オルタナティブ・ブログ > Mostly Harmless >

IT技術についてのトレンドや、ベンダーの戦略についての考察などを書いていきます。

Microsoft「フルスタック・クラウド」の強み

»

クラウドサービスのシェアと成長率が発表され、AWSが相変わらず高いシェアを維持していることが確認されました。市場シェア33%だそうです。続くAzureが18%ですから、未だ倍近い差が付いています。

世界市場シェア33%を維持するAWS、Microsoftは前年比3%増の18%、高い成長率で追いかけるのがGoogle、Alibaba、Tencent

ただ、成長率はAzureのほうが高いので、この差は縮まっていくでしょう。しかしこの図、よく見てみると、「Cloud Provider Competitive Positioning」の下に小さく(IaaS, PaaS, Hosted Private Cloud)と書かれているのです。

183d3704-2aa6-4f3e-8cb2-bb6dbf6b62bd.jpg出典:Synergy Research Group 2020.2

SaaSは別勘定?

つまり、SaaSが入っていないのですね。市場シェアの記事はよくありますが、多くはSaaSとIaaS/PaaSを分けているようです。同じSynergy Groupが昨年公表したSaaSマーケットのシェアでは、Microsoftは17%のシェアで、Salesforceを抜いてトップでした。

SaaS Spending Hits $100 billion Annual Run Rate; Microsoft Extends its Leadership

最初の記事の原文を読んでみると、IaaS, PaaS, Hosted Private Cloudの市場規模を年間$96Bと見積もっており、SaaSの$100Bと同じ規模です。とすると、Microsoftの売り上げ規模は18%+17%で35%とAWSと肩を並べることになり、SaaS/PaaS/IaaSを合わせたシェアで考えると、こんな記事にもなるわけです。

AWSが世界のクラウドサービス市場で首位陥落、マイクロソフトが逆転

まあ、ハードウェアの代替であるPaaS/IaaSと、パッケージソフトの代替といえるSaaSを直接比べるのは無理がある、という議論も当然あるとは思います(だからこそ分けて発表されているものが多いのでしょうが)が、クラウド移行にあたってユーザーの視点から「どの会社を選ぶべきか」を考える場合、むしろすべてのサービスが統合され提供されている方が便利なのではないでしょうか。

「フルスタック」の強み

MicrosoftがSaaSで強いのは、なんと言ってもOfficeがあるからでしょうが、それ以外にも、セキュリティや認証基盤、情報共有など、企業に必要なソフトウェアを一通り揃えているからと考えられます。フルスタックと言えば何でもできるエンジニアのことですが、Microsoftはまさにクラウドサービスを「フルスタック」で揃えていると言うことができ、これは他の会社にはない強みです。

AWSには、ストレージやデータベースなど単体でも使えるためSaaSとして分類されるサービスもありますが、Officeのような所謂「アプリケーション」はありません。GoogleにはG Suiteがありますが、Officeの牙城は崩せずにいます。GmailやGoogle Mapsは便利ですが、基本無償のサービスですし。。SalesforceやSAPは基本SaaSでPaaS/IaaSも一部提供していますが、まだそれほど大きくはありません。IBM/Oracleは既存顧客の囲い込みに精一杯という印象です。日本や中国のクラウドも、IaaSが中心で規模は米国勢におよびません。IaaSはスケールメリットの働く分野ですので、素のIaaSで今後追い上げていくのはなかなか大変だろうと思います。

Microsoftはなんといっても、企業が必要とするソフトウェアはほぼ取りそろえているところに強みがあります。IBMもカバー範囲としては似ていますが、なんと言っても、デスクトップは持っていません。デスクトップOSとオフィススイートで90%以上のシェアを誇ってきたMicrosoftだからこそ、フルスタックを実現できたということであり、他社には真似できない部分でしょう。GoogleのChromebookはデスクトップを狙う試みとみることもできますが、今のところWindowsを置き換えるところまではいっていません。

パートナーシップで優位性を強化

そしてMicrosoftのもうひとつの強みは、全方位とのパートナーシップです。自社サービスだけでも企業からの要求にほぼ応えられることに加え、特定のテクノロジーを利用したいという顧客向けには他社のテクノロジーも柔軟に提供すべく、Oracle、SAP、VMwareなど、各社とのパートナーシップを積極的に結んでいます。これらはMicrosoftのサービスと競合するものでもありますが、Microsoftにその拘りはありません。

Microsoftは、技術力と規模がモノを言うIaaSでもAWSを追い上げてきました。フルスタックに加え、他社との連携で柔軟さを見せるMicrosoftは、今後さらに強みを増していくのではないでしょうか。

 

「?」をそのままにしておかないために

figure_question.png時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。

アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや勉強会を開催しています。是非、お気軽にお問い合わせ下さい。

「講演依頼.com」の「2018年上半期 講演依頼ランキング」で、3位にランクされました!

Comment(0)