【シーズン3 第11話】パッカードベルとイスラエル
今回は、ゴールドラット博士の名言「愚か者は失敗に学ばず、才人は己の失敗に学ぶ。そして賢人は、他人の失敗からも学ぶのだ。」における「他人の失敗」から、イスラエルのオープンイノベーションを成功させるコツについて考えてみたいと思います。
事業は複雑な要素が絡まり成立していますから失敗研究を行う場合には、ひとつの側面だけでは捉えることは難しいと思いますが、特にイスラエルとのビジネスという意味でパッカードベルとNECの関係を考察してみます。ご存知のようにNECはPC-98シリーズで日本のドメスティック市場ではナンバーワンのシェアがありました。しかし、日本IBMから発売されたDOS/Vの出現でグローバル競争の波に押され、パッカードベルを買収することになりました。
そして、その顛末は...
「パッカードベルを買収したNECは、一気に世界のPC市場でも上位シェアを獲得できるものと期待したはずだ。ところが、その目論見は大きく外れることに。パッカードベルは、デルやゲートウェイなどの直販PCメーカーが急伸した煽りを受け、業績が悪化。2000年には、米国のPC市場からも撤退してしまった......。さらに2006年、NECはパッカードベルをゲートウェイに売却した。」 DECやパッカードベルはどこへ?
「日本ではパッカードベルNECのPCは主にダイエーや家電量販店、ネット通販で販売されたが振るわず、NEC本体も1997年発売のPC98-NXシリーズ以降はPC/AT互換機への切り替えが進んでパッカードベルNECの存在意義が薄れた。一方、上記の通り米国内のシェアは年々低下し、NEC本社からの度重なる金融支援にもかかわらず業績は好転せず、繰り返される支援を『年中行事』と揶揄されるほどだった。」 Wikiより
話は飛びます。
イスラエル人(ユダヤ教徒)はエンジェル投資のことを「プライベートインベストメント(個人投資)」と言います。決してエンジェル投資とは言いません。私たちは日常的に使っているカタカナ言葉の由来を日常的に意識することはありませんが、ユダヤ教徒は人(プライベート)と天使(エンジェル)は明確に違う、という感覚を持っているようです。同じようにGive&Takeという言葉は欧米的(キリスト教)なものですが、輸入されたカタカナ英語のまま日本人はビジネスで多用します。
- 欧米 ⇒ Give&Take
しかし、イスラエル人の金銭感覚はGive&Takeというより、Take&Take More Moreとイメージしておいた方が間違いありません。
- イスラエル ⇒ Take&Take More More
ベングリオン空港からヨーロッパの空港へ移動するとき、イスラエルでビジネスを行った欧米人と隣になることが多くありますが、彼らは口を揃えてイスラエル人はタフ・ネゴシエータだとため息をつきます。
パッカードベルの投資家であるBeny Alagemさんはイスラエル生まれです。そのためかイスラエルにR&Dセンターがあり、パッカードベルのそれなりの立場の人と私の友人と、3人でコーヒーを飲みながら日本のことを含めた雑談をしたことがあります。また、世界ではじめてIP電話を開発した会社のそれなりの立場の人から、日本へのMarket Entryの相談を受けたことがあります。不思議な事にそれらの会話の中でたびたび出てくる共通の日本人の名前があったのです。
「関本さんに会ってデモをするんだ・・・」
「関本さんに相談する・・・」
「関本さんは気に入ってくれるはず・・・」
「関本さん」というのは、当時NECの会長の関本忠弘さんです。
イスラエルで会社訪問をすると、「いつまで滞在するのか?」と必ず尋ねられますが、これは彼らがface to faceの契約合意のタイムリミットをイスラエル人が知りたいためです。それだけせっかちな人たちなので、即座に判断ができる人に群がります。関本さんにはたくさんのイスラエル人が口コミで群がり、三田のロケットビルを訪問したのかも知れません...
「日本のベンチャーキャピタリストのルーツである今原さんが、投資をしてはいけない経営者として以下の2つを挙げています。
- 髭を生やした経営者
- 名刺に○○博士とタイトルにしている経営者
日本人経営者という前提でしょうから、今の時代に通用しないルールかも知れませんが、この2つに共通するのは「虚栄心」や「見栄」が強い経営者だということでしょう。ユダヤ人が頭の上にキッパーという丸い布を付けている姿をご覧になったことがあると思いますが、頭上に神がいることを意識することで、「虚栄心」(vanity)などを抑えるためのユダヤ人の知恵のひとつです。」 鶏小屋オフィスへの投資と日本のベンチャーキャピタル
キッパーの習慣にあるようにイスラエル人は「虚栄心」「傲慢」を防止するシステムを持っています。そして、○○博士である経営者は普通にゴロゴロいますし、「テクニオン工科大学、ワイツマン研究所、ヘブライ大学、テルアビブ大学、ベングリオン大学」などに属した世界的な科学者やエンジニアであることは特に珍しいことではありません。
逆に日本では(今原さんは)、前述のように「名刺に○○博士をタイトルにしている経営者」は投資対象から外します。それだけ日本人は、権威や経歴に弱い人が多いのでしょう。
だとすると、権威や経歴を重要視するそれなりの立場の人が直接交渉し判断を行うのは好ましくありません。そこでは彼らがごく自然に考えるTake&Take More Moreが成立しやすくなり、繰り返される支援が「年中行事」になりかねません。
通常、失敗研究では最低でも20個から100個の失敗する可能性を列挙するのですが、残念ながら外部で手に入る資料もないので、ひとりの日本人として周辺のイスラエル人との会話と動きから感じたことをまとめてみました。
では、どうすればいいのでしょうか。
(それぞれの会社や人でやり方はいろいろあるのでしょうね。)
【シーズン1】デジタルのマーケティング
http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/1/
【シーズン2】マーケティングクラウドとマイクロサービス
http://blogs.itmedia.co.jp/CMT/2/
【Coffee Break】
https://blogsmt.itmedia.co.jp/CMT/coffee-break/