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エヴァンジェリストと営業の違いとは?

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2012年頃からでしょうか。IT市場の重要なプレーヤーとしてエヴァンジェリストと言われる職務の方が存在感を発揮するようになってきました。それ以前にも同様の活動をしていらっしゃる方がいたかとは思います。主にコンサルタントですとか、プリセールス(プリセールスエンジニア)等と言われていたかもしれません。そうした方々の仕事に共通する目的は製品を販売することではなく製品を正しく理解し使うなら使う、使わないなら使わないとお客様自らが納得して判断するまでを支援すること、それをミッションとしているんではないかと理解しています。

営業と言われる人の中にあっても同様の活動を含む人は数多くいらっしゃるかと思います。では営業とエヴァンジェリストの違いはどのあたりにあるのでしょうか?

まず営業の方は特定可能な「誰か」というお客様との間で仕事が始まるのに対して、エヴァンジェリストの方は不特定多数のセミナーやソーシャルメディアはたまた競合他社とのパネルディスカッションなどでも活躍します。これまでは話せる動ける笑わせられる才能を持った技術者がそうした場面で活躍することが多かったかと思いますが、そのような伝道力という才能を見出された方がどんどんエヴァンジェリストになっているようです。反対に純粋に営業としてやってきた方が技術を勉強してエヴァンジェリストになるという例はないわけではないですが相対的に少ないように見受けられます。ITは覚えることが多いですので技術的な下地がないと極めるのが難しいからかもしれません。

もう1つの違いは営業は担当できるアカウント数が限定的であるのに対してエヴァンジェリストは非常に多くのお客様と接し様々な方面の事情に明るいという点です。営業は最終的には受注するところまでお客様に添い遂げますのでどうしても様々なお客様とお付き合いすることが難しくなります。一方でエヴァンジェリストは1回から数回程度のレクチャーを経て渡り鳥でいろいろなお客様を担当していきますので業界に共通する課題や進んでいる会社の悩み、遅れている会社の悩みなどに詳しくなります。その辺りは裏を返せば向いている人に自社製品を進めることで満足度を高め、向いていないお客様に自社製品を押し込んで不満を生むことを回避するということにつながります。

言い換えれば営業で行っている仕事を特定の人をハブとして濃縮したのがエヴァンジェリストと言えるかもしれません。IT業界の営業は集団猟法が一般的と思いますがエヴァンジェルすとはそのような「ハブ」の効果を最大化するためどうしても少数精鋭になります。なので人材の流動が起きると手痛いことになるでしょう。ただ製品が好きで好きでエヴァンジェリストになってしまったというような印象の方が多いので実際は流動の心配はあまりないのかもしれません。

さて、エヴァンジェリストの方をお招きして製品トークを伺うメリットとデメリットを上げるとすれば、メリットはやはり最新の情報に触れられるという点に尽きるでしょう。製品ベンダに多いパターンとして営業は社内の製品説明の資料を読んで知識を向上させますがその資料は作成にオーバーヘッドがあります。エヴァンジェリストは技術陣と距離が近く話しをしやすいですのでそうした遠回りをせずに色々と知識を増やしていきます。また、米国での製品発表会やコンベンションなどに参加する機会も十分に与えられます。自社だけでなく他社も含めてそうした会合に参加することもあるようです。会社によってはそのようにして得た最新の情報を社内に発信し営業を支援することもエバンジェリストの職務となっているようです。そしてその応用で生に近い情報をソーシャルメディアを通じて発信することで露出を高めることも期待されます。

デメリットとしては、これはデメリットというか当然な話なのですが、いくらエヴァンジェリストが他ユーザの事例や他社製品に詳しいといっても公平な目線のリサーチャーやコンサルタントではないため、そのエヴァンジェリストが推す製品に適合するかしないかまでは教えてくれるのですが、行きたい方向へ進むための助言を得ようとしても進む方向が同じでない限りはそれが得られないという点です。例えば自社の環境をなるべく変えたくないという前提である製品を導入することを考える場合、エヴァンジェリストに相談すると製品が適合しない旨を教えてくれるかもしれません。適合すれば色々と教えてもらえますが、適合しない場合の助言は当然ながらありません。あるいはそのような前提には将来性がないので環境を変える決心をし、当社製品を導入しましょうという提案が来る可能性も十分にあります。

