IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

コンピュータの問題の90%はケーブルが原因である

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■パーネルの法則

米Byte誌に「混沌の館にて」という人気コラムがあった。SF作家ジェリー・パーネル氏によるもので、日本では提携誌「日経バイト」に掲載されていた。米Byteが休刊した後も、パーネル氏個人のWebサイトで連載は続き、翻訳は日経バイト誌で継続された。日経バイト休刊後は、日経BP社のWebサイト「PC Online」で「続・混沌の館にて」として継続され、その後は同コラムの翻訳者である林田陽子氏が諸権利を取得し「新・混沌の館にて」として再復活したが現在は更新されていないようである。林田氏のサイトには「パーネル氏のパーネル氏のコラム執筆が中断したため、翻訳も中断している」とある。オリジナルサイト「the View from Chaos Manor」を見ると、更新はされているが、以前ほど技術的な内容ではないようだ。

「混沌の館にて」で有名なのが、PCに関する経験則や予測をまとめた「パーネルの法則」だ。連載では断片的にしか登場していないが、日経BP社から出版された単行本「ジェリー・パーネルの混沌の館にて」にまとまっている。

「パーネルの法則」の全容は、私の個人ブログで紹介したので、ここでは最も重要な法則を取り上げよう。

コンピュータの問題の90%はケーブルが原因である

パーネル氏は明言していないが、コラムを読むとコネクタもケーブルに含むようである。

 

■大事なケーブル

PCで最も重要なケーブルは電源ケーブルである。「電源が入らない」と悩む人の多くは電源ケーブルが挿さっていない。ノートPCが急に停止してしまうのも、たいていは電源ケーブルが挿さっていないため、バッテリ不足で休止状態に入るからだ。

「電源が入らない」トラブルで、私が耳にした最も強烈な現象は「ドッキングステーションだけがあって、PC本体がない」というものだった。これについては『新時代のITキャリア【システム運用管理編】第10回「ヘルプデスク」』として紹介した(現在はWebサイト自体が消えているので、機会があれば紹介したい)。

これは例外にしても、電源ケーブルのトラブルは意外に多いので注意してほしい。救いは、たいていの人が電源ケーブルの扱いに慣れていることだ。電源のつなぎ方が分からない人は滅多にいない。

 

■挿しにくいケーブル

SCSIケーブルは、挿しにくいケーブルの代表だった。初期の50ピンコネクタは非常に大きかったし、ケーブルも太かった。後に登場した68ピンコネクタは、コネクタに挿すときに接続ピンが折れやすかった(私もやったことがある)。

通常、SCSI機器にはコネクタが2つあり、PCから数珠つなぎ状に接続する。また、全接続の両端には「ターミネータ(終端抵抗)」を取り付ける必要があった。ただし、SCSIインターフェースカードにはターミネータ機能が内蔵されており、BIOS画面やPCカード上のスイッチで有効・無効を選択できた。SCSI機器にもターミネータを内蔵したものと内蔵しないものがあり、混乱の元であった(図1)。

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▲図1:SCSI接続の例

ターミネータを含めた接続ルールに違反すると、完全に動作しない場合もあれば、不安定な動作をすることもあった。

コネクタが大きくて、ケーブルが太く、ルールも複雑なSCSIが、クライアントPCで使われなくなったのは当然のことだろう。

ちなみに、ターミネータは電気的な動作を安定化するための機能である。水路に例えてみよう。終端がふさがれた水路に水を流すと、水が反射して波が起きる。終端で水を強制的に吸い込むと水量が減りすぎてしまう。水を安定して流すには、無限遠の水路を作れば良いが、それは物理的に不可能である。そこで、終端にちょうどいい量の水を吸い込む装置を取り付ける。これがターミネータの本質である。

 

■曲げにくいケーブル

ハードディスクインターフェースであるSATA(シリアルATA)を外部に引き出して接続する規格がある(eSATA)。しかし、このケーブル、細いくせにやたらと固くて曲げにくい。しかもコネクタが外れやすい。

