの受注に対して次の処理はなにか、参照するデータは何か、いつまでに処理を終わらせるかというものが事業の構造である。このような構造には「誰が」「何を」「なぜ」といった要素はない。あくまでも処理の流れを言語化したものに過ぎない。

情報を扱う環境が変化する中で、こうした構造を理解しなければぶれることの無い情報管理体制を保つことなどできないのである。

人やシステムが変わっても、処理の流れが同じならばその流れに人をあわせればいい。処理の流れを見極めるためにはレントゲンのように付加要素を一切省いて、骨組みだけをあらわにする必要があるのだ。

○情報の背骨

レントゲンで企業の骨が見えたところで、次に考えるのは背骨。一番重要な骨を見極めるのである。

企業に対して「御社の情報の中で最も重要な情報は何ですか。」と訪ねたらどのような答えが返ってくるだろうか。

顧客情報、マーケットの統計、アンケートの結果。

企業により様々な答えが返ってくるだろう。

では、一番重要な情報の中で一番重要なデータは何かと問うたらいったいどんな答えが返ってくるだろう。多くの企業では上で挙げたような情報そのものがデータじゃないかと、そう思う可能性もあるだろう。

ここで考えなければいけないのは、ひとつの情報にも様々なデータが含まれているということだ。

顧客情報と言っても住所や代表者名、商品分野など、ひとつの情報を表現する項目は様々である。この講習で扱うテーマはこの「項目」である。

企業にとって重要な項目を決める作業とはどういったものか。例えばマーケティング会社であれば、統計データの中でも住所がわかれば地域ごとの商品ニーズがわかるだろうし、小売店であれば購入動機となった媒体が一番重要ということもあるかもしれない。

これは企業によって様々だが、要は自社にとってキーになるデータをより細かく分類し、把握することが必要なのである。

なぜ必要かといえば、例えばCRMツール導入を検討するときに、どの項目をキーにして検索するかということが重要となる。地域で検索して情報を閲覧するのか、提供するサービス名で検索して現在の状況を確認するのか。こうした情報を確認するためのキーを決めておかないと、CRMツールの得手不得手を見極められずに、導入後に残念なことになることがある。

環境を変えるときに、自社のキーになるデータを扱える方法を把握しておけば、情報管理に置いては最適な選択が可能になるのである。

終わりのはじまり

どんなシステム、どんなプラットフォームもいつかは終わりを迎える。そのためには新たな仕組みを作った段階で「この仕組みが消えてなくなったら。」を考えておく必要があるだろう。

○5年後を見据えて

5年後のITシステムは一体どうなっているのか。その姿を想像するのは難しい。

しかし、これまでに述べてきたことを考慮すれば、正確な未来を予測することはできなくとも正確な対処方法を検討することは可能なはずだ。

情報システムのプラットフォームが変化した時に、どのようにデータを扱うのか。プラットフォームに依存しないデータのあり方とは。これらのことはすでに述べてきた。データをできるだけシンプルに、自社にとって重要な情報とキーとなるデータを見極めることが重要となる。

大事なことが二つ以上あると、それだけで選択の必要が出てくる。選択の幅は単純に2倍ということではなくかけ算で増えて行くことになる。プラットフォームを乗り換える際には望みをすべて叶えるシステムに出会えるとは限らない。そのような状況で迷わないためには選択基準は一つに絞っておくことが望ましいのである。

○断捨離のススメ

ここのところ流行っている断捨離。

これはコンピューターのデータに置いても重要性は変わらない。上でも述べたように情報を整理し、柔軟に且つ迅速に運用するためにはシンプルな形を保つ必要がある。

それには重要度の低いものを片っ端から捨てて行く必要がある。

例えば古いデータ。

いつか使うだろうと何年も前のデータを保管しておいて、ディスクを圧迫していることがあるかもしれない。しかし、これらを保管しておくことはディスクスペースを圧迫する以上の弊害があることに、多くの人は気づいていない。

過去のデータというのはその当時のまま形を変えずに残っている。そうすると、その状態に引っ張られて、データの形を今に引きずることになる。システムのリプレースを行なうといったときにも、現時点で必要ないような機能でも、過去のデータを残すために組み込まなければいけないかもしれない。

そして、データを検索する際にも、過去のデータ分だけインデックスが増えるので検索に時間がかかるようになる。これは単純に作業の効率を落とす要因となるだろう。

こういうときは思い切って2年以上前のデータを削除するなどの対策をとるといい。決して重要度といった主観的な基準は持ち出してはいけない。

もし、その中にあったデータが必要になったとしたらもう一度作り直すといい。例えばそれが顧客データなら、改めて顧客と向き合い最新のデータにバージョンアップをするのだ。そもそも、相手も時間とともに変化しているので古いデータをもとに対応すると相手とこちらの間にギャップが生じてしまう。データを捨てた後で必要になったときは、最新の情報を得るためのいい機会だと割り切る方がよいだろう。

○スマートシステムでいこう

今回はクラウドコンピューティングを引き合いに、今後のIT環境の変化と、それに対応するためのシステム、情報のあり方を考えてきた。これから先、さらにクラウドコンピューティングが浸透して行くことは間違いない。しかし、コンピューターの省エネ、省スペースが、高速化がこのまま進んで行けばシステムはクラウドからローカルに戻ってくることもあり得ることを述べた。

この講習のテーマである「クラウド破滅へのカウントダウン」の意味するところはクラウドコンピューティングが破滅するということではない。クラウドコンピューティングに依存した結果、それに振り回された企業が破滅してしまうというシナリオのことを指し示している。

それはカード破産とよく似た状態である。

自分が使っているモノがどういったものであるか。その裏にどういった仕組みがあるか。これを理解せずに使い続けるといつの間にか機能不全に陥ってしまうのである。クラウドコンピューティングであれば、安価であったり、ものによっては無料で使えるものまであり、コストゼロで実現する夢のようなシステムというイメージも持たれるだろう。

しかし、システム自体のコストがゼロ、もしくは十分に低い場合でもそれを利用する時間は大きなコストである。そして、クラウドコンピューティングを使っていても利益が出なければ時間というコストだけを消費することになるのである。

時間は目に見えず、いつの間にか消費されて行く。だからこそ、意識して管理をする必要がある。

目に見えるコストだけにとらわれ、実体のない希望を持ち、無限の生産性を錯覚し続けることでゆっくりと企業は死んで行く。そうならないためには情報を、主体的に運用して行く力が必要なのである。

これからの時代は今まで以上に変化が早く訪れるようになる。その中で主体性を保つためには余分なものを捨て、本当に必要なものだけを手にしてスマートに立ち回ることが求められているのではないだろうか。

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