オルタナティブ・ブログ > 仕事と生活と私――ITエンジニアの人生 >

IT技術者教育に携わって25年が経ちました。その間、変わったことも、変わらなかったこともあります。ここでは、IT業界の現状や昔話やこれから起きそうなこと、エンジニアの仕事や生活について、なるべく「私」の視点で紹介していきます。

プログラマー定年○○歳説

»

今年も「AKB48選抜総選挙」があった。投票券はお金で買えるので、選挙というより株主総会だが、「選挙」の方が言葉として面白い。

AKB48も若干のメンバーの入れ替えと大幅な増加はあるものの、結成は2005年だからもう10年になる。山口百恵の活動期間が7年、キャンディーズが6年、ピンクレディーが5年、松田聖子は35年ほど活動しているが、正統派アイドルとしての活動は1980年から1985年に一時休業するまでの5年間である。

年齢層も高くなっている。1980年代までのアイドルの多くは20歳前後が多かったが、現在では数歳上がっている。30歳のグラビアアイドルだって珍しくない。

テレビ朝日の深夜番組「アイドルお宝くじ」で快進撃を続けるまなみのりさの結成は2007年8月だから丸8年である。見た目は幼いが、20代半ばの立派な大人である。

ファン層の高年齢化も進む。かつてアイドルファンの中心層は大学生だった。現在でも若いファンはいるが、中心層はおそらく30代である。既婚者も多い、推しの子を応援するTweetのタイプミスを娘に指摘された話も聞いた。

 

プログラマー定年

高年齢化と言えば、「プログラマー定年○○歳」説というのがある(あった)。○○は、40年前は30歳、30年前は35歳、20年前は40歳だったような気がする。もっとも、20年前は「ナンセンス」だとして、もう使う人はいなかったような気もする。今の時代「プログラマー定年」などと言うと単なるジョークである。あったとしたら60歳くらいだろうか(つまりふつうの仕事と同じである)。

私がIT企業に入社したのが1987年で、その時の会社の平均年齢は確か27歳くらいだったように思う。高専の卒業生も多く採用していたせいもあるが、それにしても若い。就職情報誌によると、他社も似たようなものだったはずだ。

「プログラマー定年」の根拠は主に2つある。1つは若い方が思考が柔軟とされること、もう1つは体力が必要なことである。しかし、後述するように現在は(あるいは以前から)どちらも成り立たない。

 

思考の柔軟性

「歳を重ねると思考の柔軟性がなくなり、生産性が落ちるから」というのはもっともらしい意見である。しかし、実際には年齢と思考の柔軟性はあまり変わらない。逆に、多くの経験を積んだ方が柔軟性に富むくらいである。

こんな話がある。

交通事故に遭った少年が運ばれてきた。しかし、担当の外科医は「私に息子の執刀はできない」と言って断った。しかし、少年の父親は医師ではない。どういうことか?

こちらはどうだろう。

坂道を荷車で進む2人がいた。荷車の前の人に「後ろにいるのは息子さんですか?」と聞いたら「そうだ」と答えた。後ろの人に「前にいるのはお父さんですか?」と聞いたら「違う」と答えた。どういうことか?

正解は、「医師も荷車を引くのも母親だった」である。ある程度仕事をしていれば、女性の外科医も、荷物を運ぶ女性も珍しくないことを知る。多くの調査で若年齢層の方が保守的なのは、社会経験が少ないためである。

世界で最初の航空券予約システムはアメリカン航空の「SABRE」で、IBMが担当した。IBMはその前に作った「SAGE」の経験を元にSABREを構築したという。SAGEは、米国の海岸線に設置された地上レーダーの監視システムである。SABREは、レーダー基地を航空券販売代理店と考えれば類似性が分かるだろう。よく気づいたものだが、この種の柔軟性は年齢と関係あるだろうか。

いくら高度になってもITは「道具」である。本当に重要なことはビジネスを理解した上でしか生まれない。若いことは、ビジネス経験が少ないことであり、基本設計をするにはむしろ不利である。

ITというテクノロジーが成熟していなかった時代、ビジネスの世界からITの世界に降りてくるまでに多くのステップが必要だった。そのため、IT下流では、仕様書を読む力があればビジネスのことを知らなくても良かったのかもしれない。

しかし、現在は「セルフサービス」の時代である。たいていの営業担当者はExcelを使いこなし、多くの人がマクロを駆使し、ピボットを使った複雑な集計をする。ITの最下流でもビジネスのことを知らずには済まなくなったため、若さよりも経験が大事になっている。

 

体力仕事

一方で、ITの仕事が単なる体力勝負ではなくなってきたということもある。私が就職した頃、SE(システムエンジニア)の残業時間は60時間くらいはざらで、100時間も珍しくなかった。もちろん、現在でもそういう職場はあるし、いわゆる「炎上プロジェクト」も存在する。それでも、以前よりは無茶な残業は減ったように思う。

実際、IT業界大手のSCSKでは「今年度(2014年度)においては、月平均残業時間20時間以下、有給休暇取得率95%(取得日数19日)以上を達成できる見込みです」としている(2015年3月6日付けプレスリリース「働き方改革・健康増進を促進するための人事制度改正」)。

SCSKの前身の1つCSKは無茶な残業で知られていたが、時代も変わったものである。

想像ではあるが、残業が減ったことには以下の理由が考えらる。

  • プロジェクト管理技術が進み、炎上前に対策が行われるようになった
  • プログラムの再利用技術が進み、開発効率が上がった
  • プログラマが高年齢化し、体力的にそもそも残業できなくなった

 

成長産業から成熟産業へ

労働者の平均年齢が上がり、残業が減るということは、成長産業から成熟産業へ進んだということだ。これは業界がつまらなくなったわけでは決してない。紡績だって鉄鋼だって、先端技術は常にわくわくする技術であふれている。そしてITの場合は、応用範囲が広い分、さらに面白い。

確かに初級ITエンジニアの仕事は確実に減る。ITの知識がなくても、ビジネスの知識があれば一通りのことができるようになるからだ。そこで大事なことは、ビジネスのことをより深く知ることに加えて、ITのことにもっと詳しくなることである。

特にITについては、今まで以上に多くの知識を身に付けたいものである。従来、「IT技術者はビジネスを勉強しろ」と言われてきた。ビジネス分野の人がITを勉強するより、IT分野の人がビジネスを勉強する方が簡単だったからだ。

しかし、これからは逆になる。ビジネスの人はITの最新技術をよく勉強しているから、IT技術者はさらに先の技術を知っておく必要がある。クラウドに代表される各種サービスの発達に伴い、簡単な機能は顧客が自ら実装してしまうようになった。IT技術者に求められるのはその先である。

IT-Bus
▲ITの守備範囲は狭くなる分、深くすべきである

「簡単な仕事」がなくなることから、危機感を持つITベンダーも多いが、発想を変えてみよう。従来の、全てのサービスを提供する「顧客」ではなく、簡単な仕事を任せることができる「ビジネスパートナー」と位置付ける。こうすれば、ITベンダーはさらに高度な仕事に集中できるはずである。

そういえば、アイドルとファンの関係もずいぶん変わった。昔のファンは純粋な「観客」だったが、現在ではPR担当パートナーとしての役割を期待されている。たとえば、通常、アイドルイベントでは写真撮影は禁止されているが、PR効果があると判断したときは別である。

ただし、あまりに高品質な写真が出回ると、無断二次利用などの問題があるため一定の制限はある。

IMG_2191S
▲アイドルユニット「まなみのりさ
携帯電話での撮影が許可され、PR活動が期待された

Comment(0)