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書評:『聖書考古学 - 遺跡が語る史実 』

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聖書考古学 - 遺跡が語る史実

長谷川 修一 ()

世界で最も読まれている書物は何か。それは、聖書において、他にはない。中でも、アブラハムの物語、モーゼの出エジプトや十戒、ダヴィデ王やソロモン王の栄華等は、果たしてどこまでが伝説で、どこまでが史実なのか、判然としない向きも多いだろう。

本書は、現地調査に従事する新進気鋭の著者が、こうした疑問に真正面から取り組んだ力作である。「1章:聖書はなぜ書かれたか」では、古事記との対比にまで言及し、「2章:考古学は聖書について何を明らかにするか」では、考古学の限界をきちんと整理し、「3章:アブラハムは実在したか」「4章:イスラエルはカナンを征服したか」「5章:民族の栄光と破滅」では、旧約聖書に描かれた歴史を、1つずつ、丁寧に検証していく。一見地味な記述が連続しているような感じを受けるが、主観に引きずられることなく、できるだけ歴史を客観的に叙述するためには、こうした正統的な取り組みが必要不可欠だと思われる。南北に分かれたダヴィデの王国では、南ユダ王国よりも、北イスラエル王国の方が栄えていたという記述も説得力に富む。

6章:一神教の形成からキリスト教へ」は、やや足早な感じが否めないが、このテーマは聖書考古学というジャンルから、少し離れているからだろう。「7章:聖書学と歴史学・考古学」では、現在の聖書学・歴史学、考古学の地平と、これからの展望がコンパクトにまとめられている。巻末の読書案内も、もっと学びたい人には、とても親切である。

本書の副題は、「遺跡が語る史実」である。著者は、聖書を題材として取り上げているが、ここで展開されている議論は、文献史料の研究と遺跡発掘調査に基づくアプローチの双方から、より多面的に歴史の真実に迫ろうとする、本格的な現代歴史学の方法論そのものである。歴史好きの皆さんにお勧めする所以である。

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