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これからの時代を生き抜いていくには、自分のアタマで人とは違うことを考える能力が必要になると考えています。人とは違うことを考えるためには、多様なインプットが必要です。人間は「人から学ぶ、本から学ぶ、旅から学ぶ」以外に学ぶことができない動物です。このブログでは、特に若いビジネスマンに向けて、わたしが今読んでいる本やオススメの旅について紹介します。

書評:『月:人との豊かなかかわりの歴史』

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月:人との豊かなかかわりの歴史

ベアント ブルンナー (著), 山川 純子 (翻訳)

 連休中に読んだ本の1冊。物心がついた頃、「将来は何になりたいの?」と訊かれる度に、「ロケット学者」、「フォン・ブラウン博士(この本では、あまり高く評価されてはいないが)のようになって、月や火星に行くんだ」と答えた自分を思い出してしまった。そういえば、本に親しんだきっかけは、「太陽はとても重そうなのに、何故落ちてこないの?」としつこく尋ねる僕に閉口した両親が、「なぜだろう なぜかしら」という本をあてがってくれたことが、そもそもの始まりだった。「石にひもを結びつけて、ぐるぐる回すと落ちてこない」といった説明を読んで、いたく納得した記憶がある。家の前が山という田舎に育ったので、虫や植物を採集したり、星空を眺めるのがとても好きな子どもだった。もちろん、ジュール・ヴェルヌも大好きで、本書にも取り上げられている「月世界旅行」も、愛読書の1冊だった。

 ところで、この本は副題にもあるように、月と人との豊かなかかわりの歴史を紐説いたものである。月の起源についての最新の学説(火星程の大きさの天体が地球へ衝突し、その衝撃で飛散した両天体の物質が集結して月となったという巨大衝突説)も紹介されているが、ページの多くは人が月をどう認識してきたかという文化史的な側面に光が当てられている。かぐや姫やウサギの餅つきについての記述が欠けているのはやや残念だが(著者が外国人なので仕方がないが)、古代から現代に至る世界各地の月と人とのかかわりが過不足なく達意の文章で語られており(訳者の力量でもあろうが)、読者を飽きさせない。本書に添えられた多くの図版も、各々が極めて画趣に富むものばかりである。結局のところ、著者が末尾に述べているように、「月と私たちの関係は、私たちが地球をどう理解し、私たちの宇宙での位置をどう考えるかを反映し続けるだろう」。

 本書最後の13章は、「アポロ以前・以後」と題されている。ケネディ大統領の提唱によるアポロ計画の成功によって、月はもはや謎ではなくなった。しかし、アポロ計画は、同時に月着陸陰謀説という奇怪な鬼子をも産み落とした。明白な科学的事実を前にして、なおこのような陰謀説が一定の支持を集めるのは、現代社会が直面する1つの病理現象に他ならない。月着陸のような自然科学上の出来事でさえこうなのだから、社会科学上の出来事なら「むべなるかな」である。本書の陰謀説に対する分析は、私たちに多くの示唆を与えてくれるように思われる。

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