オルタナティブ・ブログ > ライフネット生命代表取締役会長 出口治明の「旅と書評」 >

これからの時代を生き抜いていくには、自分のアタマで人とは違うことを考える能力が必要になると考えています。人とは違うことを考えるためには、多様なインプットが必要です。人間は「人から学ぶ、本から学ぶ、旅から学ぶ」以外に学ぶことができない動物です。このブログでは、特に若いビジネスマンに向けて、わたしが今読んでいる本やオススメの旅について紹介します。

書評:『戦略読書日記 〈本質を抉りだす思考のセンス〉 』

»
第12回_戦略読書日記.bmp
楠木 建 (著)

これは、紛れもなく格闘技である。一読して、そう思った。

22冊の本が取り上げられて、一見、書評という体裁をとってはいるが、立ち現われてくるのは、楠木 建という個性豊かな研究者が、体臭をムンムン発散させて、広いリングを縦横に動き回り、汗だくになりながら、相手(読者を含む)に的確なストレートパンチを浴びせ続けている姿である。まことに小気味が良い。江戸っ子の面目躍如たるものがある。

「花のお江戸のイノベーション」は、「日本永代蔵」を俎上に載せているが、「コンプライアンスもJ-SOXもIFERSも(中略)関係ない剥き出しのド商売(中略)。今だったら、500か月連続で丸善丸ノ内本店の1階に常時山積みになっている、というイメージである」。こうまで書かれたら、泉下の西鶴も苦笑いしているのではないか。「さすが西鶴、さすがの才覚」と「日本永代蔵」に描かれた現代にも通じるビジネスの本質が見事に抉り出されている。「『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の戦略思考」では、石原莞爾の「最終戦争論」が相手となる。パッションとリアリズムが拮抗していた桁外れの石原は、また徹底して歴史に学ぶ人でもあった。「歴史は文脈に埋め込まれたロジックの宝庫である」。この著書の一文は、歴史の定義の1つとして、世界に通用するであろう。

「グローバル化とはどういうことか」では、僕も大好きな若桑みどりの「クアトロ・ラガッツィ」が取り上げられる。グローバル経営者ヴァリニャーノと破格のリーダー織田信長、二人の戦略ストーリーが重なって生まれた天正遣欧少年使節プロジェクト。しかし、その結果は悲惨なものとなる。信長の横死とヴァリニャーノの人事の失敗。そして日本は鎖国へと突き進んでいく(なお、鎖国について、著者はポジティブな面を認めているが、僕は若桑さんの否定的な見解を支持したい)。しかし、「グローバル人材よりも経営人材」という著者の結論には、誰しも異論を挟む余地はないだろう。そして、巻末のロング・インタビュー「僕の読書スタイル」が、これまた秀逸である。何しろ、ヘンリー・ダーガーまで飛び出してくるのだから。このような素敵な本を世に送り出した編集者に深く感謝したい。

蛇足ではあるが、拙著がこの22冊の中に入れてもらっているのは、望外の幸せ以外の何物でもない。
Comment(0)