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ICT業界動向やICT関連政策を基に「未来はこんな感じ?」を自分なりの目線で「主張(Assioma)」します。

Google ブロードバンドサービス参入の目的と影響を考察する

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先週、通信業界で大きく話題になったニュースがありました。既にご存知の方も多いでしょう「Google 1Gbpsブロードバンドサービス提供開始」です。

1Gbpsというサービス品目は日本国内では既にKDDIさんが提供しているので革新的というわけではありません。とはいえ、多くの方が指摘している通り日本のブロードバンドサービスの速度と品質は世界1であり、欧米に目を向ければ1Gbpsというのは画期的な速度です。

今回は、この「Google 1Gbpsブロードバンドサービス提供開始」について考察してみたいと思います。

■Googleの目的■
Googleの公式発表によれば、今囘のGoogle 1Gbpsブロードバンドサービス提供開始の目的は以下の三つのようです。

①次世代アプリケーション
 ユーザがハイスピードな回線を手に入れる事によって、どのようなサービスを望み、どのような使い方をするのかを見てみたい。
 
②新しい構築技術
 光回線ネットワークの新しい構築方法をテストしてみたい。そして、ここから得られたナレッジで他のネットワークの構築を支援したい。
 
③選択の自由と公開性の確保
 ユーザが自由にISPを選択する事が可能で、トラフィックを透過的に扱うインフラを提供したいと考えています。

Googleがこのように考える背景と、通信事業者に与える影響について考察していきます。

■回線速度向上に前向きに取り組めない通信事業者の事情■
米国で最も早いインターネット接続サービスは、Verizonの提供するFiOS Internetです。下り50Mbps、上り20Mbpsで最も早いと言われています。しかし、月額利用料金は$139.95と$1を90円で計算しても約1万2600円と決して安いとは言えません。月額3000円という日本で平均的な料金にしようとすると、下り3Mbps、上り768kbpsという低速な状態となってしまいます。

Fios

米国は国土も広いため光の回線を引っ張るだけでも大変なので、速度を簡単に向上させる事が出来ないと言われていますが、それ以外にも速度向上に前向きになれない理由があります。

こちらのグラフをご覧下さい。
Transit

これは、トランジットビジネスを展開しているキャリアの1Mbps辺りの収益を表したグラフになります。これによると、1998年には1Mbps辺り$1200だった収益が、2008年には$12となり、2014年には$1.2になると予想されています。

では、次にこちらの図を見て下さい。
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インターネット広告市場の収益の推移です。先程のトランジットビジネスと異なり、こちらは右肩上がりとなっています。
ビット辺りの収益率が減少するトランジットビジネスに対して、トラフィック増と比例するように収益を向上し続ける広告収入をベースとしたコンテンツプロパイダー。通信事業者にとっては自社の顧客のために懸命な競争を行い、品質、速度、価格の競争を続けてきましたが、太くなった回線上に大量にトラフィックを流し込み、キャリアにはお金を払わない集団が問題になってきました。いわゆる日本国内でも2006年頃から騒がれだした「インフラただ乗り論」です。

通信事業者にとって回線速度向上は誰のためにするものなのか?そこに首をかしげざるを得無い状況が、速度向上に前向きになれない大きな理由の一つです。日本の通信業界は低料金、で定額制でしかも高速であるという消費者にとっては良い事づくしです。しかし、定額制であるため加入者が増えなければ通信事業者の収益は変化しません。しかし、トラフィックが増えれば収入が増えないのに設備増強を行わなければならないという事態が発生します。欧米の通信事業者は日本のこのような状況を良く観察しており、同じような状態に陥らないためにも慎重になっているといった話もある位です。

■Webサービスのレスポンス向上に投資を続けるGoogle■
Googleはレスポンスタイムが500ms増加すればトラフィックが20%減少すると発表しており、Amazonはレスポンスタイムが100ms増加すると売上が1%に減少すると発表しています。この発表からも分かる通り、コンテンツプロパイダーにとって、移り気な消費者の心変わりを防ぐために、Webサービスのレスポンスタイムは自社の収益を左右する言っても過言ではありません。

そのためGoogleは過去から、Webのボトルネックになりそうなポイントに徹底的に投資を行っていました。HadoopによるMap&Reduceを用いた検索速度向上、WebブラウザChromeによるWebブラウザのレスポンス性能向上、パブリックDNSの提供による名前解決速度の向上、海底ケーブル増強による世界中の地域に対するレスポンスタイムの短縮。そして、今囘アクセス網と呼ばれるブロードバンドを次の「速度向上」の対象と考えたのでしょう。