私は一時期バックアップ用にeSATAを使っていたが、あまりにトラブルが多くUSB接続に切り替えた。中には柔らかいケーブルで、抜け防止機能付コネクタもあるそうだが、入手できていない。柔らかくて抜けないケーブルが一般化しない限り、普及は難しいだろう。

 

■抜けやすいケーブル

eSATAのケーブルも抜けやすいが、昔使っていた10BASE2(テンベースツー)というネットワークのコネクタも抜けやすかった。

SCSIと同様、数珠つなぎにし、両端にはターミネーターが必要だった。接続は測定器などによく使われるBNCと呼ばれるコネクタだった。BNCには緩み防止用の機能がついているにもかかわらず、なぜか緩むのである。

非常に不思議だが、同僚に聞いても「よく緩む」ということなので、一般的な現象だと思う。BNCは信頼性の高いコネクタのはずだが、なぜだろう。

PCを数珠つなぎするのが面倒なこともあって、10BASE-T(現在のLANとほぼ同じ形態)が登場してから使われなくなった。

 

■間違えやすいケーブル

間違えやすいケーブルというのもある。

古いMacintoshのSCSIケーブルは「Dサブ25ピン」と呼ばれ、IBM PCのプリンタケーブルと同じ形状だった。ややこしいことに、Macintosh用のプリンタにはSCSI接続のものがあり、よく混乱していた。さらに紛らわしいのは、モデムに接続するケーブルも「Dサブ25ピン」で同じ形状だった(IBM PC本体側のモデム接続端子はDサブ9ピンというひと回り小さなコネクタを採用していた)。

SCSIもIBM PC用プリンタもモデムも、電気信号の規格が全く違うため、互換性は全くない。

電話のケーブル(RJ-11)は、LAN用のジャック(RJ-45)に挿せる。LAN配線をするだけで電話も共用するためだったのだろう。RJ-11コネクタは、RJ-45で使う4対8本のケーブルのうち、真ん中2本を電話用に確保するためか、3番と6番が不自然に離れたペアを作る(図2)。

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▲図2:LANケーブル

実際には電話とLANは別々に配線されることが多いため、こうした配慮はあまり意味がない。単に挿し間違いを増やしただけだ。

ただし、LANケーブルの方が大きいのでRJ-45プラグは電話ジャックには挿さらないし、電話用のRJ-11プラグをLANジャックに挿すと隙間ができるので気付きやすい。現在は、PCに電話ケーブルをつなぐこともないため、全体としてトラブルは減っている。

 

■間違いは減ったが…

これでも、昔に比べるとケーブル関連のトラブルは減っている。太いケーブルや大きいコネクタ、間違えやすいケーブルが減ったためだ。たとえば、USBケーブルは取り扱いやすく、手探りでも挿入できる。見ただけでは上下が分かりにくいのは難点だが、間違えて挿せるよりもマシだ。新しいUSB規格では上下どちらでも使えるようになっているらしい。

それでも、依然としてケーブルのトラブルは多い。パーネルの法則が生まれた1990年代が「トラブルの90%」だとすれば、今は80%くらいだろうか。

最近の経験では、LANジャックにUSBケーブルを挿してしまうというトラブルがあった。全然違う規格だが、なぜか入ってしまう(延長用コネクタに挿してみたのが図3)。

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▲図3:RJ45とUSBコネクタ

規格としては微妙に違うようで、スムーズに入る場合と入りにくい場合があったが、どんな場合でも入ることは入るようだ。

 

■ヨコヤマの補則

ケーブルの問題は、徐々に解決しているものの、依然としてトラブル要因のナンバーワンである。そのことは多くの人が気付いているにもかかわらず、ケーブル関連のトラブルは絶えない。私もよくやるし、有名なエンジニアの方でもやっぱり間違えることはあるようだ。

そこで、パーベルの法則に対して、ヨコヤマの補則を提案したい。

コンピュータの問題の90%はケーブルが原因である(パーネルの法則)

そして、そのことに気付かない確率も90%である(ヨコヤマの補則)


本記事は、2011年6月5日に公開した記事に加筆したものです。

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