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ICT業界動向やICT関連政策を基に「未来はこんな感じ?」を自分なりの目線で「主張(Assioma)」します。

SIMロック解除とSIMロック解除後の未来を考察する

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4月2日に総務省と携帯事業会社四社がSIMロック解除に合位との記事が発表され、世間ではSIMロックの話題で持ち切りですね。

そこで、今回はSIMロックが解除されて、一体どういった変化がおきるのかを考察してみたいと思います。

■SIMロックとは?
 SIMカードに対応した携帯電話端末で、特定の通信事業者(キャリア)のSIMカードしか利用できないようにかけられている制限のこと。
 SIMロックの方式には現在二種類あります。
 ・事業者ロック方式
  特定の通信事業者しか利用出来ないようように制限がかけられています。この方式では、例えばNTT DoCoMoが販売している携帯電話同士であれば、挿入されているSIMカードを入れ替えれば利用が可能です。しかし、異なる通信事業者の販売している携帯電話にSIMを差し替えても利用出来ません。

 ・ユーザロック方式
  最初に挿入されたSIMのみ利用可能になります。一度特定のSIMを認識した携帯電話では、例え同じ通信事業者のSIMであっても、利用する事は出来ません。

■現状の携帯電話規格に対する影響
 :現状の携帯電話でSIMロックが解除されると、好きな携帯電話を購入して、通信事業者を自由に選ぶ事が可能なのでしょうか?実はそうではありません。下図に現在の通信方式でSIMロックが解除されたら、どういう状況になるのかをまとめています。下図の青い部分がSIMロックが解除される事で、通信事業者の束縛から逃れる事が出来る部分です。

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 ①SIMロック解除の影響
 SIMロックの部分が解決されても、DoCoMo、ソフトバンクは通信方式が同じであるため携帯電話を共有可能ですが、KDDIは両社と通信方式が異なるため、例えSIMロックが実行されても、KDDI用の携帯電話は他社の通信回線を利用する事は出来ませんし、逆も同じです。

 ②周波数の問題
 では、DoCoMoとソフトバンクであれば、SIMロック解除が実行されたからといって、本当に両社で自由に携帯電話を共有可能かというと周波数が異なるため、実際には利用する事が出来ません。

 ③アプリケーションの問題
 周波数に関してはマルチバンド対応の携帯電話が登場する事も想定されますが、更に大きな問題は、メールアドレスや、保存されているメール、各通信事業者が独自に提供しているアプリケーション等は、通信事業者が異なれば利用する事が出来ません。

 これらの点を考えると、マルチバンド対応の携帯電話が登場するまでは、事実上SIMロックは機能しません。過去にも競争を促進させるという意味で、かつてナンバーポータビリティが鳴り物入りで登場しましたが、実際には「電話番号よりメールアドレスが変わる方が嫌」という理由で、それ程ユーザの移動は発生しませんでした。DoCoMoの回線を契約しながら、色んな携帯電話を使いたいというニーズはSIMロック解除で満たせますが、シャープの携帯電話を利用しながら、DoCoMoやKDDIの回線をサービスプランに応じて変更したいといったようなニーズにはメールアドレスや、長期間使用の割引サービスの影響も有り、既存のユーザの移動を促進させ、事業者間の競争を活性化させる効果は限定的ではないかと考えられます。

 長期割引サービスや、メールアドレスの引継の心配が無い、新規に携帯電話を契約するユーザがSIMロック解除の一番大きな恩恵を受けると考えられますが、そもそも日本の携帯電話市場は既に一億台を突破しており、飽和状態と言えるので、どれ程の人にとって、有効になるのかは疑問を感じます。

■LTE時代では解決するのか?
 LTEはNTT DoCoMoが2010年末から提供を予定している次世代通信規格と呼ばれています。(日本では3.9G、海外では4Gと呼ばれています)KDDI、ソフトバンクも2012から提供を予定しています。