■通信事業者に進化を求めるGoogle■
全てのメディアをWebに集め、リッチなコンテンツを提供し、より新しい体験をユーザに提供したいと考えているgoogleにとって「インフラただ乗り論」のために速度向上、低価格化へ前向きで無い通信事業者は自社の成長を止めかねない存在です。

例えば先程のFios Internetの例で一番安いサービス品目のユーザは下り速度が1Mbpsです。この品目を利用しているユーザにYoutubeのHD画質化を推進する事は難しいでしょう。

現在のyoutubeの画質で5000万人のユーザが月に50個の動画を見るとトラフィックは月に約20PBになると言われています。この20PBのトラフィック量にHD画質の映画であれば400万人のユーザが月に二本のHD映画を見ると同程度のトラフィックが発生すると言われています。Googleにとって、アクセス回線の速度向上はリッチな体験をユーザに提供するために避けては通れない問題なのです。

Webブラウザでも、OSでも自分達の成長を妨げていると判断すれば、それを解決すめために自分達の天才的な頭脳で「自分で作る」のがGoogle流です。アクセス回線がボトルネックになるなら、自分で作ってしまう。

日本国内の事例で言えば、YahooBB!が月額2,000円台という低価格のADSL環境を実現したおかげでインターネット市場が広がったように、アクセス回線を早く、安価に提供する事で消費者の支持を獲得し、通信事業者に「速度向上、低価格化」を推し進める圧力が生まれる事を期待しているのでは無いでしょうか。

■持たざる者の強みで安く提供する事が可能なGoogle■
Googleには高速な回線を安く提供出来る根拠があると思われます。

CATV事業者や通信事業者の提供するアクセス回線というのは、そもそもの生い立ちが映像配信用のネットワークか、電話用のネットワークから発達してきたため、「インターネット」のためのインフラではありません。

多くの場合一本の回線でインターネット接続、固定電話、映像配信(有料テレビ)の3つのサービスを提供するトリプルプレイと呼ばれるサービスを提供しています。最近ではこれに携帯電話との融合も考慮したクアッドプレイと呼ばれるサービスの提供が開始されています。

こういった一本の回線に複数のサービスを提供する理由は、消費者の生活に密着したサービスを提供する事で他社への乗り換えを防ぐのが主な目的です。例えば一度自宅に割り当てられた電話番号を月100円位安くなる他社サービスが登場したとしても、簡単に変更する事は簡単には出来ないでしょう。

しかし、消費者の囲い込みに有効なこの作戦ですが、こういった性質の異なるトラフィックを混在させる事で通信事業者はより多くの設備投資が必要になります。

更に通信業界は古くはISDNから始まり、ATM、DSL、光ファイバーと様々な技術進化が施されてきました。そしてそういった新たな技術が生まれる度に莫大な投資を行ってきました。時には吸収、合併でインフラが統合されたケースもあったでしょう。そういった歴史があるため余分な設備やそれに関わる運用コストも必要になります。

そして、勿論Googleにはそんな過去の歴史的な技術を維持するためのしがらみはありません。

恐らくGoogleは「インターネット接続」に特化し「安く作る」設計を行ってくることでしょう。そうする事により、より安価でより多くのトラフィックを流せるインフラを消費者に提供出来ると考えている事でしょう。

そもそも有力なコンテンツを多数保有するGoogleにとって、インターネット経由でGoogle Voiceを提供し、Youtubeを見て貰えばいい。アクセス回線とは道路でありデータを送信するためだけに存在し、その上を走る車(コンテンツ)に関与する必要は無いと考えてる事でしょう。

もし、インターネットに特化したインフラが登場したら?Googleはこう言いたいのだと思います。「IPの流れに一切の手を加えず、シンプルでオープンなネットワークを作る事に注力する事が高速で安価なネットワークを作る方法だ。コンテツは私達コンテンツプロパイダーにまかせて、あなた達はもっと他に注力すべき事がある筈だ」と。

■より強い者が更に強くなる■
以前にHyper Giantsの時にも使った言葉ですが、今囘のgoogleのブロードバンドサービスは規模から言って最大50万人であり、それ程大きな規模ではありません。アクセス回線で5万人から50万人と言えば地域によっては「県」のレベルです。

そのため、そこまでビジネス的な収益を目的としてるわけではなく、公表されている通り実験的な意味合いが強いと考えられます。(それでも50万人から毎月5000円の収入があれば、月25億円になりますが)

しかし、もし、ひと度googleが端末からアクセス、そしてコンテンツまで手中に納める垂直統合型モデルに乗り出してきたら、コンテンツプロパイダーや、通信事業者にとって大きな脅威となる事でしょう。