当然ながらそのロジックに矛盾はなく、裏打ち十分な解決策になっていることでしょう。それを無料で提案してもらえるのでこれは大きなメリットでもあります。しかしそれは一社だけと話をする場合です。もし競合他社のエヴァンジェリストを招いて異なる結論が得られてしまうとどうでしょうか。そもそも自由競争の市場で複数製品が拮抗しているならばそれらの製品は互いに理に適った長所を持っているはずです。なので最終的にどちらを選ぶかはユーザ自身が色々と苦心して考え決めるべきことなのですが、強力なロジック展開と数多くの採用事例、そして頼りになりそうな導入秘話などの濃密な情報を複数同時に聞くとどれが良いかわからなくなってしまいがちです。この点は従来型の営業と技術のタッグによる提案よりもエヴァンジェリストのほうが強い火力を持ってて扱いに困ります。

少し昔の話ならば営業の熱心さで選ぶという事もあったのかもしれません。しかし今はIT投資について社内でしっかりとロジック検証や効果試算がされることが一般化してきています。そうした検討の場で互いに結論の異なる、しかし両方とも正しいと思われる提案が登場すると困りものです。例えば社内に営業1部と営業2部があってそれぞれAとBという製品が良さそうだと思っている場合にそれぞれの製品のエヴァンジェリストが提案資料を作成してきたとします。これを社内の情シス部門が事務局として裁定し、Aを採用すると決めて周囲を説得しようとすると、営業2部が持っている”B推しの資料”を負かさなくてはなりません。場合によっては社内のIT投資の方向性を決める大きな会合で営業2部のB推しの面々と、営業1部の援護射撃を受ける情シス部門が一騎打ちで議論するという可能性もあります。成功事例に出ているZ社は当社とこんなに環境が違うであるとか、以前に類似の特徴を持つ製品が不発した実績があるとか、そうした穴を発見したり、あるいはAという製品側の優れた点を強調して勝たせるための検討をしていく必要があります。(現場部署同士で戦うことも十分にあるとは思いますが、往々にして議論が終わらなくなったりするためにこの例では情報システム部門が事務局として比較を行い互いの部署に納得してもらう体制を想定しました)

こうした活動はもちとん過去から行われてきている一般的なものですが、エヴァンジェリストの活動によってその資料のレベルが格段に向上し、一介の社内IT部門では比較検討が難しいというデメリットが今後増えてくるのではないかと思われます。身近なところで例えると、自分個人のスマホの回線契約をメールアドレスや電話番号といった過去のしがらみなしにdocomo、AU、ソフトバンクから選ぼうとすると、似ているようで異なる料金体系や通信量制限などのメニュー設計が複雑で選ぶのが難しいというのと似ているかもしれません。(そして各社が各様に「自社が一番」の比較グラフを持ってくる)

なお営業1部と2部のディスカッションが平行線をたどりどちらの製品も甲乙つけがたいほどに優れているという結論になってしまった場合には、「ここ数年は営業1部のほうが売上高が大きいので営業2分は引っ込んでろ」といったようなやや乱暴な結論に着地させざるを得ないかもしれません。おそらく遺恨を残すと思われるので技術的な決着を付けられるならつけたほうが良いと思います。

エヴァンジェリストの方々はユーザ企業に新しくて有用な情報を数多くもたらすという点で大きな価値を生み出しています。しかし、どちらかというと伝統を色濃く残すタイプの日本企業あたりでは強力な提案に起因して新たな悩みが誕生している気配があります。そうした場面ではリサーチやコンサルタントが活躍し、技術的に公平な比較をするための支援業務という形で情シス部門をサポートし、エヴァンジェリストから提供される濃厚な技術情報を噛み砕いて消化することで以前よりも的確な判断ができるよう支援をする事例が増えているように思います。

望ましくは社内にそうした技術比較・採用検討ができる人材が育つことなのでしょう。そもそもエヴァンジェリスト誕生の背景はIT技術の高度化によりユーザ自身が自学自習のみで技術を知ることが難しくなってきたという点にあります。ユーザ企業の情報システム部門あたりに、広範囲にエヴァンジェリストの話を受け止め、解釈し、エンドユーザの各部門にわかりやすく展開するというような、エヴァンジェリストのカウンターになる人材がこれから必要とされてくる気がします。そうした人をなんというんでしょうね。説教者(Preacher)とか宣教師(Missionary)あたりですかね。ちなみに信徒(Believer)は一部で悪いニュアンスで使われるので難しいかと思います。あいつは○○ビリーバーだからなぁ、みたいな。相手がエヴァンジェリストなだけに使徒(Apostle)とかいうとふざけすぎでしょうか。日本のIT業界のオタク率が高いことを活かしてネルフ職員とか呼び始めると一気に定着する気もします。

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