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企業のイノベーションを成功させるための出島戦略に必要なこと

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経済産業省は2019年4月15日、「第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会」を開催し、第四次産業革命に向けた産業構造の現状と課題、既存企業の構造変革について、議論・検討を行っている。今回は、本部会の資料を元に、日本の大企業の構造改革と新規事業について考察する。

日本企業は世界と比べて、労働生産性や構造改革の遅れが指摘されている。日本企業は、企業年齢が古いほど利益率(ROA)が低下している一方で、米国企業の場合は、高い利益率を維持し、むしろ高めているという状況だ。

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出所:経済産業省 第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会 2019.4

米国の経営学では、経営学における企業の構造変革の成功要件では、既存組織が新規事業の創出に成功するためは、「既存事業とは異なるマネジメント」が必要とされている。

ハーバード・ビジネス・スクール客員起業家のエリック・リース氏の「スタートアップ・ウェイ(2017年)」では、既存事業と新規事業のマネジメントでは、構成要素である「人」「文化」「プロセス」「責任」の構成要素が異なる点を指摘している。

新規事業の創出には、組織内に新規事業の体制を用意し、起業マネジメントを行う必要性があるという。

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出所:経済産業省 第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会 2019.4

企業では新規事業開発が、既存事業のマネジメントの枠組みの中で事業を行うことで、なかなか新規事業がうまくいかないというケースも多い。

日本経済団体連合会(以下、経団連)が2018年11月に発表した提言では、既存の組織には、複雑な承認プロセスやルール、しがらみなどが多く、迅速で大胆な取り組みには適していない場合が多いという課題をあげている。

そこで、注目をされつつあるのが既存の事業のマネジメント体制から独立した「出島」を活用した新規事業の取り組みだ。「出島」とは、江戸時代に海外諸国との唯一の貿易の窓口として築造された人工島である長崎県の「出島」をなぞらえた言葉だ。

経団連では、本体トップの意思のもとで、「出島」に権限、人材、資金、技術を投入し、全権委任かそれに近い形で自由に活動してもらうことでイノベーションを行うことが有効であるとしている。

企業において「出島」による新規事業やイノベーションの取組みが広がりつつある。企業幹部向けのアンケートでは、約2割が「出島」を設置しているという。半数以上は「国内で社内」に設置だ。

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出所:経済産業省 第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会 2019.4

企業の「出島」で有名なのは、デンソーのコネクテッドカー向けなどのソフトウェアの開発などを行うデジタルイノベーション室の取り組みだ。デンソーのデジタルイノベーション室は、横浜市に拠点を構える。本社の愛知県からは適度に離れた環境にあり、独自のカルチャーを持ち、人材も外部から積極的に採用し、外部との共創も図りながら、アジャイル開発などによるスピード感のある体制で開発を行っている。

大学や国の研究機関においても「出島」の検討が進められている。政府は2019年5月13日、総合科学技術・イノベーション会議を開催し、大学や国の研究機関が本体から切り離した「出島」のような独立研究機関を設立しやすくする制度を整備する。これにより、共同研究機能などの外部化による民間企業との協力強化や研究開発の効率化を狙う施策を展開する計画だ。

政府では、大学や国の研究機関の「出島」化により、オープンイノベーションの活性化、資金の獲得、大幅な研究開発のスピードアップや、研究者などへの成果に応じた適切な報酬につながるといったメリットをあげている。

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出所:総合科学技術・イノベーション会議 2019.5


既存企業のイノベーションを成功させるためには、新規事業と成熟事業を完全には分離させず、「知の深化」と「知の探索」をバランスよく推進する「両利きの経営」が重要であるという指摘もある。

チャールズ・オライリー氏(スタンフォード大学経営大学院教授)と、マイケル・タッシュマン氏(ハーバード・ビジネス・スクール教授)による著書「両利きの経営(2016年)」だ。

「両利きの経営」は、

・既存事業の効率化と漸進型改善(知の深化)
・新規事業の実験と行動(知の探索)

の両者を同時に行うことが必要としている。

その理由としては、
① 既存企業の事業運営は、事業が成熟するに伴い「深化」の実施に偏る傾向があること
② 「探索」の実施には、「スピンアウト」ではなく、既存の組織能力と資産の活用が重要であること

をあげている。

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出所:経済産業省 第5回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会 2019.4

目先の利益にとらわれず、知識の幅を拡げつつ、深化させる「バランス」感覚をもった「両利きの経営」が、企業年齢を重ねても事業を拡大し、利益率をあげていくためのモデルの一つとなるだろう。

日本の企業における現代版「出島」は、今後の日本の産業の新規事業やイノベーションを生み出し、構造改革を進めていくための、日本の未来の産業発展を占う上でも重要な位置づけとなるだろう。

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