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これからの時代を生き抜いていくには、自分のアタマで人とは違うことを考える能力が必要になると考えています。人とは違うことを考えるためには、多様なインプットが必要です。人間は「人から学ぶ、本から学ぶ、旅から学ぶ」以外に学ぶことができない動物です。このブログでは、特に若いビジネスマンに向けて、わたしが今読んでいる本やオススメの旅について紹介します。

書評:『トルコ絨毯が織りなす社会生活―グローバルに流通するモノをめぐる民族誌』

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田村 うらら (著)

トルコに旅したら、恐らくほとんどの人は、トルコ絨毯を手に帰路につくことになるだろう。そういえば、わが家にも、小ぶりのトルコ絨毯が3枚、鎮座している。
トルコ絨毯はかなり古くから、グローバルに流通してきた。ベッリーニやカルパッチョ、ホルバインの名画にも描かれているのである。本書は、このトルコ絨毯というモノと、トルコの婚姻という慣習を「経(たていと)」と「緯(よこいと)」にして、長期のフィールドワークをベースに、じっくりと織りこんだ民族誌である。著者の博士論文をもとに、加筆修正されたものであるだけに、みずみずしいばかりの問題提起や仮説が随所に見られ、そのたびに、目からウロコが落ちる思いがした。

舞台はトルコのイズミルの南方のミラス地方であるが、「伝統的な」絨毯づくりが盛んになったのは、かつての商品作物であったタバコと綿花がすたれ、「労働力を驚くほど必要としない」オリーブ栽培が始まった1970年代以降であると言う。伝統産業は決して右肩下がりに衰退していく訳ではないのだ。ヤマックと呼ばれる織り工程の労働交換システムも、盛んになったのは、実は1985年頃以降である。村に住みついた本格的なフィールドワークでなければ、「この地方には昔からこうした伝統が受け継がれてきた」といった1行で片付けられたに違いない。本書はフィールドワークならではの強みを存分に活かして、共同体や伝統産業の在り方に鋭いメスを入れることに成功している。

グローバリゼーションとの関わりも示唆に富む。ある村では、ミラス地方の伝統とは全く異なる絨毯が織られているが、それはギリシャ人のデザイナーが20世紀初頭に持ち込んだデザインが元になっていることが明らかにされる。また、市場のアンティーク嗜好が、薬品やバーナーによる絨毯加工工場を誕生させた経緯も、興味深い。

加えて、トルコの婚姻慣習が、これまた、誠に面白いのであるが(駆け落ちもある?!)、それは読者の楽しみのために(紹介せずに)、とっておくことにしよう。図表やカラー写真も豊富で、学術書にも関わらず、文章もこなれていて読みやすい。
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