大きな脅威となりえる理由はたくさんありますが、私が想う主要な点は以下の三点です。

 1) 自社の提供するコンテンツは極めてレスポンスが早くなる。
   通信の中立性を守っていたとしても、自社内のデータセンタに対するアクセスとルータをホップする通信では、そのレスポンスに差が出るのは当然です。日本国内からウェブサイトに到達するまでには平均17hop、約120msecかかると言われています。これは複数のISP等を経由しなければならないインターネットの構造上仕方の無い問題ですが、アクセスから目的サーバまで全て自社の閉じた環境の中であれば、このような無駄なHopも発生しないので、快適なレスポンスタイムとなる事でしょう。
 
 そして、この速度の差はコンテンツプロパイダーであるGoogleにとって、大きなアドバンテージとなります。
 
 2) 大容量のリッチコンテンツを提供可能になる
   YoutubeのHD化を推進する事が可能になり、ユーザに対してよりリッチなサービスを展開する事が可能になるでしょう。そして同じコンテンツをSD画質で提供する他の動画サイトに比べて、より人気を獲得する事は明白です。
   
   ワールドカップをHD画質で見ながらTwitterで呟き、全世界で感動を共有する。そんな事が可能になるかもしれませんね。

   そして、もし、Googleのアクセス回線を経由して他社の動画コンテンツに接続しに行こうとしたら?他のISPとの接続箇所であるトランジット部分の回線を細くしてあげれば良いのです。細くといっても、他の通信事業者のアクセス回線と同レベルの帯域にしとあげれば非難を浴びる事は無いでしょう。トランジット接続部分の回線を安くするための施策であれば、それは「みんなやってる」事なのですから。但し一つだけ他と異なるのは、Googleが世界1のCPSであるという点であり、競争力が非常にあるという事だけです。
 
 3) ユーザ行動情報の収集が可能になる
   自分達のアクセス回線からインターネットに出て行くトラフィックの情報を収集する事により、より詳細な行動情報を得る事が可能になります。google以外のサイト、例えばアマゾン等での購入履歴をgoogleも取得可能になるという事です。これは通信の秘密の観点からも問題になる恐れのある部分ですが、「トラフィックただ乗り論」が問題になるにつれ、流れるトラフィックをお金に変えようとする動きも検討されており、欧州のBT等がこういう仕組みを一部導入し問題になりました。
   
   様々な問題はあるにせよ、広告収入を事業の大きな柱としているgoogleにとって、趣味趣向に合わせた最適なターゲッティング広告を行う事が可能になるこういった仕組みは広告費の値上げが期待出来るため事業収益の拡大にも繋がります。

Hyper giantsと呼ばれる程の人気コンテンツを持つGoogleがこれら三つのメリットを教授出来るようになれば、自分達の得意としてるビジネス領域を更に拡大する事になるでしょう。

そして、そもそもの事業領域が拡大し、収益が上がりこのビジネスモデルは行ける!と睨んだら、回線運営は言ってみれば広告を流通させるための販路の維持費と割りきって、ブロードバンド回線の全世界提供も視野に入れてくるかもしれませんね。

そうなった時には、通信事業者にとっても大きな脅威となる事でしょう。何故ならgoogleのビジネスの柱は広告収入であり、そこで収益を稼げるのならアクセス回線は限りなく安く提供する事が可能なのですから。

■コンテンツプロパイダーのインフラ進出はインフラの方向性を左右する■
 恐らく今囘のGoogleの目指す所はビジネス領域の拡大に繋がる要素は確かにありますが、そちらに本格参入する意志はまだそれ程強くなく、通信事業者に対する「アクセス回線はオープンであるべき」という事を訴え、「IPに特化したよりシンプルな構成を考えればもっと安価なブロードバンドサービスを提供出来る筈だ」それが出来ないのなら、「自分達でやるよ?」という牽制の意味が強いのではないかと私は考えています。

 トラフィックをマネジメントしたいと考える通信事業者と、インフラはオープンであるべきと考えるコンテンツプロパイダー。

 今までは通信事業者の思考で作られてきたインフラを、コンテンツプロパイダーの思考でインフラを作ろうとするGoogle。
 Googleは検索分野において、従来までの「複雑なアルゴリズムを用いて高性能で高価な一台のマシンで検索した方が早い」という常識を「単純なアルゴリズムでそこそこの性能で安くて何台ものマシンで分散して処理した方が早い」という新たな発想で歴史を塗り替えました。

 この時のように、従来までとは全く異なった発想のネットワークが登場し、ワクワクさせてくれるのではないか?そしてその動向次第では大きな業界再編もあるかもしれないといった予感も抱きながら今後の動向を注意して見て行きたいと思います。

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