 LTE時代に最も重要な事は、全世界の通信事業者において、乱立していた無線規格がLTEと呼ばれる規格に事実上統一される事です。前述の図では、W-CDMA、CDMA2000等規格が異なっており、世界にはこの他にもGSMと呼ばれる通信規格が存在し、複数の規格が混在していましたが、LTEに統一される事で、機器の大量生産によりコストダウンや、海外とのローミングの利便性向上等が期待されています。

 LTEはまだ、日本国内ではサービスが開始されていない事もあり、本格普及にはまだまだ時間がかかる事が予想されますが、現時点で発表されている内容を基に作成した比較図がこちらになります。

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 先程と異なり、随分と青くなりました。無線部分のみが各社異なりますが、技術的にはマルチバンド対応可能な携帯電話が登場すれば解決可能です。
 実際には、アプリケーションや、識別番号等で差別化を図ってくると予想されますが、現時点では一般には公表されていないため、LTE時代になれば、当然新しいサービスなので新規契約が前提となりますし、SIMロックが実現されれば、通信事業者と携帯電話が事実上選択自由になり、ユーザにはメリットがありそうです。

 しかし、SIMロック解除は、本当にバラ色の未来を約束してくれるのでしょうか?

■ユーザ、通信事業者、端末メーカ、それぞれの視点で考察する
ユーザ、通信事業者、端末メーカそれぞれの視点で、メリット、デメリットを考えてみました。
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 ・見過ごされがちなサポート
見過ごされがちですが、通信事業者と携帯電話が切り離される事で、通信事業者は携帯電話のサポートを行う義務が無くなります。一般家庭で利用しているISPの契約と、パソコンの関係に近くなります。インターネットが繋がらない時に、みなさんはどうするでしょうか?例えばbiglobeのISPに契約していて、使っているパソコンはHPです。HPに電話するでしょうか?biglobeに電話するでしょうか?

携帯電話ではこういう心配は不要でした。DoCoMoの携帯電話であれば、不具合があればDoCoMoのサービスショップに持ち込めば親切に対応してくれます。

携帯電話の素晴らしい点は、IPアドレスの設定や、通信知識、ITの知識が無くても、誰でもインターネットを利用出来、安心、安全に利用出来る点です。これは通信インフラから、携帯電話、サポートまで通信事業者が一環して提供しているから享受出来る大きなメリットではないでしょうか。

携帯電話と通信事業者が切り離されてしまえば、携帯電話に何か問題がおきた時、このような一環したサポートを期待する事は難しくなるでしょう。このブログを読まれている方はみなさんITに精通した方でしょう。しかし、みなさんの両親や、子供達はどうでしょうか?

SIMロック解除は、こういったサポートについても議論すべきでは無いかと思います。

 ・メーカにとって本当にチャンスか?
 現在の日本の携帯電話の商慣行は、通信事業者がメーカーに端末機を発注し、通信サービスと一緒に販売します。言ってみれば、メーカにとって、携帯電話会社は大口顧客です。とはいえ、通信事業者の発想で端末を開発しなければならないため、自分達独自の発想で携帯電話を開発する事には制約がありました。

 晴れてSIMロックが解除されれば、自分達独自の端末を製造し、世界の市場を狙う事が出来るようになります。
 しかし、そんなに上手くいくのでしょうか?下図は2009年現在の世界の携帯電話市場のシェアを現しています。日本の携帯電話メーカは全部合せても約10%です。世界を狙えると強きで発言出来るような状態ではありません。通信事業者からの開発費支援が無くなれば、国内メーカによっては、携帯電話市場から撤退し、海外メーカの携帯電話が日本国内に溢れる可能も無いとは言えないのでは無いでしょうか。

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 ・携帯電話の性能が向上すれば、通信事業の設備投資が増加する
  下図は最近発売された、アンドロイド端末のスペック比較です。 
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   注目すべき点は以下の点です。
   - Display Resolutionは800 x 480以上
   - 全ての端末でWiFi搭載
   数年前の携帯電話の解像度と言えば320 x 240等が当たり前で解像度は数倍に向上しています。WiFi搭載も増大するトラフィック対策のためにデータオフロードを利用するためです。こういった最新の携帯電話のスペックに合せて動画サイト等のコンテンツサイズが大きくなっていけば、トラフィックが急増する事を意味します。

   通信事業者が自社の設備投資計画に合せて、携帯電話のスペックを計画出来ていれば、ある程度のトラフィック増加を制御する事は可能です。しかし、携帯電話のスペックはメーカが決定し、それらのスペックに合せてコンテンツプロパイダーがリッチコンテンツの提供に乗り出せば、トラフィック増加に対して、通信事業者は設備投資を行うしか、対応する術が無くなります。

   AT&Tはここ三年でモバイルトラフィックが5000%増加したと発表しています。iPhoneが原因だとは公式には名言されていませんが、iPhone発売時期から考えても、iPhoneによるトラフィック増である事は明白です。リッチな端末と、その魅力を引き出すリッチコンテンツは時に想定以上のトラフィックを発生させ、通信事業者に多大な設備投資を要求する事になるかもしれません。
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  増大したトラフィックに対して設備投資が発生した通信事業者はどうするでしょうか?投資したお金は回収しなければなりません。どこから回収するのか?きっとみなさんも経営者ならこう考えるのでは無いでしょうか?「ユーザの通信料金を値上げしよう」と。

■国家としてどうあるべきか?
 個人的には、SIMロック解除については賛成です。私も携帯電話が色々と選べるのは魅力的だと感じる人間の一人です。

 しかし、日本の社会には通信事業者を中心としたエコシステムが形成されていると感じています。
 NTTグループだけでも年間10.4兆円の売上を誇り、KDDIグループが3.5兆円、ソフトバンクグループが2.7兆円と、この三社だけでも16.6兆円という経済規模を持っています。これら通信事業者とそれに関連する、メーカ、SIer、コンテンツプロパイダー、といった様々な業種、企業が通信事業者を中心として企業活動を続けているのは事実です。

 もし、SIMロック解除が実現されたとしても、日本のメーカが世界の携帯市場をすぐさまトップシェアを取るとは考えにくいと私は思います。SIMロックが解除されなくても、iPhoneのような製品を自社努力で開発する事は可能ですが、実際国内からは登場していません。これがSIMロックが解除されれば状況が好転するとはとても考えられません。

 国内のユーザが海外製のスマートフォンを利用し、YoutubeやAmazonのサイトを閲覧しつづければどうなるでしょうか?
 国家という視点で考えれば、携帯電話は海外製品で、通信先も海外のコンテンツプロパイダーになり、日本の通信事業者はトラフィックを運搬するだけの存在となってしまいます。

 通信事業者は月額収入が見込める内需中心の安定した業界ですが、長期的には収入の柱である音声収入の低下、データ通信競争の激化によるARPUの低下という成熟した産業でもあり、新たな収益の柱を創造しようとしている状況です。SIMロック解除による垂直型ビジネスモデルから水平モデルへの移行シナリオは、今まで築いてきた安定した産業構造にほつれが生まれるきっかけになるかもしれません。

 極端な例のように感じられるとは思いますが、SIMロックや周波数の縛りによって、「海外からの黒船」の襲来を受けていないのもまた事実です。

 私も一消費者という視点で考えれば、SIMロックは歓迎したいですが、SIMロックが解除されて誰にメリットがあるんだろう?経済にはどういう影響を与えるんだろう?という視点で考えると、経済効果もあるとは思いますが、リスクも大きいのではないかと危惧しています。

 現状ではSIMロックは解除に向けて進んでいますが、私の心配事が稀有に終わり、経済活性化に繋がってくれればと心より思います。




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